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勘違い  作者: ざっく
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勘違い?

ガーリンがノエルの横に座ったまま、足を蹴りあげて男子生徒を蹴り飛ばしていた。


「……女性?」

男子生徒と……ノエルの声がはもる。

ガーリンが不思議そうにチラリとノエルに視線を向けた。

いや……、だって、女性と言われるとは思わなかった。弱い者いじめとかそういう類ではなくて?

呆然としているノエルを置いて、ガーリンは立ち上がって転がる男子生徒に近づく。

「彼女の学力については大体把握している。特に算術は非常に優秀だ。不正などではない」

ガーリンはしっかりと相手を見据えて言葉を発する。

ノエルが優秀であることを言い、不正はないと証明してくれようとしている。

している……のだが、周りの人は、他の事が気になってそれどころではなかった。


「…………彼女?」


気にするところはそこではないのかもしれないが、一番気になるところだ。


「――?彼女だ。どこからどう見ても女性だろう」


当然、ガーリンは眉間にしわを寄せて周りを不愉快そうに見渡す。

彼にとっては周りの反応が気に入らないのだろう。

倒れた体制のまま、男子生徒はノエルを指さして悲鳴のような声をあげる。


「どこからどう見ても男ですよ!」


残念だが、その意見には賛成せざるを得ない。ノエルは、食堂の制服であるこの格好をしている時に女性だと思われたことは無い。自分でも鏡を見れば幼い男の子に見える。

ガーリンはその返事が残念でたまらないと言うように首を振って大きくため息を吐いた。

「お前たちは男を見たことが無いのか。こんなに愛らしい男がいるはずがないだろう」

その返事に目をむく男子生徒の表情を見ていられなかった。

その反応にムカつくけど同意できる。ガーリンの審美眼について問いたくなる気持ちも。

でも、その対象となるのが自分。もう、やだ。逃げたい。

「あ、そうなんですか……」

彼らは、諦めた。そして、ノエルにちらりと視線を向ける。

しかし、ノエルには、その視線が訴える疑問に答える余裕はない。

今までのガーリンとのやり取りがあれやこれやと思い出される。

主に、ふれあい系統だ。

距離感が近い人だなあとは思っていたけれど、あれが、ノエルが女性だと認識したうえでの行動?え?なにそれ?


彼らは目をさまよわせながら、撤退を選択した。

それには賛成だ。

ノエルもそうっと逃げることにした。

今日は鞄の中のお昼を提供することは諦めよう。今の顔色では彼と対峙する勇気がない。


「どこへ行く」

「ひええぇぇっ!」


ガーリンに腕を掴まれた時、さっきは出なかった悲鳴が出てしまった。



悲鳴をあげたことで、不機嫌な顔をしたガーリンと並んでいつものベンチに座った。

まだ顔の熱さが取れない。

顔を赤くした男と不機嫌な男が同じベンチに座っている光景って、どんなシチュエーションだ。

いたたまれない。

ガーリンといるままでは、この顔色が落ち着くとは思えない。ちょっと逃げさせてもらえないだろうか。

「ノエル」

「ひえっ!」

また悲鳴をあげてしまった。

チラリと見る彼の顔は、眉間にしわを刻み、への字口をして気に入らないと思い切り表している。

だって、自分を異性だと認識しているのに名前を呼ぶって、それって、それって……!

「あ、あの……エクスィアート様は……」

名前を読んだ途端、眉間のしわが深くなった。この状態でガーリンと呼ぶなんて無理だって。

「いつから、私を女性だと認識していらっしゃったのでしょうか」

「俺がノエルを男と思っていると思っていたということか」

責められているような気がして、ノエルは小さな声で「すみません」と謝った。

ガーリンはおでこに手を当てて、疲れたように大きくため息を吐いた。

「反応がいいのか悪いのか分からないと思っていたが……なるほど。そういうことか」

うつむいたまま、疲れたように何かを呟く声が聞き取り辛くて、ノエルは彼の顔を覗き込むようにして声を聞きとろうとしていた。

ガーリンがバッと顔を上げて、近づきすぎだったことにようやく気が付いた。

彼も驚いたように目を丸くする。

しかし、ノエルが慌てて引こうとする前に、彼の腕はノエルを捕まえてしまう。

近い近い!

慌てながら、ガーリンが近いと思ったことは何度かあったなと思い出す。

しかし、そんな考えも吹き飛ぶ衝撃発言をガーリンはする。

「俺は、ノエルが男だと勘違いしたことは一度もない」

「は……」

頭が真っ白になって、思考が停止する。

「今までの言動は、勘違いでも何でもなく、しっかりとノエルを口説いていた」

「え……」

目の前には、真剣な目が、真っ直ぐにノエルに向けられている。

誤魔化す気などない、真っ直ぐな気持ち。

「俺の気持ちに気が付かれていないとは意外だったが、ノエルが俺に好意を持ってくれているとは思っている」

「あ……ぅ……」

じわじわと、さらに顔に熱が集まってくる。

もう、鏡で自分の顔を見ることすら恥ずかしいのに、それを間近で見られている!

恥ずかしくてたまらないのに、自分の体が自分の物でないかのように動かない。

「ノエル」

低い声で甘く囁かれて、もう絶対に動けないと思った。

固まってしまったノエルを見て、ガーリンは微笑む。


――ようやく獲物をしとめた肉食獣のように。



「これから、よろしくな。――ノエル?」



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