一緒にごはんverガーリン
見たことのない食べ物に意識が向いてしまって、いきなり尋ねてしまった。
彼女が軽く眉間にしわを寄せる表情で失敗したことを悟ったが、出てしまった言葉は取り消せない。
彼女は不快気にしていたが、興味津々で見ていたガーリンに気を遣ったのか、
「召し上がります?」
と聞いて来てくれた。
「いいのか!?」
思わず喜色満面で答えてしまい、彼女を戸惑わせてしまった。
「あ、や……、やっぱり、君のお昼をとることになってしまうな。いや、うまそうだと思って思わず声をかけた。すまなかったな」
最低な受け答えだ。相手の罪悪感を煽りたいわけではないのに、変な言い方になってしまった。
さっきまでに自分の思考を思い出して、さらに恥ずかしくなってしまう。
群がってくる貴族たちに対して、卑しいだの図々しいだのわめいていた自分がよくも言えたものだ。
目を丸くする彼女にそれ以上視線を向けられることがいたたまれなくて、ガーリンは踵を返した。
くぅ~きゅるきゅる。
「…………」
「…………」
途端に鳴り響く腹の虫。うまそうだ食わせろと腹が勝手に主張しやがった。
「……良ければ、どうぞ」
情けない。情けなさすぎるっ!可愛い女性に恵んでもらうところから始まるなんて。
しかし、彼女に差し出されたものを断るのはもったいなさ過ぎて、謝りながらも彼女の隣に腰を下ろした。
隣に座った彼女は小柄で、小首を傾げて見上げてくる姿に庇護欲がくすぐられる。
何より、可愛い。
どうにかして彼女を口説こうと思いながら、もらったパンにかぶりついた。
「うまい!」
見た目はごちゃごちゃしているように見えたが、それぞれが混ざり合って非常にいい塩梅になっている。これは、改良すれば売れるに違いない。
どう改良するかなど、食べながら頭で組み立てていると、あっという間に手の中のパンはなくなってしまった。
少々物足りないが、満足だと思っていると、隣から呆然とした呟きが聞こえた。
「本気で食べたんですね……」
本当に、今日の自分はどうかしていると、猛省したい。
食べる前にせめて『いただきます』とか、彼女を心配する声をかけるとか。食べながらでも、何か話をするとかできないのか。夢中で食べ終わってしまうなんて。
しかし、彼女はガーリンが昼食を奪ってしまったことではなく、手づかみで物を食べたことに驚いていた。
こんなことされて、驚くところそこか!?
面白いと笑うと、なんと彼女も微笑み返してくれた。
……可愛い。
いや、一目見た時から可愛らしいと思ってはいたが、これはちょっとあれだぞ。うん、すごく可愛い。
性急に名前を呼び合う仲になりたかったのだが、いまいち伝わらなかった。
名前を呼び合うのは親密さの証のはずだが……彼女はあまりそういう知識が無いのだろうか。
そういえば、辺境の村になど行けば、村中の人間が名前で呼び合っている。そういう感覚なのかもしれない。
口説くにはもっと時間が必要だ。
明日も、また同じ場所に来て欲しいと頼んだ。
彼女がここにいるのは、仕事のためだ。勉学も合間にしなければならない忙しい立場だろう。
それでも、会いたいと思ったのだ。
それを伝えると、彼女は満面の笑みを浮かべた。
これは……!
「本当においしかったんですね。残り物次第なので、今日とは違う具になってしまいますが、いいですか?」
――そうじゃない。
いや、おいしかった。おいしかったが、ガーリンの目的はそっちじゃない。
あれが欲しければ、自分で改良していってもいい。それも楽しそうだし。
あれはなくてもいい……と言いかけると、「無かったら意味がない」とばっさりと切られた。
深く傷つきながらも、一応頷いた。
次から、頑張る。