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擬死態  作者: 面映唯
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【鍵の開いた学校】

 国道沿いを車は走っていた。パチンコ屋を通り過ぎ、ガソリンスタンドを通り過ぎ、道は上り坂になった。八条以外の三人は最寄り駅に下ろすことになっていた。新幹線に乗り、各々の自宅へと帰る。水城と明衣は東京、真子は神奈川の自宅に向かう。八条は車を実家に置いてからタクシーで最寄り駅に向かう予定だった。


「で、結局タイムカプセルん中の作文に何を書いた訳?」八条がハンドルを右に切った。バックミラーに視線を向ける。後部座席には水城と明衣が座っていた。


「秘密よ」明衣はなんとなしに言った。


「つまんなー」と即座に言えたのは八条だけだった。他の水城と真子はその中に入っている作文の内容に脅されていたからだ。


 明衣は後部座席の車窓を開けた。途端に風が吹き込んで髪を揺らした。空に浮かんだ千切れ千切れの雲は、何て名前だったっけ。イワシ雲。次の日雨が降るやつだったかしら。


 明衣はその雲の白さに飲み込まれた。当時中学三年だった明衣が、卒業式前日に書いた作文の内容だ。明衣はそれを一言一句覚えている。


「そうか。燃えちゃったか」

「え、何が?」


 隣に座る水城が明衣の顔を窺った。助手席に座る真子も首をひねり、同じく明衣を見ていた。その視線に明衣はきょとんとし、慌てて口に手を当てた。「で何が何が?」と水城が急かす。


 明衣は窓の外の景色に視線を移した。


「私たちの秘密」


 風がどっと押し寄せて頬を緩ませた。


 教壇で担任が黒板にチョークで文字を書いている。かっかっかっ、という音が室内に響く。クラスメイトが板書をノートに書き映している。シャープペンシルの芯が、ノートやルーズリーフの表面を走る音。かたっ、と誰かがペンを置いた。ごしごしと消しゴムで擦る。再びペンを握り、紙の上を滑らせた。


 周りの生徒は行儀よく座って静かに板書を書き写している。明衣は窓の外を眺めていた。空が青白い。校門に面したアスファルトを一台の車が走り抜けるエンジン音。軽自動車、マニュアル独特の唸る音。比べて音が低いのはミニバンだろうかと思えば、アルファードのリアが見えた。子どもの黄色い声が遠くでこだましている。校舎の東側に幼稚園があったはずだ。そこに通う子どもたちの声。それとはまた別の話声。校門を通り過ぎる運動服の生徒。体育の授業で外周を走っているのかもしれない。


「喜友名さん、喜友名さん」


 隣に座る女子生徒が明衣の肩を叩いていた。「何?」と表情で訊くと、顎を黒板の方に二度しゃくった。視線を移すと担任が教卓の前で仁王立ちしていた。


「喜友名。ここ読んでみろ」


 ここ、と言われても話を聞いていなかったのだからどこかわからない。隣の生徒に肩を寄せ「どこ?」と訊くと優しいその生徒はひそひそと「何メージの……真ん中あたり、ここ」と言い、自分の教科書を指差した。


「喜友名、ダメじゃないか」


 すみません、と心の中で呟いた。隣の席の生徒が教えてくれたページを開き、担任の指定した文章を読み始めた。三行目を読んでいたとき、視界の端に脚が映った。顔を上げると担任が見下ろしていた。え、なに、と当惑していると、担任が腕を組んで、溜息を鼻から漏らした。


「喜友名ダメじゃないか。そこは()()の席だろう。お前の席はもう一つ後ろだ」

「え?」


 明衣は顔を振った。クラスメイトが自分を見てくすくすと笑っていた。


 自分が三年四組の教室にいることに気が付いた。



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