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勘違い  作者: ざっく
3/8

お勉強

それから、ほぼ毎日昼食を一緒にすることになった。

一緒に昼食出来ないのは、六限目が算術の時だけ。ガーリンは、授業後にノートで復習すれば分かると、ノエルの都合に合わせてくれる。

ノエルが毎日パンに食材を挟んで出て行くことは、周知の事実になってしまっている。

パンにバターを塗ってから挟むと、パンがおいしいままだとか、水分はパンにはよくないが、固めのパンだったらいいとか、ノエルが作る昼食は進化を続けている。

最近では料理長も気がついている。

なんだか、ノエルが作っているようなものが昼食時に並んでいることもあった。

周りのおばちゃんたちと一緒に目を丸くしていると、料理長は胸を張って言うのだ。

「創作料理だ」

ノエルが混ぜてしまえば、料理長の料理ではなくなるけれど、彼が重ねれば、それが彼の料理なので混ぜてないってことで……。なるほど。盲点だ。

その日は、ガーリンに料理長作のそのままのを持って行った。

「すごいですよね!だから、今日のお昼は、私は何も手を加えていないんです!」

プロが最初から最後までやった方がおいしい。当たり前だ。

「あぁ……そうか」

いつもよりおいしいとノエルは思ったのだが、その日はガーリンが悲しそうだったので、次の日からはまたノエルが作って持って行った。

メニューが違ったということもあるのだが、なんとなく……なんとなく、ガーリンがノエルの手作りを食べたいと思っているような気がした……から。


今日は、ガーリンが少し遅い。

時間をもてあましたノエルはさっきまで受けていた算術の教科書を開く。

手に持ったテストは丸ばかりが付けられて、満点だ。

しかし、納得がいかない。見れば見るほど納得がいかない。

ノエルは算術の教科書をもう一度最初から読んでみることにした。

「そんなに分からないのか?」

どれくらい経ったのか、突然、頭の上から声がする。

驚いて顔を上げると、首を傾げたガーリンがノエルの手元を覗き込んでいた。

「ひゃっ……!」

近い!

至近距離の顔に驚きすぎて、思わず女の子のような声をあげてしまった。いや、女の子だけど!多分、男だと思われているし!

「どれ?……いや、よくできているじゃないか」

ノエルの教科書を覗き込んで、テストも目に入ったのか、さらに不思議そうな顔をする。

「そんなの、公式を覚えれば簡単ですから」

数学は、公式を覚えて、どこでどれを使えばいいか分かれば後は簡単だ。

最初は苦労したけれど、コツを覚えてからは点数が取れるようになった。

その、コツと言うのが問題なのだ。ほとんど納得できていないのに、公式通りに答えを出す。それで、本当に理解できているといえるだろうか。

「普通は、公式を合わせることが難しいのだけどね」

くすくすと笑いながら、彼はノエルの隣に座る。

ノエルは昼食を差し出しながら、口を尖らせた。

「大体、やっていることがおかしいです。分数ってそもそもが割り算なのに、分数の割り算って意味がおかしくないですか?しかも、なんで増える……?」

分けたうちのいくつかを、また分けたうちのいくつかで割る……?なんだそれは。しかも、そうすると大きな数字になるのだ。割っているのにおかしくない?

この解き方は習った。どうしてその解き方に至ったのかは意味不明だったが、結局、解き方をマスターすれば納得できていなくても答えは出るのだ。

それがもやもやして仕方がない。

「ん~?まあ、現実世界ではいまいち具体例が思い浮かばないけど……具体的な数字を入れてごらん?」

「数字?」

「そ。二分の一にしよう。二分の一かける二分の一は?」

「……四分の一です」

かけているのに、小さくなった。これも気に入らない。

「半分の半分って意味だよね。だから、四分の一」

頭の中に、丸いケーキが出てきた。半分にしていたケーキに、半分をかけることになって、そうしたら、四分の一……!

「あ……!なんか、分かったかもです!」

言葉にするのは難しいけど、分数をかけるってことは、割るってことだ!

「そうそう。二分の一割る二分の一だと、その反対。掛け算と割り算は反対のことをする記号だからね」

「1!」

分かった……ような気がする!

「授業では、こんな簡単な数字は出ないから、想像しにくいね」

なるほど、自分が想像しやすいようにすればいいんだ。だったら……と、同じような疑問を持つ算術について、ガーリンにどう想像していくかを聞いていく。彼は、ノエルの質問に少しだけ考えてから、ゆっくりと説明してくれる。

自分で他の人に説明しろと言われても分からないけれど、なんとなく納得できてしまった……!

「すごい……!すごいです」

ノートに書かれた、ガーリンから直接聞いたノエルにしか分からないたとえ話の数々。

すごく充実した時間になった。

「そうか?」

彼は何でもないことのようにお昼を食べ始める。

ガーリンが、お昼を食べる時間もないほどに相談を受ける理由が分かったような気がした。


学校には、年二回、試験がある。

最初は進級したての時で、次は三分の二が過ぎた時。この一年の仕上げ的な試験だ。

最初の試験は散々だった。

そもそも、学校に通えてなくてこの学校で授業を受けさせてもらったのだ。できるわけがない。

それが……

「ふふふ~~」

ノエルはご機嫌だった。

母国語、外国語、算術、政治経済、科学……などなど。いろいろと科目があるが、普段から選択して授業に出ている科目の成績がとてもよかったのだ。

いらないとはっきりと捨てていた科学などもしっかりと試験を受けさせられ、そちらは散々だった。

しかし、外国語や政治経済、特に算術の成績は最高だった。なんと、満点だったのだ。

算術の教師からも「最後のひっかけも解けて、素晴らしかった」と、教室みんなの前で褒められてしまった。

もちろん、全ての科目を平均すると、ほぼ零点のもあるのでひどい点数になるが、ノエルは満足だった。

ガーリンにも報告しなければと、いつもの中庭へ向かう。

途中、人目が途切れた廊下で、後ろから声をかけられた。

「おい。そこの平民」

名前なんて呼んでたまるかと言う底意地の悪さがにじみ出た呼びかけだ。

心の底から無視したかったが、こちらを平民と呼ぶからには、あちらはお貴族様。そういうわけにはいかない。

ノエルは振り返ってすぐに頭を下げる。

「はい。御用でしょうか?」

本来、学校内で身分差は問わないことになっている。だが、こうやって声をかけてくるということは、ノエルを下に見ているということだ。逆らわないのが一番いい。

声をかけてきたのは、三人の男子生徒だった。名前は憶えていない。授業しか受けていないのだ。名前なんて覚える気もなくて、顔だってうろ覚えだ。

真ん中の男がノエルに向かって顎を傲然とあげてみせる。



「お前は不正を行ったな」


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