課外14:コーカサス大森林攻略 (3)
ノムレーダーの案内でやってきた場所。
そこには、旅人の大樹と同程度のサイズの、大きな大きな広葉樹が佇んでいた。
この場所だけ森の木が存在せず、開けた場所に。
ぽつんと1本だけの大樹。
その外周に。
100本を越えるほどの『剣』が突き刺さっていた。
「なんだこの場所・・・」
その答えは、すぐに見つかる。
理由は、『知人』がいたから。
「シナノ教授!」
「あらあらみなさん、おそろいで。
今日は冒険者ギルドのお嬢さんも一緒なのね」
大樹の下、無数の剣に囲まれた場所に立っていたのは。
地精召喚魔術を研究する学院の教授、シナノ。
以前と異なるのは、緋色のドレスでも、登山ウェアでもなく。
薄い桃色の豪華なドレスを着ている点。
この衣服のスカート部の地獄フリルは、こんな危険な深い森の中には不釣合いであり。
それらの事実から導き出せる答えは、つまり・・・
「ここが、光の聖地なのですか!?」
「その通りです。
この大樹に、光の地精が宿っています」
メンバー全員が大樹を見上げる。
太陽光をいっぱいに浴びるその大樹。
そこから、光の魔力があふれ出していることを第六感で感じる。
しばしの静寂。
次の発言はエレナから生まれた。
「で、この剣。
なんでこんな数、地面に刺さってるんですか?」
「明確には解かっていないのよ。
でも、こんな逸話、伝説が伝えられています。
この大樹に封印された地精は、元は光の魔法を得意とする屈強な騎士団長だったと。
その騎士団長が戦死した際、彼の残留魔力がこの木に宿った。
残された騎士団員は、天界でも団長が兵を率いれるように、各々自分の愛用する剣を、この場所に刺し、団長への弔いとした。
ってね」
「なら、霊獣というより、神霊とか魔人とかって言うべきなのか?
つまり、この大樹に宿る地精を現界させると、人間の姿になるってことだろ」
「おそらく、イエスです」
「おそらく?」
「実は、ここの地精を現界化させることには、まだ私は成功していないの。
彼に会ったことがないのですわ」
「なるほど」
「しかし、彼の魔力を借りることは可能です。
あなた達がもし、墓場泥棒、神聖なる宝物であるこれらの剣を盗もうをした場合。
神罰を加えてさしあげますわ」
「ならば、シナノ教授がいらっしゃらないときに1本いただいて帰ります」
エレナがそんな冗談を言った。
そして何気なく、1本の剣に触れる。
その瞬間。
「ギャーーーーーーーー!」
エレナの体を光線が貫く。
いや、実際は防壁が魔法を弾いてはいるのだが。
さらに、冷静に考察。
光線は・・・。
大樹から発射された!?
「こちら、自動防犯システムが起動しておりまして。
剣を引き抜こうとすると、大樹から光線が発射されるようになっておりますわ」
「はやく言ってよ!!」
おなかをさすり痛がるエレナと、満面の笑みを浮かべる教授。
エレナの犠牲で、大樹の持つ強大な魔力を、しっかりと認識できた。
ありがとうエレナ。
「もう一言加えれば、この剣には、大した金銭的価値はないのですわ
武具店でも購入可能な武器であるのに加え、歴史的にも古いものなので性能も悪いです。
逆にそのおかげで、盗難の機会が減ってくれているのですわ」
「なんじゃそりゃぁ」
エレナはその場に座り込んだ。
ノムは、剣を眼前で眺め観察している。
リェルは、後方でみなの様子を観察している。
レイナは、いつのまにか、大樹に近づいていて。
そして大樹、その太い太い幹にそっと触れた。
・・・
なにも起きなかった。
レイナは手を触れたまま、振り返り。
とある提案を教授に投げるのだった。
「この光の地精とも、準契約したい」
なるほど。
準契約の話はすでに、エレノムから聞いている。
炎の地精と準契約することで、レイナと紅怜の能力が大きく向上したと。
力を求めるレイナなら、考えても当然の話だ。
しかし、教授は横に首を振った。
「2つの理由があります。
1つ、炎の地精と契約済みですので、重複契約はできません。
2つ、あなたは光の魔法と相性が悪い」
「理解しました」
レイナは大樹から手を離して、リェルの隣の位置まで戻ってきた。
するとエレナとノムも、レイナに続いて、剣の聖域の外に出た。
結果、私と教授のみが聖域の中に取り残された状態。
・・・
2条件。
満たすの。
私だけだ!
「はい!はい!
私、やりたいです!
準契約、やってくれ!」
教授を真剣な目でみつめ、大きく左手を上げる。
見つめる教授の表情は、柔らかいものになった。
が、そこには多少の悲しみの成分が含まれているように感じた。
「言いたいことは、わかります教授。
私の今の魔力のレベルでは、危険であると言いたいのでしょう。
でも。
結構私、頑丈です。
自分で治癒術も使えますし。
優秀な治癒術師も、後方に控えております」
「私が限界と判断した時点で、契約儀式は中止。
それが条件です。
・・・。
試させて、いただきますね」
首で肯定。
私は聖域の外に出て。
大樹に向かい合う。
そして。
始まる。
「契約に従い、顕現せよ。
我はシナノ。
汝は、『ロキシス』。
光で秩序を守る者なり」
応じて、大樹が強い光を放つ。
しかし、ロキシス氏は現れず。
その理由は説明済みであったので問題なし。
さあ、ここからだ。
桃色の光。
それが大樹から、私に向けて。
一直線にやってくる。
エレナから聞いていた通りだ。
この魔力が私を貫き。
それに耐えることができれば、私の勝ちとなる。
くるなら、こい!
絶対に、モノにしてやる。
と、意気込んだ瞬間。
光線がへにゃっとカーブ。
その光が。
とある1本の剣を焼いた。
「あれ?
こないの?」
脱力。
そして、すぐに 嫌な予感。
緊張走る。
光を浴びた剣から何かが産まれる。
それは。
光の騎士になった。
光の剣と、光の盾、光の鎧を装備した。
私はレイシャフトから光刃を出現させる。
そして同時に、騎士の攻撃が始まる。
「こいつを倒すのが条件なのか!!」
光の剣での斬撃。
それが3連続で続き。
私はそれをレイシャフトで捌きながら、後方退避する。
考察。
武器のリーチの長さはコッチが有利。
間合いを詰められないように意識して・・・。
<<ヴン>>
とか考えている間に、相手の武器の剣は変形し。
『槍』に生まれ変わった。
「そんなのありかよ!」
再度、連撃を繰り出す相手。
そして・・・。
「次は斧!」
槍が斧に変化。
当然。
攻撃の途中で武器種を変更することも可能と思われるわけであって。
「弓もありかよ!!」
斧での連撃を受け、大きく後方退避した私を。
光の騎士は斧と盾を『弓』に変形させて、チェイスする。
私はこれを魔導防壁を張って防御。
回避は間に合わず。
体力ゲージ的な何かが、削れていく感覚を受ける。
1発が重い。
ああ、これって。
言いたくはないけど。
ないのだけれど。
「コイツ、私の完全上位互換じゃん」
絶望が顔から零れだしてしまう。
・・・
そして。
私は敗北した。
*****
教授の判断により、騎士は消滅した。
多数の攻撃をその身に受け、動けず。
私は、草の上に寝転がって、青い空、流れる雲を見つめていた。
やはり、予想通り、ダメだった。
エレノムには、一生、追いつけない。
そんなことを考える。
シンセちゃんではないのでした。
「教授!
次回、またチャレンジさせてください!
必ず、準契約成功させます!」




