19話 夜襲
現勇者のいるアトルンタ辺境王都へ旅立った一行。
アルペス山脈のロックドラゴンから何とか逃げ切った一行。
山脈を下りた所で夜営をする事にした。
その夜、不穏な足音が一行に近付くのであった。
皆が寝静まったその夜。
ひっそりと近付く足音があった。
足音は複数である。
一向が夜営をしている所へ向かってである。
一番最初に気付いたのはセルヴィだった。
「ん…」
俺は眠い目を擦って目を覚ました。
足音のような物が聞こえたからだ。
テントを張って眠っていたのだが、他の二人…クリフとリゼルグはまだ眠っていた。
尿意も感じた為テントの外へ出る。
周りには何もいない。
風で草が揺れる音のみが耳に入っていた。
少し離れた所で用を足そうと思い、テントから少し離れると遠目に人影のような物が見えた。
まだ夜中であり、現代のように街灯もない為月明かりだけに頼るしかない。
だがこの世界には魔術がある。
俺はトーチの魔術を使い、辺りを照らす。
するとぼんやりと人影の正体が見えて来る。
裸足でボロボロの血色のない足、ボロボロのズボン、銀の腰当に草摺、ボロボロの服、血色のない右手、銀の胸当、左手はなく右肩に肩当、ボサボサの黒髪で顔は爛れている。
まさに騎士のゾンビである。
他にも身体の一部がない騎士のゾンビや旅人のような服装をしたゾンビ、女性のゾンビもいる。
しかも数は無数。
俺は急いでテントに向かい、皆を起こした。
「おい!大変だ!起きろ!早く!」
そう言ってクリフやリゼルグを叩き起こす。
テントの距離はあまり離さず設置している為、俺の大声でミラーさんやシーナ達が驚いて起きて来る。
「どうした、坊主?」
とミラーさんが俺に質問をして来る。
「ゾンビです!ゾンビの大群がこっちに向かってます!」
「何!!」
ミラーさんが特大のトーチを空に投げる。
すると辺りが明るくなると異様な数のゾンビが四方八方に見える所まで迫って来ていた。
「これは不味い。早く剣を構えろ!アンデッド系は火に弱い。火系の魔術が使える物は火系の魔術で応戦しろ!」
「わかりました!」
とシーナが答え、テントからロッドを持ち出し、ゾンビの群れへ一歩前へ出る。
俺を見た俺も皆も武器を持ち、一歩前へ出て構える。
ファイアーと心の中でつぶやき、剣に火を纏わせる。
「火系の魔術が使えない者は首を落とせ!アンデッド系は手足捥がれても動くからな!首を落としたら粉々に砕け!どうせ腐ってるから足で踏みつければ潰れる!」
とミラーさんが皆に大声で指示する。
この中で火系が使えないのはジルとクレアだ。
ジルは日本刀だが、クレアは槍だ。
腕が立つと言ってもアンデッド相手に槍だと不利ではないだろうか。
仲間の心配よりも自分の心配をした方がいい。
仲間を信じよう。
そう覚悟を決め、俺は目の前に迫るゾンビの群れに一足飛びで向かい攻撃を仕掛ける。
剣に魔力を込め、縦一線に剣を振り下ろす。
ファイアーバード。
すると振り下ろした剣より火の鳥が発生し、ゾンビ達を切りながら燃やし尽くして行く。
そこまでの距離を攻撃出来る術ではない為、10m程行った所でファイアーバードは燃え尽きる。
10m行った所で大群の先の景色が開けた事を確認した事によって、大群の大体の数を察してしまった。
テントを囲むように群がったアンデッドは数が薄い所があったとしても100や200では効かない数がいるようだ。
「みんなー!!相手は100や200以上いるぞー!そのつもりでー!」
と皆に一応注意喚起をしておく。
「200以上…マジかよ」
「うげー」
「ふん。1000いても余裕だ」
などなど各々反応を示す。
俺の左隣でクリフが火を剣に纏わせ次々と首を落として行く。
彼も日々一緒に修行をしているせいか入学当初に比べてかなり上達している。
ファイアーは無詠唱だしファイアーバード位なら発動出来るようになっている。
アンデッドの首を落として行くクリフの剣は火を纏っている為、首の切断面から頭部、胴体どちらにも火が広がって行く。
元々剣術が上手なので、彼の剣を振る姿は華麗に舞うような動作をするのだ。
前に話していたが、クリフの剣はアストレアムス家代々受け継いでいる、アストレアムス流剣術らしい。
彼が話していたのだ。
俺は一切質問をしていない。
クリフの左隣にリゼルグ。
リゼルグは俺との決闘時に発動させようとしていた、ファイアーバードを発動させ次々にアンデッドを頬むって行く。
リゼルグの魔力は膨大でファイアーバードの威力一つ取ってもクリフ以上だ。
そんなファイアーバードがアンデッドを切り裂きながら、引火しながら飛んで行く。
俺程長持ちはしないが5m程は飛ぶのだ。
それにサラマンダーと言う火蜥蜴の魔剣術を発動させており、サラマンダーはファイアーバードよりも威力がかなり高い。
広範囲で攻撃可能な中級魔剣術だ。
リゼルグの左隣にはジル。
彼女は火系の魔術は使えないが、氷系の魔術は得意なようで、アンデッドをアイススラッシュと言う初級魔剣術で凍らせた瞬間、斬撃で粉砕して行く。
その他にも日本武士のような抜刀術も持ち合わせている為、遠距離にいるアンデッドの首を落として行く。
まさに戦国の武士のような動きでアンデッドを切って行く姿は時代劇を見ているようである。
刀に冷気を纏わせている為、刀の触れた部分を凍らせる。
まさにクール&ビューティーだ。
その左隣にシーナ。
ロッドの両端に火系の魔術を発動させ、ファイアーダンスやロッドをクルクル回してファイアートルネードなどの魔剣術でアンデッドを討伐して行く。
ファイアートルネードは中級魔術である。
燃える竜巻はアンデッドを燃やしながら上空へ飛ばして行くのだ。
遠くに飛ばされたアンデッドはそこで燃えて灰となる。
ロッドが武器だと剣のように切ると言う行為は出来ない。
殴打すると言う攻撃方法となるのだが、殴打と言う攻撃は力がない者がしても相手にはあまりダメージにならない。
その為、魔術で攻撃力をアップさせ相手にダメージを与えるのだが多くの系統の魔術が使えないとあまり強いロッド使いにはなれないだろう。
シーナの場合は意外と幅広い系統の魔術が使える為、自身に合った武器と言って良いだろう。
その左隣、俺の右隣にミラーさん。
流石現魔剣術士と言った所か、ファイアーで剣に火を纏わせ次々にアンデッドの首を刎ねて行く。
彼の闘い方はザ・魔剣術士だ。
ファイアーは勿論、ファイアースラッシュ、ファイアーバードの魔術を発動させアンデッドを倒して行く。
時には体術も使い、アンデッドの腐った軟い頭部を蹴り落としたりしている。
いくらアンデッドが軟肌だと言っても元人間の為、それなりの脚力がなければハイキック一発で頭部を落とす事は難しい。
それだけでも彼が良く鍛えられている事がわかるのだ。
それからもテントを囲んでアンデッド達を討伐して行き、何とか全300体以上のアンデッドの討伐に成功した。
その頃にはもう少しで朝日が顔を出しそうな時間になっていた。
「何とかなったな」
とミラーさん。
「良かったです。気付くのが遅かったら不味かったですね」
と俺はミラーさんに返す。
「もう魔力が空々だよ」
と地面に身体をへたり込ませて言うクリフ。
リゼルグに視線を移す。
「俺は余裕だ」
と肩で息をしながら答える。
「魔力枯渇寸前だわ」
とシーナ。
「疲れた」
とジルが言う。
そして誰もが気付く。
「あれ?クレアは?」
と俺が最初にその疑問を口にした。
そう。
クレアがどこにもいないのだ。
そういえばアンデッドと戦う前からいなかった気がする。
はっ!と何かに気付いたようにシーナが口を手で抑えた。
すると自分達のテントへ向かって走り出す。
まさかな…と思い、シーナを後を追いかけた。
「どうしたんだい!?」
と驚いてクリフが質問をして来る。
「有り得る」
とジルがつぶやく。
シーナが自分達のテントを開けて中を見る。
すると寝具代わりの麻布に気持ち良さそうに包って眠るクレアがいたのだった。
「大物だね」
と俺が言う。
「大物ね」
とシーナが返す。
結局俺達はそのまま眠れず、先程の状況に付いて話し合った。
クレアも起きて来ている。
と言うものの、ジルがスヤスヤと眠るクレアに腹を立て、水を纏った刀で眠るクレアの顔に水を垂らしたのだ。
ビックリしたクレアは飛び起き怒ったが、今までの事を話しをしてやると素直に反省したのだった。
そして今にいたる。
「見た限り、あのゾンビ共は銀甲冑だったり行商人のなれの果てのようだな」
「ええ。俺もそう思いました。気になったのは裂き傷と歯型ですかね」
「ああ、ほとんどのゾンビにあったな」
とミラーさんが俺の疑問に同意し答えた。
「あれは恐らく全部ロックドラゴンにやられたんだと俺は思う。ロックドラゴンにやられた死体がゾンビ化し彷徨っていた所を俺達が何年か何十年ぶりかに来た為に一気に群がって来たんだろう」
流石経験豊富な大人だ。
すぐにこの疑問が解けた。
「けど、死体全てがゾンビ化する事なんてないんじゃないか?」
「確かにな。俺もそこだけは疑問だ」
とリゼルグの疑問にミラーさんも頷く。
「どういう事ですか?」
と俺がミラーさんに質問をする。
するとニヤっと不敵な笑みをミラーさんが浮かべて答える。
「わからんか?坊主はまだまだ勉強不足だな。いいか?人が死んで必ずゾンビになってたらこの世の中全てゾンビだって話しだ。ゾンビになるには条件がある。術をかけるか薬品を掛けるか、特殊な環境条件で死ぬか…だ。この周辺には死体がゾンビ化するような環境条件とは聞いた事がないし、そういう環境条件ではないと言う調査もされている。これで意味がわかったか?」
とミラーさんが俺に説明をする。
魔術の事は習って来たが、そういった冒険者入門編のような勉強は全くと言って良い程して来なかった為俺にはそういった一般常識的な知識が欠損している。
「なるほど。じゃあ考えられるのは意図的な何かって事ですね?」
とミラーさんに返すと、うむ…と言って考え込む。
誰が何の為にそんなにも大量の死体をゾンビにしたのだろうか。
しかもこのロックドラゴンがいる危険地帯で。
「考えた所でわからんな!飯にしよう」
数分考え込んだ後で、結局わからないだろうと言う事をミラーさんが判断するとそう発言した。
その考えに俺達も同意をし支度を始める。
俺達が魔術で水を出し、顔を洗い、歯を磨き準備している時にミラーさんが野菜を切って肉を切ってスープを作る。
この日もパンと薄味の野菜スープを食べ、寝不足な目を擦りながらこの日もアトルンタ辺境王都へ向けて歩を進めるのだった。
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