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「性的虐待やら暴力やらは嘘よ。死人に口はないもの。言ったでしょう? 私は殺されて死んだって。私は殺されて死んだから口はないの。大丈夫。多少話を盛ったってどうってことないわ。それに別にそんなのどうだっていいじゃない。事実、担任は褒められた人間じゃないんだし。本当よ? 私が死んだ後に腰振ってたのは本当だし、私以外にも被害者はたくさんいるわ。重要なのは結果でしょ? 性的虐待だとか暴力だとかって話聞かなかったら、担任のこと殺してくれなかった? 私のこと助けてくれなかった? それってどうなの?」
「いや……」水城は言い淀んだ。性的暴行と単なる悪口とで助ける助けないが変わるの? いじめの種類で決めるの? あなたの正義ってそんなもの? と嘲られているような気がしたからだった。
「ほら、重要なのはそこじゃないでしょう。あなたの信念だとか、優しいって言われるところ、小さいとか大きいとかそういう大小で括る器じゃないって信じてるからね。とにかくありがとう。本当よ? 心から感謝してるわ。助けてくれてありがとう」
「でもこれって殺人じゃ……」不安がそのまま言葉に出た。
水城自身なぜこの言葉を口にしたのかわからなかった。というのも、思い出してみれば先程明衣がこの問いについて解を出していたからだ。
『あなたはひもを引っ張るだけでいい。そう。ひもを引っ張るだけ。だから殺人にはならない。あなたはただ、ひもを引っ張るだけなんだから』
要は確認をしたかったのだ。本当に大丈夫だよね? うん、大丈夫。そういう掛け合いと返事、確認作業が欲しかったのだ。返ってくる言葉がわかっている会話程、安心できるものはなく、水城には明衣が「ひもを引っ張っただけなんだから殺人じゃないよ」と言ってくれる景色が容易に想像できていた。そしてその想像を明衣の口から聞きたかったのだ。
明衣は非情だった。また一つ化けの皮を剥いだかのように、さっきまでと違う姿勢の明衣が現れた。
「それとこれとは別よ」水城は唖然とした。横一線に開いた唇が塞がらなかった。
「私は助けてくれるって言うから頼んだだけ。殺ったのはあなた。それだけ。まあ大丈夫よ。心配することない。これから中庭に死体を埋める。この学校、あと一年で廃校になるみたいだから。それに中庭はもう使わないからってタイムカプセル埋めるのに使ったんでしょ? 使わないんだったらそうそう見つかることもないわよ。そのまま校舎解体と一緒にサヨナラだわ。タイムカプセルと一緒にね。なんでタイムカプセル埋めたのかしら」
窓から中庭を見下ろす明衣の顔は無表情だった。よくもまあ人が一人死んだというのに感情を表に出さずにいられるものだ。それも、死んだだけだはなく、その遺体を中庭に埋めるところを目撃してもなおその無表情だ。
昔からこんな無表情な子だったっけ? と水城は思った。中学三年になって転校してきた明衣。特に親しく話すこともなかったが、教室で幾度となく見かけた明衣の顔は、地味なオタクのようには見えても、もう少し柔らかい表情だった気がするのだ。