20話 勇者と魔王
真剣術学校を出て、アトルンタ辺境王都へ向かう一行。
アルペス山脈を越え、アンデッドの群れに襲われるも何とか切り抜けた。
そして一行はアトルンタ辺境王都への歩を進めるのであった。
ラボバ魔剣術学校を出て4日目の昼。
俺達はアトルンタ辺境王都へ到着した。
夜襲以降、特にトラブルもなく無事到着出来たのだ。
高台から眺めたアトルンタ辺境王都は俺の地元よりも栄えた王都のようだった。
規模も高い建造物も多く、海も近い。
南部は温暖な気候の土地だ。
椰子の木のような植物が多く生えていると言った印象で、南の都と言うのがとても良く似合う雰囲気だ。
今俺達はアトルンタ辺境王都の入り口に立っていた。
「よし!では町に入るか。」
とミラーさんが言い、歩を進めた。
町に入ると活気はあるのだろうがどこかゆったりとした時間の流れているような雰囲気で、都民の服装は温暖な気候と言う事もあって軽装で涼しい格好をした人が多かった。
足はビーチサンダルのような草鞋を履いている人が多く、何処となくハワイのような雰囲気があった。
市場には南国系の果物やカラフルな魚介類、屋台などが立ち並び客を集めているようだった。
「そういや、現勇者のいる所ってどこなんだ?」
とリゼルグがミラーさんに問う。
「ああ。あの方はこの王都の西にあるアクロの丘にいらっしゃるとの事だ。先ずは昼飯食ってからだな。あそこにしよう」
そう言うと近くにあった手頃そうな店に入って行く。
中は木造りの食堂と言った感じの店内だった。
メニューはロコモコのようなライスに野菜や肉を乗せた物だったり、ハンバーガーのようなパンに肉を挟んだ物、ポテトのフライ、サラダ、スープと言った日本にも良くあるような馴染みのあるメニューが多かった。
皆好みのメニューを選んでテーブルに運ばれて来ると久々のまともなご飯に齧り付く。
俺は勇者の称号を得た時に皇帝より多くの金貨をもらっていた。
若干6才には多過ぎる位の大金だ。
その為ご飯代を節約せずとも良いような状況となっている。
そこで問題なのは家臣へ給与は払わないといけないのかと言う事だ。
何となく聞けずにいるのだ。
そこもちゃんとしなければいけないなと考え、また時期を見て皆と相談しようとご飯を食べながら考えていた。
するとクリフが言葉を発する。
「久しぶりにまともなご飯だね」
「本当ね。旅中もこの位のクオリティの食事が食べられるといいのに…」
とシーナが言う。
やはり慣れていると言っても、普段は豪勢な食事をしている者達だ。
この4日間、多少は不満があったのだろう。
それはいつも質素な食事をしている俺でも同じだった。
生まれてこの方豪華なご飯は食べた事がない為、学食のCセットでも満足であったのだ。
慣れと言う物は怖い物である。
昼食を終え、皆家族への手紙を冒険者ギルドに出し俺達は王都の西側にあるアクロの丘へ向かって歩き出す。
冒険者ギルドは郵便物の発送手配もしている。
集荷に来た商人の荷物と一緒に乗せてもらい、各家庭へ配るのだ。
勿論配るのはその地に詳しい商人だったり地元の者が多い。
「所でセルヴィが勇者の修行をするのはわかるけど、私達はその間なにをしていたらいいんだろうね」
とクレアがジルへ問う。
「安心しろ!勇者のパーティには魔剣術使い、魔法使いなど5人の家臣がいる。それぞれこの町にいると聞いている。お前達は現勇者の家臣に付いて修行をすればいい。居場所は勇者が知っているだろう。あの年でもまだ魔王を倒す事を諦めていないからな。パーティは近くにいるのが鉄則だ」
そうミラーさんが答える。
現勇者のパーティ。
現勇者が50を過ぎた人だと言うのは聞いたがパーティメンバーが何歳位なのかは聞いた事はなかった。
だが事実上、この世界で一番強い人の家臣だ。
しかも妥当魔王を唱えている事もあり、只者ではない事は何となく想像が出来た。
町中を抜け、町はずれの丘を登る。
何て事のない勾配の丘。
その丘を登り、舗装もされていないが道となっている道を進むと森の中に一つの小さな家が建っていた。
ミラーさんが代表をして家のドアを2回ノックをする。
しばらく待つも中から人の声は聞こえず、反応がなかった。
その為再度ドアを2回ノックするミラーさん。
再度待つも中から反応はなかった。
「留守中ですかね?」
とシーナが言う。
「ああ、そうかもな」
と言ってミラーさんがドアノブを押したり引いたりしてみたがどうやら鍵がかかっているようでドアは空かなかった。
出直すか…そんな空気が流れ始めたその時、森の奥からドゴーン!!と大きな音がした。
「な、なんだ?」
と大きな音にリゼルグが反応する。
「向こうだな。行ってみるか」
とミラーさんが言うと音の鳴った方向へ早歩きで歩き出した。
音の鳴った先には土煙が立っている為、位置はすぐにわかるのだ。
その音源地に着くと一人の男性が剣を持って立っていた。
「やっぱりか」
とその男性を見たミラーさんがつぶくやく。
「デニスさん!デニス・ロドメンソンさん!」
とミラーさんがその男性に向かって呼びかける。
「ベンジーか。久しいな」
その男性は短髪で遠目で見える程白髪交じりのこげ茶色の髪。
50代だとは思えない程艶やかな褐色の肌。
武骨な身体。
白いTシャツにオリーブ色の短パンに革のブーツ。
左手には両刃が付いているソードと言う種類の剣を持ち立っていた。
「その小僧か?新しい勇者と言うのは」
そうミラーさんに話しかけながらこちらに近づいて来る。
「お久しぶりです。変わりませんな、勇者。そうです。この子が新しい勇者のセルヴィ・マク・グレディです」
とミラーさんが俺をチラっと見ながら説明をする。
そしてロドメンソンさんが近くまで来て足を止め俺を見る。
その眼は赤く、無精髭を生やし、頬に縦に傷のある男性が立っていた。
良く見ると彼の腕には無数の傷跡があり、これまでの凄まじい戦闘の跡が残っていた。
「バティとエミリィの子か。確かにこれは6才では考えられない数値だな」
と俺を見ながらロドメンソンさんがそう言った。
何故かうちの両親はどこへ行っても知っている人がいる。
一体うちの両親は何してた人なんだろうとつくづく疑問だ。
「後ろの子達は家臣か?」
とロドメンソンさんがミラーさんに問う。
「そうです。デニスさんの家臣方に稽古を付けて頂くのが良いかと思い連れてまいりました」
そうミラーさんが答える。
「そうだな。この先の未来を背負う子達だ。うちのに託すべきだろう。あとでうちの者の家の地図を書いてやろう」
「ありがとうございます」
とミラーさんが答える。
「紹介が遅れた。俺が現勇者のデニス・ロドメンソンだ。セルヴィ・グレディ。先ずまだ魔王を倒せていない事を詫びる。本当にすまない。お前が次期勇者になった事は何かの因果だろう。これから数年俺がお前に魔剣術を教える。よろしくな」
「はい!よろしくお願いします」
とロドメンソンさんに返事をした。
「さて、立ち話しもなんだ。先ずは家に寄ってくれ。家臣達の居場所も書かないとだしな」
とロドメンソンさんは言うと先程の家に戻り話しをする事となった。
ロドメンソンさんの家は一人で住むには何も困らないが大人数が入るとなると少し手狭な家だ。
なんとか皆テーブルに付き、ロドメンソンさんがお茶を入れてくれて皆に行き渡ると椅子に腰かけお茶を一口飲むとロドメンソンさんから話しが切り出される。
「先ず心構えとして知っていて欲しい。勇者の称号を得る人物は数年、数十年に一人だ。その為敬われ、平民だった人間が一気に地位を上げる事もある。それはその者がこの先必ず魔王と戦わなければいけない、そして倒さなくてはいけない使命を背負うからだ。それは魔王登場から何年も何十年も何百年も続いている。過去魔王討伐した勇者は数名いる。だがその都度新しい魔王が現れ、勇者が殺されたり魔王倒せずに人生を終えた者もいる。逆に当時の魔王を滅ぼした者が勇者以外の者でその者が新しい魔王となるケースもある。魔王側と勇者側で様々な事情があるんだ。俺は魔王に何度も挑んだが倒す事は叶わなかった。だが命は辛うじて取り留めて来た。そんな魔王を倒したのが現魔王だ。俺が何度挑んでも倒せなかった魔王を容易く葬った化け物。それが現魔王だ。魔王とはその時代に応じて人種が違う。上位種の魔獣だった時代もあった。だが近年は人間が魔王となる事もある。エルフやホビット、巨人族、鬼族、妖精族、そう言った人種が魔王になる事も過去にはあった話しだ。現魔王はと言うと…人間だ。と言う事は俺が勝てなかった魔王を倒した男。それが現在の世界最強の人類と言う事になる。お前達が倒さなくてはいけない魔王…それは人間なんだ」
ロドメンソンさんは俺の目をじっと見て言った。
殺さなければいけない相手が同じ人間と言うのは確かにやりずらい。
そして俺はふと疑問に思っていた事を質問する。
「討伐しなければいけない魔王って事は魔王は皆悪い事をしてるんですか?」
ロドメンソンさんは真剣な顔をして俺の質問に答えた。
「その時代の魔王によるな。人族を虐殺し、世界を滅ぼそうとした魔王。人種問わず虐殺した魔王。金と欲にまみれ世界に混沌を齎した魔王。全人種を食べ尽くそうとした魔王。…だが今の魔王は異色だ。前魔王は牛族のキングエビルミノタウロスだった。前魔王は牛族のみが上位種だとし、他の人種をこの世界から消そうとしていた。実際消された国や消された大陸もあったのだ。俺も必死に戦ったが討伐は出来ず、魔王の交代となった。前魔王は力もあり、魔術も一流。魔力量も人族には到底追い付けない様な領域に達していた。前魔王もそうだが現魔王はこの世界の端、魔大陸にいる。その魔大陸を統率するのが魔王であり、一国の王なんだ。現魔王は今までにないような技術を用いり、新しい武器や新しい戦闘車などを生産している。それだけでも異色なのだが、更に異色なのは、こいつはこいつで国を守ろうとしている所があり、世界を変えようとしている事なのだ。前魔王が王座を退いて10年程経った。現魔王はこの10年余りで周りの国を着々と魔大陸の領地へと拡大して行っている。この状況を止めるべく俺が赴くべきなのだろうが、10年修行しても今だにあいつに勝てる気がしない。やっと前魔王に届いたか届いてないか程度の成長しか見えん。俺もそろそろ引退かと思っていた矢先、坊主が現れた。俺では出来なかった事をお前に託したい。人類の希望を、勇者の使命を背負う覚悟がお前達にあるか!」
俺だけでなく、皆の顔を見てロドメンソンさんは言った。
その質問に即答したのリゼルグだった。
「当たり前だ。そのためには俺は真剣術の勉強と鍛錬を繰り返して来た。勇者が行かないと言ったとしても俺は行く。俺は魔王を倒さなければいけないんだ」
そう言ったリゼルグを見てロドメンソンさんはいった。
「その髪色、容姿、お前はピッペン家の者か。まぁお前の言う事は家訓みたいな者だな。それを背負わされたお前も難儀な人生だな」
「いや、家系の事情なんて物は俺は知ったこっちゃない。俺は俺の意思で勇者の家臣に加わり、俺の意思で魔王討伐に加わりたいんだ。俺にも一矢報いたいだけの理由があるんでな」
と哀れんだ顔をしたロドメンソンさんにリゼルグが反論をする。
ロドメンソンさんは少し考えた後に、まぁそうだろうなとため息交じりに答え言葉を続けた。
「お前達がこの先進むのは過酷な道だ。その道に進むのであれば覚悟をしておいて欲しい。仲間が死ぬ事もあるかも知れない。自分が死ぬかも知れない。その覚悟を持てと強制はしない。だが、お前達が選んだ道はそう言う道だ。それだけは理解しておいて欲しい」
その言葉を受けた皆は当然だと言うように決意に滲んだ表情をしていた。
それだけの覚悟を持って俺に付いて来てくれたのだと俺はその時感じた。
俺はこの友人達をどう足掻いても守りたい。
その為にももっと強くならなければいけない。
今はどう足掻いてもロドメンソンさんにはかなわないだろうと感じていた。
この人を凌駕する程の力を付けなければいつか仲間を失うだろう。
それだけは何があってもしてはいけない。
皆の表情が俺をそう思わせるのであった。
お待たせして申し訳ありませんでした。
何とか今日も書き終えました。
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