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文明の先に。現実の不時着。死んだ人間は誰もいない。と、言ってしまえばすべてが丸く収まるはずだ。皆が皆、同じ目を持っていない。駅構内に入り、慣れたように改札口に飛び込む。列車がちょうどホームに飛び込んできた。改札口に飛び込んだ女性を、ホームに飛び込んできた列車が轢いた。改札口がホームであったのか、ホームが改札口であったのか。ホームから飛び込んだ女性を列車が轢いたのか、改札口に飛び込んできた列車が女性を轢いたのか。改札を抜ける前に精巧な落とし穴に落ちた女性は「ああ、そんな気がした」と呟いた。通常通りホームで列車を停止させようとしている車掌は、「ああ、そんな気がする」と呟きながら、ホームへ続く階段を列車に下らせていた。
何をどうしたらそうなってしまったのかまったく記憶にない車掌は、こう口にするだろう。
「ここは改札口でもホームでもない。トンネルだ」
トンネル上部が崩落し、生き埋めになった列車内の乗客たち。真っ暗な客室。じりじりと鳴る蛍光灯。
彼ら登場人物たちは、息を引き取る間際に何を見ただろう。映画か、ドラマか。理想か、感謝か。会いたいと切望したか、過去を悔いたか。
このときばかり、皆が皆、同じ目を持っていたのだろう。
トンネルではない学校で、彼らは必死に演じたはずだ。
視聴者か、役者か。
「喜友名さん、喜友名さん」
隣に座る女子生徒が明衣の肩を叩いていた。「何?」と表情で訊くと、顎を黒板の方に二度しゃくった。視線を移すと担任が教卓の前で仁王立ちしていた。
「喜友名。ここ読んでみろ」
ここ、と言われても話を聞いていなかったのだからどこかわからない。隣の生徒に肩を寄せ「どこ?」と訊くと優しいその生徒はひそひそと「何メージの……真ん中あたり、ここ」と言い、自分の教科書を指差した。
「喜友名、ダメじゃないか」
すみません、と心の中で呟いた。隣の席の生徒が教えてくれたページを開き、担任の指定した文章を読み始めた。三行目を読んでいたとき、視界の端に脚が映った。顔を上げると担任が見下ろしていた。え、なに、と当惑していると、担任が腕を組んで、溜息を鼻から漏らした。
「喜友名ダメじゃないか。そこは目井の席だろう。お前の席はもう一つ後ろだ」
「え?」
明衣は顔を振った。
目の前にヘルメットを被った隊員がいた。
――濁りひとつも無いように 生きていけはしないんだって 怖さを知る――
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