16話 称号
三年生に進級したセルヴィ達。
同級生になったリゼルグに決闘を挑まれ、彼からの挑戦を受けるが決闘途中に逸れ龍のブルードラゴンと対峙する事となってしまった。
単独で難無くブルードラゴンを討伐した。
学校の危険も帝国の危険も防いだはずのセルヴィだったが、何故か校長室に呼び出されてしまうのだった。
現在俺は校長室にいる。
正面には校長先生が自身の机に腰掛け書類に目を通している為、書面を捲る音が静かな室内に響いている。
校長からは少し距離を空けて壁沿いにミレイナ先生とセリーヌ先生が立っていて、校長先生の言葉を待っている様子で沈黙している。
「うむ。なるほどの」
と校長が言うと読んでいた書面を閉じて俺を見る。
「この度は逸れ龍の討伐見事であった。お主がブルードラゴンを撃退してくれたおかげで学校にはほぼ何も被害がなかった。その事には感謝せねばな。ようやってくれた。ありがとう」
「い、いえ」
と謙遜をし先生方を見るが特に怪訝そうな顔をするでもなく校長の話しを聞いている。
「さて、そこでじゃ。逸れ龍のブルードラゴンを単独で倒す事などBランク以上の冒険者であれば可能な事じゃ。じゃがお主の歳で単独でそれを成す事は異例中の異例じゃ。この学校も帝都の中にあり、王族が干渉してくる事もそう少なくはない。この度の活躍でお主が将来有望なのは遅かれ早かれわかってしまう事じゃからな」
と校長は先生方の方を見る。
先生方もそうですねと言うように首を縦に振った。
「どうやらお主の話しが皇宮に伝わってしまったようでな。是非この度の活躍を労いたいとの事じゃ。学校だけではなく、下手したら帝都にも被害が出ていたじゃろうからな」
なるほどな。
それを倒したのが将来有望な子供か…確かに皇帝としては唾付けておきたい人材ではあるだろうなと考えた。
そもそも俺は聖騎士になりたいのだから好都合と言う物なのである。
「それで俺に皇宮へ来いと?」
「うむ、そうじゃ。ブルードラゴンとの戦闘で怪我などなければすぐにでも言う事じゃ」
と校長は言った。
放課後の決闘だった為、現在夕飯時と言う時間に差し掛かろうとしている中の皇宮へ行ったら夕飯など出してもらえるのだろうか…。
労うと言っていたからにはその可能性が高い。
しかも明日は学校だ。
明日にしてもらったとしてもまた放課後になってしまう。
夕方に自主練するのが俺のルーティーンである為、最近出来ていないのが気掛かりであった為、これから行く方が用事もすぐに終わっていいだろうと考えた俺は校長先生や先生方にこれから皇宮へ行く意思を伝えた。
皇宮へはミレイナ先生が同伴してくれる事となり、俺はミレイナ先生と皇宮へ向かって歩いていた。
ミレイナ先生は有名な元魔剣術士の為、皇宮にも顔が聞くとの事だ。
俺は前世でも総理大臣を実際に見た事がないし、王様と言う存在も今一ピンと来ない。
その為、この国の皇帝様と言うのがどんな人なのかをミレイナ先生に聞いてみたのだ。
「年頃は37才。前皇帝様よりも下々の事を気にかけ、民を敬い、国を大切に思っていらっしゃる。至極まともなお人だ。お優しい方ではあるが礼儀には気を付けよ。周りの部下にはそなたの生い立ちを嫌う人間も仲にはおるからな」
俺の生い立ち?
この部分に少し疑問を持ったが、田舎侍の貧乏騎士家と言う生い立ちだろうかと妙に納得した。
そんな貧乏人が皇宮に入って、この度の活躍を褒められたら嬉しくない人もいるだろう。
なんせ帝国だ。
身分差なんて生活の中で多く見られる。
ここ二日間位、毎日食卓の上は身分差制度だ。
妙に納得した俺はふと疑問に思っていた事を聞いてみた。
「俺がブルードラゴンを討伐した事が皇宮に知られたのは早過ぎませんか?」
すると先生が重い口を開いた。
「皇宮は常に学校を監視している。学生しかいないとは言え、魔剣術士の集まり。反乱を起こされたら堪らんからな。お前がブルードラゴンを倒した事を確認してすぐに皇宮の使者が来た。
それがきっと学校の監視役だろう。
そろそろ時期が時期だからな。
皇宮も学校やギルドなどの情報は常に把握していた…と言う事なのだろうな」
と先生は説明した。
「時期?ですか?」
「ん…あぁ。まぁすぐにわかるさ」
そして皇宮の門前に着くと、頑丈そうな大きな扉に向かって先生が大声を出す。
「ラボバ魔剣術学校より皇宮へ来るようにと仰せつかっている。教師のミレイナ・エル・ジェームスと生徒のセルヴィ・マク・グレディだ!開門を頼む!」
すると皇宮の大きな扉が開き、鉄甲冑を着た40歳前半位の兵士が一人、松明を持って開いた扉の先に立っていた。
この頃、既に夕食時と言った時間であった為、既に外は薄暗い。
そして兵士が口を開く。
「案内する。付いて来てくれ」
そういうと皇宮内の方へ踵を返し歩き出した。
俺達は兵士の後に続いて歩く。
皇宮内は北欧系のお城をイメージさせたような造りで色合いなどもそれと良く似たお城であった。
こういった歴史的建造物が今も現代に残っていたような気がする。
しばらく皇宮内を歩いて、一つの大きな扉の前で兵士が立ち止まり、大きめに扉を二度ノックをし、扉を開け中に入る。
そこには多くの皇宮関係者、王族、貴族、兵士、聖騎士などが集まっていた。
レッドカーペットが一本、一番奥の王座に向かって伸びている。
兵士がレッドカーペットの上を王座に向かって歩いて行き、50m前位で止まって跪き報告をする。
「皇帝様!ラボバ魔剣術学校の教師、ミレイナ・エル・ジェームスと生徒のセルヴィ・マク・グレディをお連れしました!」
皇帝は話しに聞いたよりも若く、アラフォーには見えない綺麗な容姿をした人であった。
キラキラと輝く宝石があしらわれた王冠を頭に乗せ、金髪の男性では少し長めの髪。
赤い、サンタクロースのようなマントを羽織、服装は青を基調とした旧ヨーロッパ貴族のような服装をしていた。
「うむ。ご苦労。下がって良いぞ」
と皇帝が言うと、兵士は「は!」と言ってその場を後にした。
先生は俺に目配せをして、先程兵士が跪いていた所まで歩き跪く。
それを見て俺も同じように行動をした。
俺が跪いて頭を垂れた事を確認すると先生が発言する。
「お招きありがとうございます!ラボバ魔剣術学校の教師のミレイナ・エル・ジェームスと生徒のセルヴィ・マク・グレディでございます!」
「急な呼び出しすまなかったな、ミレイナ。部下から7歳にも満たない子供がブルードラゴンを討伐したとの報告が入ったもので、皇宮としては早急な対応をしなければいけなくてな」
そう皇帝は言うとミレイナ先生が答えた。
「いえ、問題ありません」
うむ。と皇帝は答えると俺の方を見て言葉を発した。
「そなたがセルヴィか。出身はパース辺境王都のフリーマントル村と聞いておる。あの辺でグレディと言う名と言う事は、そなたの父はバティ・マク・グレディで間違いないかな?」
「はい。左様でございます。父をご存知とは驚きました」
と答えると皇帝はニヤっと笑った。
「うむ。昔に少しな。そうか…エミリィとバティの子か…」
と皇帝が考え深そうな顔をして少しの沈黙が流れる。
「おお!そうであった!まだ自己紹介をしておらんかったな。私はコートジボール帝国の皇帝、ディディエ・コートジボールだ。そなたであれば問題なかろう!」
高らかに皇帝が言葉を発した。
すると周りの大人達がざわ付き出した。
何だろう…と俺はふと感じた。
次に出る皇帝の言葉に意識を向ける。
「そなたに勇者の称号を与えよう!!」
…………ん?
ごめん、聞き間違いじゃないよね?
今勇者って言ったよね?
どう言う事?
俺の頭の中は?マークだらけだ。
ここで聞き返したら失礼だろうと思ったが、その言葉を我慢出来なかった。
「皇帝様………今勇者と申されましたでしょうか?」
「うむ。そう申した」
勇者?
俺は疑問に思った為、再度質問をした。
「あの…勇者の称号とは?」
すると少々眉間に皺を寄せ、皇帝が言葉を発する。
「何だ…何も知らんのか?」
すると先生が答える。
「すみません。セルヴィはまだ三年生に進級してまだ1日目の為称号についてはまだ勉強させておりません」
すると皇帝がその発言に答える。
「そうか。では私から説明しよう。勇者とは数年、もしくは数十年に一度、この国に現れる存在だ。その称号を得た者の使命は魔王を討伐する事!そなたはまだ六才にしてブルードラゴンを単独討伐出来る程の腕前。今でも六年生との実戦でそなたに勝てる者は数人であろう。そなたが六年生になった時に勝てる者は皆無と推測出来る。そなたは将来有望だ。勇者の称号を与えたがまだ真の勇者とは言えぬ。現勇者に付き、次期勇者としての指導を受ける事をそなたに命ずる!」
何だかエライ事になってしまった気がする。
次期勇者=魔王討伐を何しなければいけないと言う事と同義だ。
続いて皇帝が言葉を発する。
「現勇者は50を過ぎてしまっている為、そなたのような次期勇者の出現を待ち望んでおった!次期勇者としての鍛錬を積み、魔王討伐を目標とし日々精進するが良い」
この人、凄い無茶振りしてません?
魔王と言ったら実家にあった本にも記載がある程、恐怖の象徴だ。
それを6才の俺に討伐しろと言うのは無茶振りの何物でもないのだ。
「では、現勇者のデニス・ロドメンソンにそなたを預ける!明日、デニスを尋ね、次期勇者の称号を得た事を伝え勇者引き継ぎの為に鍛錬に励むように!以上!」
そう皇帝が言うと先生が即座に立ち上がり、周りの大人達も姿勢を正す。
「「「「「「は!」」」」」
と周りの大人がハモると、もう言う事はない、聞く事はないと言うように一斉に出口に向かう。
俺はこの日、不本意ながらも勇者の称号を得たのであった。
いつもお読み頂きありがとうございます。
300人以上の方が読んで下さっているのはとても嬉しいです。
個人的にはこの作品を勇転と呼んでいます。
皆様も宜しければ、そう呼んで下さい。
ブックマーク、感想、評価を頂けると作者の励みにもなりますので、宜しければお願い致します。