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講義13:法陣魔術学 (3)

「このまま、次の話題に移りますね。

 次は法陣の『デザイン』の話です」


 空中には、まだ、先程のナナメ描画の桃色法陣が描かれている。


「法陣のデザインは、大きく分けて、『主図形』、『スコア』、『その他、補助』に分類可能です。

 今描いている法陣の中央に、星のような図形が描かれているのがわかるかしら。

 これが主図形。

 光の基本法陣、アークレイの主図形は『七芒星』。

 頂点が7つある星のような図形です。

 これは、法陣魔術の放出の大まかなイメージを表した図形になります。

 『こんなふうに放出したい』という思いを、図で表したもの。

 そんな表現もできます」


「なるほど」


「ご存知かもしれませんが、この通りのデザインでないと、法陣魔術を実現できない、というわけではないです。

 極論すると、ただの円でも法陣魔術を実現できます。

 しかし、非効率、かつ実現難度が高くなります。

 情報構成子は、この魔術光のラインの上を伝達していくと考えられているので、ある程度デザインが複雑でないと、制御性が悪化してしまうと考えられているのです。

 今、私が描いている図形は、過去の偉人達が研究し、アークレイ実現のために最適化されたデザインなのです」


 教授が描く魔法陣は、私がノムから教えてもらったものと同じデザイン。

 私が使えるアークレイと同じデザインである。

 つまり、ノムもサラ教授も、同系統の魔術書で法陣魔術を勉強した、ということを示している。


「次が『スコア』ですが。

 これは、法陣の外周に描かれた文字列に当たります。

 法陣魔術の詳細な内容を、ルーン文字を用いて描いたものになります。

 特に集中力が必要な場合は、この文字列の内容を声に出し、『詠唱』を行うのです。

 これで、魔力収束効率が、多少、アップします。

 『詠唱』を行なうかは、各自の自由になります」


「このルーン文字・・・。

 私が知ってるルーン文字とデザインが違うんだよね」


 その疑問を発したのはシンセ。

 確かに、私の青の剣に刻まれたルーン文字も、このデザインとは異なる。


「法陣のスコアで使われるルーンは『スコアルーン』と呼ばれるもので、上下2本のラインに文字がくっついているデザインのものを指します。

 一方、武具に掘るルーンは、『ノーマルルーン』と呼ばれて、あなたが知っているのは、こちらのルーンであると考えられます。

 『スコアルーン』は、防具製造で用いられることも多いですね。

 意味合い的には、魔力と情報の伝達効率の上昇が主目的なので、デザインが異なるけど似たようなもの、とも言えますわ」


「納得しました」


「そして、最後に残ったのが『その他、補助』の部分。

 これは言葉、そのままですね。

 細かい文字や図形を配置して、微調整を行なう、ということになります。

 これが法陣の基本。

 否。

 『円法陣』の基本、となります」


「ここで、グランドクロスの話になるの」


「その通りよ、ノム。

 グランドクロスで用いられるのは、『十字法陣』。

 十字架の形状の図形を描き、その中心に術発動者が存在する。

 その他、『四方法陣』、『六方法陣』、『八方法陣』など、可能性は無限です。

 実現難度や効率の差、個人的な相性の問題であり、本来、法陣のデザインは自由なのです」


「じゃあ、私は『四方法陣』、やってみようかな」


「でも、最初は円法陣から始めなさい。

 習得難易度が桁違いなのよ。

 『円』という図形は、非常に魔法と相性が良いの」


「了解しました」


 冒険に出ようとしたエミュ先輩を、教授が諭した。

 『四方』『六方』『八方』は私も試してみたが、『円』ほどの効率が出ないので、やめてしまいました。


「さて、おおよそ基礎的な話はできましたね。

 早速、習得訓練、やってみましょうか。

 レイナとエミュは炎、アークバースト。

 シンセは光、アークレイ。

 ・・・。

 あ、その前に、もう1点。

 是非習得してもらいたいスキルがあります。

 これは、エレナも含みます」


「私もですか?」


「それは、『防衛詠唱』です」


「なるほど。

 『魔法陣に魔力を収束しながら、同時に魔法防御もする』というヤツですね」


「その通り。

 『防衛収束』とも呼びますけど。

 これは、法陣魔術に限った話ではなく、後衛魔術師には必須なスキルなの。

 でも、攻撃と防御を同時に行なうスキルなので、意外に習得には苦労するわ。

 ノムとホエールは使えるのよね」


 ここで両者が首を縦に振る。

 確かに、詠唱中は無防備状態になるので、せめて魔法防御力くらい上げておきたい。

 詠唱中に被弾すると、詠唱を中断させられるし。

 かといって動いて回避しても、詠唱の集中が切れてしまう。

 今日、私はコレを練習してみよう。

 ここで、ノムが声をかけてくる。


「エレナ。

 攻撃役が必要なら、ここにいるの」


「たのしそうな」


 いやらしい笑みを浮かべるサディスト。

 レイナといい勝負のドSっぷりである。


「では、先程、光の法陣魔術を見せましたので、次は炎を見せましょう。

 今度は大型の法陣で、大迫力のものを」


 そういうと、サラ教授は着物の懐から、『巻物』を取り出した。

 紫色の巻物を広げると、そこには。

 ・・・。

 白紙。

 白紙の巻物。


「その巻物、なんにも書いてないじゃないですか」


「こうするのよ」


 その瞬間、巻物に赤い文字が現れた。

 なるほど。

 魔術光だ。


「魔法陣を描くときに使う光と同じ原理ですね。

 この光で、巻物にスコアルーンの文字列を描きます。

 この文字列の内容を詠唱するのよ」


「みなさん、少し離れてください」


 その言葉は、シナノ教授のものだった。

 サラ教授と仲が良いという教授。

 先日のような緋色のドレスではなく、かわいい登山客みたいな格好をしている。

 かるっていた大きなバッグも、荷物ギッシリのようだった。

 そんな山ガール教授の指示で、各位サラ教授から離れる。


 空気が変わる。

 サラ教授から漏出する魔力が、危機的な何かを教えてくれるようだ。

 そして、詠唱が始まる。


「地獄より借用せし、罪人を断罪せし灼熱。

 顕現し、全てを飲み込み、地獄へと返せ」


 赤色の20m級の魔法陣が出現。

 アークバーストとしては巨大すぎる。

 これは、ヤバイ。

 もっと距離を取ろう。


「慈悲なき災悪は、その身を焼き、裂き、吹き飛ばし。

 灰塵と化さん、獄炎よ。

 この地へ集え!」


 莫大な魔力が集まるのと同時に、サラ教授の声も大きくなる。

 先程までのおっとりとした声色が消え、本気で相手を殺しにいくんだという、殺意のような波動を感じてしまう。

 そして、ここで私は異変に気づく。

 炎の魔力だけでなく、『魔導』の魔力も集まってきている!


「宵闇の中、光を奪われ、希望を奪われ、羽を奪わられし天使。

 我は魔王ルシフェルの眷属にして、炎を司る四天王なり」


「天使!?

 魔王!?」


「死してなお焼き尽くす、黒き炎。

 地獄の果てまで其を追い続け、残留魔力さえも灰とすだろう!」


「・・・」


「燃えろ、燃えろ、燃えろ、燃えろ!

 体を燃やし、命を燃やし、脳を燃やし、心を燃やし!

 灰と化せ!ちりと化せ!」


「詠唱、長げーよ!!!!!!」


 ツッコミを抑えられなかったエレナ。

 コントかよ。

 しかし、事態はコントでは済まなかった。


「あははははっはははははははははは!!!

 あはははははは!

 焼け死ね!

 死ね!

 あはははははは!」


「なんか教授、イっちゃってるよ!」


「ロックンロール!

 カモン、ベイベー!

 サンキュー!」


「だめだコイツ!

 早くなんとかしないと!」


 シンセがノムに向けて言い放つ。

 しかし、ノム先生は、なんと、目をキラキラさせて教授を見つめていた。

 どうやら、トッテオキの魔法が見れて嬉しいらしい。

 レイナも同様に見入っており。

 ホエール先輩はビビって動けなくなっていて。

 エミュ先輩は、普段通りヘラヘラしている。


 魔法陣の上に集められた、プレエーテル、および炎と魔導の魔力は、今にも暴発しそう。

 私はいったい、どうすればいいんだー!


<<バゴッ!>>


 鈍器で殴った。

 手持ちの杖で、頭部を。

 躊躇ちゅうちょなく。

 サラ教授の頭部を。

 シナノ教授が。


 そして、サラ教授は、おとなしく、地面に倒れこんだ。

 収束された魔力はゆっくりと、空中に霧散していった。


 ・・・


 なんだ、これ・・・。


 そして、シナノ教授が説明してくれる。


「何故。

 私が今日、サラ教授についてきたか。

 お話しします。

 サラ教授は、詠唱を行うと、精神がトランス状態に移行して手がつけられなくなります」


「なんだそりゃ」


「なので、『火消し役』として、私が抜擢ばってきされました」


「本当に、まさに、『火消し役』、だったな」


「本来は危険なので、サラ教授の詠唱を研究生には見せるべきではない、という考えもありますが。

 サラ教授が危険人物であることをしっかりと理解していただくため、本日は皆さんに来てもらいました。

 なのでこれ以降、サラ教授に詠唱の見本をみせてもらうことを依頼するのはやめてください」


「肝に命じておきます」


 まさか。

 『大和撫子教授』は『発狂美人教授』にクラスチェンジした。


「火消しに私が抜擢された理由は、ちょうどこれから南方に向かう用事があったので。

 そのついで、ということですね。

 南の森林地帯に住む、光の精霊に会ってきます。

 またしばらく、みなさんには会えなくなりそうです」


「なるほど、それで登山家のフル装備みたいな格好だったんですね」


「旅が、好きなのですよ。

 それでは、早速、私は出発します。

 サラ教授は、トランス状態のときのことを覚えていませんので。

 目が覚めたら、適当に理由をでっち上げて、『暗くなる前に帰ろう』と提案してください。

 それでは、行って参ります」


 それだけ伝えると、シナノ教授はそのまま草原を南に進み、すぐに姿が見えなくなった。

 残された研究生と、物理で鎮火されたサラ教授。


 そのサラ教授が目覚めたのは、空がほんのり赤くなってきた頃であったのでした。

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