講義15:魔道具加工学 (1)
実技棟とメチル教授のガレージの間に、小さな小屋が建っている。
本日の講義の場所。
その小屋のドアには、札が掛けられていて、
『火気厳禁』
とてつもなく嫌な予感がしたのでした。
*****
「おじゃまします」
扉を開けて中に入ると。
そこは『工房』だった。
様々な素材、設備。
謎の草、キノコ、粉末、木材、鉄材、鉱石、縄、液体、樽。
ばら撒かれた紙。
そして、部屋の中心に存在するのは、『釜』だった。
かき混ぜ棒のようなものが入れられ、湯気が立ち上っている。
「ようこそ、私のアトリエへ。
歓迎するよ、研究生たち」
身長は、教授というには低め。
青みがかった灰色の、あちらこちらカールした長髪。
濃い灰色のコート、白いシャツ、髪の毛と同じ色のスカート。
コートと同色のロングブーツ。
胸元にはオレンジと緑、色半々のリボン。
子供っぽい童顔、タレ目、瞳の色はピンク。
そして一番の特徴は、うさ耳のカチューシャ。
とりあえず仮で、『うさぎ教授』と呼ぶことにする。
「初めに注意点からだけど。
この部屋で、魔法は絶対に使わないでください。
あと火を起こせるものを持ち込まないでください。
死にます」
「・・・」
「でも、それだけ守れば安全で楽しい場所だよーん」
真顔から一転、満面の笑み。
教授は首を傾けて、両手の人差し指で量の頬に触れてポーズをとった。
とても不安。
「自己紹介ね。
私はノノ。
魔導工学専攻、魔道具加工学を研究する教授だよん」
「よろしくおねがします。
エレナです」
「ノムなの」
「レイナ」
今日は3人。
鎖骨と鯨はお休みです。
「では早速講義に入ろうねー。
魔道具加工学。
そのままねー。
魔道具の加工を学問する。
魔道具って。
まあ、まあ、幅広いのよねー」
「テレサ教授の作る『印譜』も魔道具ですよね」
「その通りだよ。
私も作れるよーー」
そう言って、ノノ教授は、モノが雑然と置かれた大きなテーブルから、印譜を拾い上げて見せてくれた。
「テレサの作る印譜には負けるけどね。
でも作れる魔道具の数は、私の方が多いんだよ。
さて、魔道具。
その具体例を挙げてみよう」
「よろしくお願いします」
「まず、『爆弾』ねー」
「・・・」
ニコニコうさぎ教授は机から、包帯のようなものが巻かれた球形のナニかを持ち上げた。
導火線、らしきモノが付いている。
いや、大丈夫なの?
「私の研究対象の最も重要なモノは『火薬』だよん。
要塞とか、めっちゃ破壊できます」
ボマー教授は、さらにもう1つの爆弾を手に取った。
同じ爆弾に見える、のですが。
「問題です。
この2つの爆弾。
どこが違うでしょうか?」
「エーテルボムなの」
「知ってたかー」
ノム先生は今日も絶好調。
正解をすぐに導いた。
「正解は、『導火線』の有無だよ。
こっちの方には、導火線がないでしょ。
これが、『エーテルボム』。
普通の爆弾は、火を付けて起動するけど。
エーテルボムは、この爆弾に魔力を流して、魔法の力で起動するんだ」
「怖っ!」
「威力は、絶大。
そして、魔力が少ない駆け出し魔術師でも、強力な攻撃を実現できるんだよ。
こいつを大砲に入れて、魔力を球に流す。
大砲を発射して、敵に近づいたら、魔力を解放して炸裂させる。
高威力広範囲攻撃の完成。
これはこの街の自警団でも採用されている兵器なのだよん」
この教授。
ニコニコしながら、えげつないこと言うんですけど。
そういえば、鎖骨先輩が今日の授業は注意しろ、とか言ってたな。
このノノ教授は、学院のヤバい教授ランキングでも上位に入ってくるらしいです。
ちなみに1位はシェムノ教授だそうです。
納得。
「普通の爆弾は、爆発のエネルギーだけになる。
でもエーテルボムは、6属性、全ての属性を対応させられる。
氷属性の爆弾も作成可能なのだよ」
「すごいですね」
「ただし注意点。
属性に応じて、爆弾の材料、中身が変わります。
最適な素材配合が変わります。
なので氷用、アンチエーテル用ボムを、炎属性で収束したりはできません。
というか、威力が下がります」
「その配合に関する知識。
それをこのノノ教授は持っているの」
「ノム、その通りだよ。
私は、この学院内で見れば、魔力的に全然弱い。
だけど。
だからこそ。
道具の力を使って、それを補うんだ。
私も、いつまでも、弱いままじゃいられないからね」
ここで初めて、教授の顔が陰った。
でも、それも一瞬で、話題が次の領域に入る。
「んじゃ、次の魔道具ね。
腕輪です。
レイナが付けてるやつだね」
レイナ、彼女の腕に皆の視線が集まる。
両の腕に、銀色、そして中心に緋色の宝石がはめ込まれた腕輪。
「これは道具というより、武器にカテゴリーされるモノだけど。
私の研究対象でもある。
杖と似た性能を持ち。
通常の武器と比べ、非常に軽量で。
魔法攻撃を主体に戦う魔導闘士に取って、有効な選択肢となる」
しかし、ノノ教授の腕には腕輪はついていなかった。
持ち武器は、腕輪ではないと思われる。
「あとは、細いけど。
薬草類、治癒薬類も研究してる。
でも、この辺は本来、チナミ教授の領域なんだけどね。
トロロさんの農園には行った?」
「まだです」
「私もあそこから素材を分けてもらってる。
まあ危険な毒劇物系は取り扱えないけどね。
もし農園にいく場合は、絶対に勝手に植物に触らないように。
下手したら、死にます」
そして、また教授は真顔になった。
よく見ると、この教授。
至る所に傷や、焦げた痕がある。
『暴発』は日常茶飯事なのかもしれない。
ヤバい教授ランキングに入るのも、よくわかると思いました。
その後、実技棟に移動し、エーテルボムの実演を行った。
ビクビクしながらのエレナが代表。
でも、使い方は意外と簡単。
これなら、並の魔法使いでも、かなりの戦力を持てる。
実は、これ、『国防』にとって、とんでもない威力を発揮する。
そのことを実感し、鳥肌が立ったのでした。