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鬼ごっこのスタートのベル直後、動き出した四人。
監視カメラの物語は、玖の思い通りに進んだ。放送室に座っていた玖はディスプレイから流れる映像に注視していた――中庭にいた真子にガソリンをかけて燃やした水城の映像が中庭の監視カメラから流れた――帰宅しようと昇降口に向かった水城を絞殺し、犯した八条の映像が昇降口の監視カメラから流れた――セダンに乗って帰宅しようとした八条を睡眠薬で眠った姿が駐車場の監視カメラから流れた――やがて一酸化炭素中毒に至るだろう。八条が眠ったのを監視カメラの下にいる明衣が確認し、昇降口の方へ走る映像が流れる――それを玖は放送室のモニターの前に座り、腕を組みながら高みの見物だった。
クラッカーの作った監視カメラの物語は約三十分だった。その間に四人は玖を殺す準備をしなければならなかった。
真子は脚立を使って監視カメラ――中庭、三年四組の廊下、昇降口に白スプレーを吹きかけた。中庭に行き、穴を掘った。顔を出した缶ケースと担任の遺体の上にスプレーを放る。スプレーのガスにガスバーナーの火を近づけ引火させた。中庭が燃え始め、タイムカプセルも担任の遺体も燃え始める。
水城は保健室にガソリンを取りに行った。二階の北南両校舎内廊下に、導火線を引くようにまき散らした。終えると一階に降り、北校舎西階段横の給食室のシャッターを開けた。事前に準備してあったもう一つのガソリンタンクを使って、一階にも導火線のように撒いた。ただし、放送室から東階段を上り、家庭科室に行く廊下を除いて。
放送室の隣は視聴覚室だった。そこにいた八条に四分の一程度残ったガソリンタンクを渡した。
八条は、放送室のドアが開く音を聞いて、視聴覚室から出た。事前の打ち合わせ通り家庭科室に入った明衣と玖を見届け、発煙筒を室内へと投げ入れた。ガソリンを撒きながら東階段を下り、放送室の前を通って車を出す準備をするために昇降口へ向かう。放送室手前では、取っ手をガスバーナーであぶる真子がいた。八条は南校舎一階の廊下を駆け抜けた。取っ手を熱し終えた真子もあとに続いて昇降口へと向かった。真子が昇降口に着いたとき、ちょうど水城が校舎内にガソリンをまき終えたようだった。
三人は、昇降口手前の廊下に撒かれたガソリンの導火線の外側に出た。三人とも額に汗をかき、真子に至ってはシャワーでも浴びたかのようにびしょ濡れだった。八条は汗を含む頭を掻いたせいで、寝ぐせのようになっていた。水城の着ているシャツの襟がよれて、ブラ紐が覗く。まるで舞台役者たちがひと演技終えたかのように三人とも息が上がっていた。真子は息を整える間もなく、ガスバーナーに火をつけ、距離を取って導火線に火を近づけた。
真子は尻もちをついた。
火は導火線を伝って一階の廊下、二階への階段、二階の廊下、三階への階段、と枝分かれしながら校舎の中を走った。ほどなくして非常ベルが鳴った。非常ベルが鳴ったということは、しばらくするとここに市役所の者か警察署の者かが駆けつけるはずだ。急がなくてはならない。
八条の投げた発煙筒によって家庭科室を出た明衣は、その足で職員室へ向かった。「私はここに居る」とアナウンスをし、歩きながら腕時計に目を落とした。腕時計の液晶画面には放送室に設置した小型カメラの映像が映っていた。放送室の取っ手を苦い顔をしながら開ける玖の姿を想像した。彼は部屋の中に飛び込んできた。監視カメラの映像が映るディスプレイに注視していた。明衣は裸足のまま放送室の前へと向かった。わざと放送室手前を映す監視カメラの前に立った。腕時計の中の玖が勢いよく取っ手を掴み、ドアを叩いた。放送室から出てきた玖の背中が目と鼻の先にあった。明衣は迷うことなく首の骨を折った。
尻もちをついた真子に水城が肩を貸し、二人は玄関を出る。校門付近にエンジンのかかったセダンがあり、二人は乗り込んだ。
数分して明衣が火柱を飛び越え、玄関を出てくる。しかしセダンに直行はせず、校舎を振り返って物惜しそうに眺めていた。
「早くしないと俺たちまで焼けちまうぞ!」
八条が運転席の窓に手をかけている。明衣を早く車に乗せようと必死だった。
「おい、水城、降りてつれて来い」
「あ、うん」
八条の言葉に水城は後部座席を降りて明衣の元に駆け寄った。「明衣ちゃん、早く」声をかけて肩に手をかけて無理矢理でも引っ張っていこうとするよりも先に、明衣は「ええ」と答えて校舎に背を向けた。




