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擬死態  作者: 面映唯
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一、真子の罪

 グループラインにメッセージが届いたのは一か月前のことだった。私がそのメッセージを見ようとしたときに抱いたのは、単純にこんなグループあったなあという端的な驚嘆と懐かしさだった。中学三年の同クラスのメンバーでできたそのグループラインは、中学を卒業してからというもの、ほとんど音沙汰がなかった。メンバーの顔触れを確認しようと一覧を開けば、当時のクラスの人数が四十人だったのに対し、残っていたのはなんと五人だけとなっていた。トーク履歴を開くと「○○が退会しました」「Unknown」という字面が何列にも続いていた。


 というのも、思えばそもそも中学三年でのクラスは皆が一致団結、といったような仲の良いクラスではなかったからだ。女子も男子もそれぞれが三~六人程度のグループを作っていて、そのグループ同士が密接に交わって何かするようなことはほとんどないクラスだった。クラスマッチや合唱コンクールなどでも、一丸となっていたとは言い難い。


 しかし、面白いのは、それをクラスの全員が(わきま)えていたことだった。口には出さずとも「なーなーでいい」という暗黙の了解が私のクラスには自ずと出来上がっていた。グループ内で楽しければそれでいい、その考え方は、自らが所属するグループに対しても、他のグループに対しても同じだった。自分たちは好きなようにやる。他の人たちも好きなようにやってくれ。自分たちだけが我儘(わがまま)を言ってクラス一丸になろうとしていないのではなく、皆が皆そう思っていたのだ。だからカーストのような階層も生まれないし、いじめも私の知る限りではなかった。美女グループも、美男グループも、オタクグループも、根暗グループも、皆それぞれがそれぞれとして独立している様は、見方によれば互いが互いのグループを尊重しているようでもあった。本音を言ってしまえば、どのグループも共通して、単に他のグループに興味がなかったというだけなのだが。


 中学三年といえば青春時代の一時だ。でも私たちのクラスは多分素直にはしゃげない大人のようだった。これから中学を卒業すれば、離れ離れになる人もいるだろう、高校に入学すれば新しい友達もできるだろう、中学では中学での生き方があって、高校では高校の生き方があって、と多分私たちのクラスの生徒は知っていた。友達なんてのは今だけの付き合い。社会人になればぐっと交友関係が狭まる。毎日顔を合わせるのは同僚や上司であり、旧友ではない。休みの日は休みたい。休みの日に出かける。出かける相手は多岐にわたらない。


 冷めていたというわけではない。メリハリがあるだけだ。


 そんなクラスだったのに、なぜグループラインが存在するのか。普通だったらない。けれどもある。その理由は、当時の担任が「お前ら連絡網回すの面倒だろう。ラインのグループ作っちまえばそこに詳細を載せて終わりだ。どうだ、楽だろう?」という自由奔放、適当な人だったからだ。たったそれだけの理由でできたグループラインなので、中学卒業以降は機能していなかった。元々用途が「連絡網の簡略化」なのだ。連絡することがなければ機能することもない。普通ならありそうな同窓会の誘いも、二十四歳となった今現在まで一度たりともない。


 だから、そんな使われていないグループに唐突に送られてきたメッセージの内容が気になった。最近はつまらないことが多い。大学一、二年の頃は毎日のように遊んで、飲みに行ってと楽しかったなあとこれまた酒を飲みながらぼやくぐらいだ。


 メッセージを開いて、私は落胆した。


『同窓会をしませんか。再来週の月曜日に廃校になった母校の取り壊しが始まるそうです。その前に一度みんなで集まりませんか? 集まると言ってももうこのグループに残っているのは五人しかいませんが……でも、少数の方が集まりやすいと思います。それに皆さんは覚えていますか? 卒業式の前日に書いた作文のこと。タイムカプセルにして中庭の花壇に埋めましたよね? 懐かしいです。みんなで一緒にあれを見ませんか? きっと懐かしい作文にみんなも心が躍るのではないでしょうか。

 来週の日曜、正午、五人全員が揃うことをお待ちしております』


 送り主の名前に記憶はない。恐らくどこかオタクグループの一人の名前だろう。周囲の人間に興味のなかった私たちのクラスで、クラスメイトの下の名前まで覚えている人は少ない。覚えていたとしても苗字だ。


 グループ内に残っていたメンバーの名前を見た。


 そして、タイムカプセル――。


 私は落胆した。なぜ退会しなかったのだという自分の過去に。そして退会しなかったのは偶然ではなく必然であったのかもしれない、と。


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