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後で知った話、零は裏社会では有名なフィクサー兼殺し屋だった。殺し屋として名を馳せた後、フィクサーとなり、フィクサーとしても有名な人物だったようだ。
「お前、零んとこのガキか。あの人本当に殺し屋育ててたんかいな。自分の護衛にするとかなんとかって噂だったが――」
俺の直属のフィクサーのおやじから聞く話によれば、どうやら零は五人の護衛を育てていたみたいだ。それが俺たち五人だったということ。
「自分で育てた殺し屋を手放すなんて、あの親父もとうとう馬鹿になっちまったかな。昔の零ならあり得ねえことだ」当然だ。自分の護衛にするつもりで育てた殺し屋に、自分の首を落とされる可能性がある。
しかし零は、俺たち五人に護衛になる以外の選択肢を与えた。
なぜか。その理由は未だにわからない。訊きに行こうと俺たちの育った廃屋に行ったことがあったが、もぬけの殻だった。フィクサーのおやじに訊いても「知らんな。フィクサーの命狙ってるやつなんざごまんといるべ。わしみたいなのは別だが零みたいに有名なのは素性を隠すのが普通だわな」と事実上、連絡手段は途絶えていた。
仕事をする傍ら、他の四人の噂もよく耳に入った。特に俺たちは珍しい殺し屋の様だった。【擬死】という精巧な死んだふりをできる人はかつては数人いたそうだが、今現在日本で俺たち五人しかいないようだった。そのせいもあって有名になったのだとか。肆と陸は特に擬死を使って仕事をすることはないようだったが、捌と柒はよく使っているみたいで、相手の不意を突いて攻撃したり、死んだふりをして油断させ、相手のアジトに忍び込んだり、とそれなりに駆使しているみたいだった。
ある噂を聞いたのもそんな頃だ。
肆、陸、捌の三人が、それぞれの支持するフィクサーを暗殺したとのことだった。彼ら三人の支持するフィクサーは、裏社会でも五本の指に入る大物だ。三人がそれぞれ敵対するフィクサーを一人ずつ殺したがために、口裏を合わせていたんじゃないかという噂までたった。
俺はそれを聞いたとき絶対に違うと思った。
そもそも誰かの下に入って動くような奴らじゃないのだ。廃屋で別れるときも、彼らは「社会に出て一人で生きていく」と言って出て行った。
あいつらはきっと、今も一人で生きている。
誰かを慕い、信用するなんてあいつらにとって、世界一周を三日で歩いて達成することと同じくらい無謀な話だ。フィクサーの下に就いたのも、きっと金やら情報やら一時的なものだったのだろう。
だから偶々だ。
陸と捌が死んだ、と知ったのはその三日後だった。
なんでも、零が指示して柒に殺させたとか何とか。あり得ないだろう、と俺は直属のフィクサーに笑って伝えた。柒が女だ、ということを伝えると驚いていた。どうやら性別までは知らなかったらしい。
「女だし、俺らが独り立ちする最後の最後まであいつの力量は他の四人より一歩どころか二歩三歩十歩も劣っていたはずです。ただの噂ですよ」
俺は笑い飛ばしたが、フィクサーのおやじはつられて笑わずに煙草をふかしていた。
「女だって見くびってると奈落の底を見ることになることも、なくはないわな」
おやじは淡々と話した。
「前に、彩っていう殺し屋みたいな女がいてな、あいつには本当に手を焼かされたよ。あれからわしは女だろうと躊躇なくやらなと肝に銘じとるわ。まあそんな彩も、部下に殺されただかでもうこの世にはいないがな」
おやじは女を見くびるなと言いたかったようだ。
馬鹿な。柒が俺に勝てるとでもおやじは言うのか?
あり得ない。それは一緒に隣で教育を受けてきたから俺たちが一番よく知っている。しかし、「力量を見誤るな」という零の教えもあってか、もしかしたら廃屋で別れた頃より成長しているのかもしれないと疑った。
……調べてみるか。
そうして柒の身辺調査を始めた。中学時代のいじめの話を知ったのもそのときだった。
俺も、一人で生きてみようか。肆たちに感化されたのかもしれない。柒の中学時代のいじめの話は、同情できた。俺たち五人みたいなのが他人に同情なんて感情を抱くのはおかしなことだったが、柒は別だった。よくわからないけど別な気がした。
図書館に通うようになった。心理学の本を読み漁った。
催眠術、洗脳。馬鹿馬鹿しいと思っていたことのタネを、俺は理解した。知り合いのクラッカーに頼んで柒の中学時代のライングループに参加した。当時のいじめに関係している四人がぴったり残っていて歓喜した。ついている。だが偶々だ。
それから四日後、突然非通知の電話がかかってきた。肆からだった。
『今から、柒を殺しに行く』
「どうしてそれを俺に?」
『ただの忠告だよ。昔の誼みに免じて言う。陸と捌が死んだのは知ってるだろう?』
「ああ」
『あいつら二人は柒に殺された』
「まさかあ」
『言うと思ったよ。でも、事実だ。俺も最初は信じられなかった。あの俺たち四人より劣っていた女の柒が二人とも殺すなんてな』
「二人ともって、まさか二対一じゃないよね?」
『そのまさかだ。陸と捌は零の命を狙って共謀してたんだ。俺も誘われたが俺には俺のやり方があるからって断った。まあ二人もいれば余裕だろうと思ってた。でも返り討ちにあった。柒にな。あいつは危険だ。多分俺たちの知ってる柒じゃない。それに……』
「それに?」
『零が仕向けたって噂も一緒に聞いただろう?』
「ああ」
『あれは多分本当だ。そして次は俺たちの番だ』
「どういう意味?」
『俺にもわからない。でも悪い予感がする。今ここで柒を始末しておかないと次会ったときに殺される気がする。殺される恐怖から逃げながら暮らすなんて嫌だろう?』
「怯えてんのか? 肆の力量なら十分柒に勝るだろ」
『俺自身信じたくないんだが、多分怯えてるんだ。だから今から殺してくる。でももし、万が一にも俺が死ぬようなことがあれば、玖、お前も気を付けた方がいい。確実に次はお前の番だ』
そこで電話は切れた。
俺は半信半疑だった。
あの冷徹で俺たちの中でも一番強かった肆が、怯えていると自白した。万が一にも俺が死ぬことがあったら……なんて自分が死ぬかもしれないという懸念を抱いている。
その日はそのまま眠った。
朝起きるとフィクサーのおやじからメッセージが届いていた。
「肆、死んだらしいな」と。




