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「……ご主人さま、起きてくださいご主人さま」
ここはとある名もなき森の中。
その切り開いた森の中に佇む、一軒の教会があった。そして教会に併設されている部屋の一室に眠る一人の少年。年の頃は10歳くらいだろうか。
窓から差し込む太陽の光に照らされ、綺麗に輝く金髪を程よく短めに切りそろえられ、顔立ちは10人中10人が美少年と答えるであろうと思うほど整っている。
服装は地味だが、しっかりとした作りの白い半袖半ズボンの衣服。今はベットの上でスーッスーッと胸を上下させながら眠っていた。
その少年の名はジークと言った。
そして、ジークを起こそうと、彼の体を揺らしている少女がいた。年の頃は17歳くらい。どこか困ったような表情を浮かべているその整った容姿は、まさに芸術品といっても過言ではない。
朝の陽光に照らされ、眩しいほどの輝きを放っている黄金のような金髪に、サファイアと見紛うほど美しい碧眼にスッと通った鼻筋、ほんのりと桜色の唇が艶かしい。
すらりとした肢体を包むのは膝丈までの紺色のワンピース、その上に純白に光るエプロンドレスはこれまた少女にとてもよく似合っている。そして首元にキラリと煌くブローチは少女の瞳と同じ碧。
そして頭を彩るのは真っ白なホワイトブリム。そう、いわゆるメイド服である。
その少女の名はシャルロットという。
「……う〜ん、あと5分」
「もうっ、そう言ってご主人さまはすぐに起きた試しがないじゃないですかっ」
起こされる側としてはお決まりのセリフをはいたジークはシャルロットに揺さぶられるもまったく起きる気配を見せない。
シャルロットはそのジークに表面上は呆れた視線を向けているが、内心はジークを毎朝起こせることに喜びを感じている。現に頬が緩んで愛おしそうにジークを見つめている。
「……じゃあ、ご主人さまが起きるまで、私も添い寝させていただきますね」
シャルロットはそういうと、ジークの被っていた薄い毛布を持ち上げる。そしてジークの隣へと寝転がるとメイド服の上からでも分かるほど豊かに実った胸でジークの腕を包み込んだ。
ふにょん──。
そう効果音が聞こえてきそうなほど柔らかい感触にジークは思わず飛び起きた。
「──ちょ! ちょっとシャル! そういうことは、す、好きあっている相手とじゃないとしちゃいけないんだぞ!?」
「……ご主人さまさえ良ければ、私はいつでも構わないのですが……?」
目を伏し目がちに、そして頬を赤らめながら色っぽくそう呟いたシャルロットを見て、ジークは思わず見惚れてしまった。しかしすぐにかぶりを振るとベットから飛び起きた。
「──わ、わかったよっ、起きればいいんだろ、起きれば……」
「はい、そうしていただけると助かります」
「……はぁ、今日もシャルは絶好調だね……」
「はい、私に不調な日などありません。……ご主人さまがいらっしゃるだけで、私はいつも元気でいられますので」
天使のような笑顔で微笑むシャルロットにまた見惚れてしまうジーク。彼は誰が見てもシャルロットにベタ惚れだった。しかし、それは致し方ないことなのである。
何故ならこのシャルロット。
容姿は言わずもがな、掃除、洗濯、炊事など家事全般はお手の物。それでいて謙虚で気遣い上手で優しくて思いやりがあるのだから、男だったら誰だってこのような魅力的な女性がいたら放っておかないだろう。
「……じゃあ、着替えるから出てってもらえるかな?」
「私は一向に構いませんが?」
「──いや、僕が構うから出てってよ!?」
「……ふふぅ、申し訳ございません、冗談が過ぎましたね」
口元に手を添えて上品に笑うその姿はまさに女神の如く。その見つめていたジークはやはり心を奪われたように見惚れていた。
「では、ご主人さま、朝食の用意はすんでいますので、お着替えが終わりましたら隣のお部屋までお越しください」
では失礼します──。そう口にしてペコリとお辞儀したシャルロットは扉を静かに開けると足音一つ立てずに優雅に出て行った。
パタリ──。
そして、扉の閉まる音。
ジークは可憐なメイドさんの気配が扉から離れて行くのが分かると、はぁーっと息を吐き出した。
「……もう、ご主人さまと呼ばれるような立場ではないのにな……」
そう口にし、ジークは悲しげに表情をする。
衣装入れから白を基調とした頭巾付きの修道服にチュニックを取り出すと、半袖の簡素な寝巻きから着替え始める。
その時、ジークはふとここに来た半年前の事をを思い出した。
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了