25話 魔王の話し、時々兄妹
アトルンタ辺境王都へ到着した一行。
現勇者、デニス・ロドメンソンとその家臣の元で10年の修行を終えたセルヴィ達。
魔王大陸へ向かう前にそれぞれの家族の元へ一時帰国をするのであった。
その後少々ユミリィの魔術練習を見たがかなり才能があるように見える。
10歳にして中級魔術を詠唱し使えるようになっていた。
家の家系は魔術の才に溢れる遺伝子でも含まれているのか、どういう事やら兄妹揃って可笑しいらしい。
中年になってやっと中級魔術を使えるようになるのがこの世界では珍しくない。
その為、魔剣術学校でも年齢に関しては一貫性が無いのだ。
うちの家臣はかなりレアな人種と言う事になる。
世界では既に次期勇者が現れた話しはこの10年で多方面に流れており、ロドメンソンさんの所在を知らない人は少なくない。
修行中何度も家臣入りの志願者は後を絶たなかった。
勿論中には強い人もいたが殆どは7歳の俺に叶わない実力だった。
ロドメンソンさんの所に弟子入り志願者も多く訪れたと本人が言っていた。
その度に実力を見たがどれも家臣に匹敵する者はいなかったらしい。
中には家臣に匹敵するかも知れないと言う人物もいたようだが、その殆どが魔王に強い憎しみがあったり、横柄な態度の者も少なくなかったと言う。
横柄な態度の者程力はなかったが権力があった為、中には用心棒を家臣にと言う者もいたらしい。
その殆どが貸してやっても良いと言う者や家臣に入れろと言う者が多かったらしい。
そういった輩は対外が魔王に土地を奪われた者で魔王を倒してもらい、領地へ返り咲こうとしている者が多かったとの事だ。
現魔王は数十年前、当時の現魔王を倒して魔王となったらしい。
倒された魔王と言うのは人間を酷く憎み、残酷な事を平気でしていたらしい。
ロドメンソンさんもあと一歩で勝つことが出来なかった。
その魔王を傷一つなく倒したのが現魔王。
現魔王は別格だ。
歴史上最強と言っても良い位の強大な力を有しているとの事だ。
ロドメンソンさんも何もしなかった訳ではないらしい。
何度か挑んだが結果は惨敗。
その度に瀕死の傷を負いながらも何とか生きながらえた。
不思議と現魔王に止めを刺される事はなかったとの事だ。
オルビーさん曰く、大人と子供のようだったと言う。
現魔王は人間。
だがその強さは最早破滅級だと言う。
まさに絶望が魔王となっている訳だ。
俺はまだロドメンソンさんを子供扱い出来る程出来あがっていない。
ロドメンソンさんが最後に挑んだのも10数年前との話しだ。
この10数年で魔王がさらに力を付けてしまっていたら手の付けようがないと言うのが現勇者一行の見解だった。
現魔王は魔王になると領地拡大をし出した。
だがなぜかはわからないが全く手をされていない国もあるらしい。
その手を出されていない国は国の王が魔王と繋がりがあり、嫌っている訳でもなさそうだが特段仲が良いと言う訳でもなさそうなのだ。
現勇者一行も何度か魔王大陸には行ったが、今も魔王大陸は広がっており、敵陣地が未だに拡大中であると言うで、潜入するも魔王の足元へ着くよりも遥か手前で自分達の存在をわかられてしまう。
なのに何故か毎度魔王へは着ける為、気付いていてもわかならない振りをしているのだろうとオルビーさんは言っていた。
何故か問うた事もあったが、魔王曰く「俺よりも弱い奴を何故マークする必要がある」との事らしいが魔王の言い分は正しい。
脅威にならない者をマークする必要は無いのだ。
しかも現魔王曰くロドメンソンさん達の事は嫌いではないらしい。
ロドメンソンさんも使命でなければ対峙したくない相手だし、嫌いな人間ではないとの事だった。
寧ろ好意すら抱いてしまうとさえ言っていた。
その理由について昔話してくれた事がある。
「現魔王は目の前に立っただけで自分よりも上位の人間だと認めたくなってしまうんだ。
王様って言うのは色んな人を見て来たが、力の話しじゃなく、この人には勝てない…と思ってしまうようなオーラを纏った王様がいる。
実際にそういうスキルを要している王もいるし、ユニークなのかスペシャルなのかわからないが何かしらのスキルの力なのかも知れない。
だが不思議と現魔王の雰囲気と言うのは不思議と親しみやすく感じてしまう。
もしあいつが魔王じゃなかったら俺は友人になってしまっていたかも知れない。
いや、なってたな。きっと。」
と。
その感想はオルビーさんも同じで魔王と言う名前の人間ってだけのとっつきやすいあんちゃんって感じなのだと言う。
対決は魔王VS勇者一行ではない。
魔王にも家臣がおり、オルビーさん達はその家臣と戦ったがどれも強く、人間が殆どだが中にはエルフやドワーフ、獣人族もいたと言う。
どれも強く、負ける者もいれば勝つ者もいたと言う。
惨敗ではあるが、中には勝利もいくつかあったようだ。
ギリギリ勝ったとしても魔王には叶わない。
家臣に勝った褒美として魔王と決闘する権利を得るも、既に精根尽き果てた状態でロドメンソンさんがボロボロにされて地べたに転がっている光景を見て魔王に挑もうと思う家臣は誰もいなかったのだと言う。
そんな異常な強さを持っていても偉ぶることもなく、気さくに話す現魔王と言う男に付いて行きたいとすら思ってしまうそうだ。
実際魔王は多くの国を滅ぼしており、多くの人を殺している。
そんな残虐な魔王なのにどこか憎めず、まるで国を滅ぼしている者は別にいて魔王は王座に座っているだけ…そんな考えも浮かんで来そうだと言う。
俺も魔王に何か恨みがある訳ではない。
使命もあるが、その絶大な力を持った魔王が支配領域を拡大しているのだから放っておいたらこの世界が全て魔王大陸となってしまうのだ。
そうなってはいけない為、俺やロドメンソンさんがいるのだ。
現魔王についてはまだまだわからない事が多く、不思議な人物だ。
俺もいつか会うだろう魔王。
その時はロドメンソンさんやオルビーさん達が感じたような感覚を俺も感じるだろうか…。
そんな事を考えながらユミリィの魔術練習を見た。
家に帰ると母は夕食の準備、ユミリィはそのお手伝いをした。
正直言うと俺はユミリィと二人きりになりたい。
何故なら前世の妹、優かも知れないのだ。
俺が転生したのだがら優だって転生する可能性は大いにある。
大いにある事だが、そうなった場合両親は?となる訳だ。
親不孝な事に両親は健在、兄と妹は死亡…そんな事になってしまったら俺は両親に謝っても謝り切れない。
優が悪い訳ではない。
だが両親の事を思ったら胸が痛くて夜も眠れない。
そう思った為、優か確認をしたいのだ。
タイミングを見つけられずにいると父が帰宅して来る。
うちの父は未だに息子にべったりらしい。
家に入り、俺を見るなり抱きしめられたのだ。
愛情が深い親で良かったと心から思ったのだ。
そして久々に父と剣術の練習をした。
結果は?って?
謂わずとも俺の勝ちだ。
俺が今や魔剣術ではロドメンソンさんにも勝てる事を明かすと、そりゃ叶う訳ないと笑っていた。
だが俺は小さい頃にした約束を忘れていなかった。
地べたにへたり込み、まいったと笑う父に俺は言葉をかけた。
「父さん。約束、果たしたよ」
「ああ。こんな相手が近くにいたら俺も耄碌せずに済みそうだ!」
と言い笑った。
そして言葉を続ける。
「だが魔王大陸、行くんだろ?」
「行くって言うか行かないといけないと言うか」
と俺は苦笑しながら返事をした。
「セルヴィ。親より早く死ぬなよ」
「心得ておくよ」
と父の言葉に返事をした。
約束の言葉を返さなかったのは保証出来ないからだ。
元々勇者の家臣であった父だ。
察したのか何も言わず、コクっと首を縦に振った。
魔王に挑むとはそう言う事なのだ。
両親が勇者の家臣であった事で俺は余計な言葉を選ばずに答え、それを理解してくれる。
それはとても楽であり、両親の理解がある事に感謝をした。
そして夕飯を食べながら、10年…いや、新しい家族が増えてから初めての一家団欒の時間を過ごしたのだった。
その日の夕食は楽しく、家臣とは違う意味での安らぎをもらったのだ。
夕食が終わり、食器を片付けて洗い場に食器を持って行こうとする妹を呼び止めた。
「優!」
だが妹は何事もなかったようにそのまま洗い場へ歩みを進める。
聞こえなかったのか…そうも思ったが、確実に聞こえる距離と聞こえる音量で俺は名前を呼んだ。
だが妹は反応しなかったのだ。
優なら反応したはずだ。
俺の考えすぎなのだろうか。
俺は改めて妹の名前を呼んだ。
「ユミリィ!」
すると妹は振り返り俺の顔を見た。
「ああ、今私の名前を呼んだのね」
ユミリィ、略せばユーだ。
それは間違いないが、そう解釈をすると言う事はやはり優ではないのか。
俺は一瞬そう考えた。
そしてテーブルに残っていたフォークを持って妹に近付いた。
「これ残ってるぞ」
と言い、手にしていたフォークを食器の上に乗せる。
「あ、気付かなかった!ありがとう」
と言い、妹はにっこり笑うとそのまま食器を洗い場まで持って歩いて行った。
俺の考え過ぎなのだろうか。
そう思った俺は、ユミリィが優である可能性を一旦は考えない事にした。
そしてその日は風呂に入り、久々に自室で睡眠の着いた。
埃っぽい匂い、少し体臭臭く、使い慣れたベッド。
俺は約10年ぶりに帰った実家で安息の時間を得たのだった。
いつもご愛読ありがとうございます。
中々勇転は数字が伸びません。
が、これからもっと面白くなって行くので宜しければ評価、感想、ブクマをして頂けると作者の励みにもなります。
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次回更新は日曜日になります。




