講義13:法陣魔術学 (1)
旅人の大樹は、今日も悠悠としていて。
私たち6人は、その幹に背中を預け、教授様を待っていた。
本日の講義は『法陣魔術学』。
思い出すのは、私が法陣魔術を習得したときのこと。
魔法の効果範囲が広大なため、人の寄り付かない、街から離れた場所まで出向いて習得訓練を行った。
本日我々がこの場所に集められたのも、まったく同様の理由である。
「いらっしゃったぜ」
エミュ先輩が教授に気づく。
草原の中の一直線の道を、進んでくる2人の人間。
近づけば、それが両方女性だと気づき。
さらに近づけば、先頭を歩く女性が、絶世の美人だと気づき。
さらにさらに近づけば、後ろを歩く女性に見覚えがあることに気づき。
2人が大樹の木陰まで入った時点で、代表して私が声をあげる。
「なんでいるんですか?
シナノ教授!?」
*****
全員集合ののち、私たち8人は、大樹から南下した。
道無き道。
草原の中を、ただひたすら進む。
でも、特段、疑問なし。
ただ単純に、街から離れたかったのだ。
『法陣魔術』を見せるために。
そして、教授の『この辺でいいでしょう』という言葉で、全員が荷物を下ろす。
7人が教授を取り囲んだのち、改めての自己紹介が行われた。
「私は、基礎魔導学専攻、法陣魔術学を研究しているサラです。
本日は、ご足労をかけましたわね。
法陣魔術を行使するには、広大な場所である必要があり。
また、クレセンティア近郊でドンパチやってしまうと、クリクラ教授やメリィ教授からお叱りがありそうなので」
「天気もいいし、遠足みたいなもんだったけどね」
その言葉はシンセ。
本日の講義の話を彼女にしたら、『法陣魔術、見たい!』と懇願されて。
無事にパグシャさん、そしてサラ教授の了承を勝ち取ったのでした。
シンセの遠足発言に対して、みんな、にこやかに同意していたが、一人、ホエール先輩だけがへにゃっとしていた。
「法陣魔術なら、ホエールも得意だし。
ついでに、新術でもお披露目しておくれよ。
私は使えないし」
その言葉はエミュ先輩。
ホエール先輩は、了とも否とも言えない表情をしていたが、そのまま、この話は流れ、次の話題へと移った。
「さて、最初に確認をさせてね。
この中で法陣魔術を使える人は挙手してください」
と言いながら、サラ教授も手を上げた。
それを含めて5本の腕が、天に向けられた。
エレナ、ノム、ホエール、シナノ、サラ。
腕が地に向いているのは、レイナ、シンセ、エミュ。
「教授、是非。
是非、法陣魔術のご教授をお願いいたします」
深くへりくだったのは、レイナだった。
レイナならば、間違いなくアークバーストの習得を最初に目指すはず。
鬼に金棒、鴨に葱。
その懇願に、シンセとエミュも乗っかった。
「法陣魔術の習得は、そう簡単なことではないわ。
この場の研究生の中に、3人も使用可能者が存在することが異常なのよ。
でも可能な限りのことは、お手伝いいたします。
基礎的な内容だけでも、しっかり身につけて帰っていただきたい」
「無限の感謝を」
ここで、改めて、教授の容姿を確認する。
茶色の長髪、藤色の着物。
その美しい出で立ちに負けない、美貌。
髪の毛と同色の瞳。
細められた瞳から、おっとりとした優しさを感じ取る。
大和撫子系、美人教授さんだ。
「エレナ、ノム、ホエール。
現状、どういう法陣魔術を使えるのか、教えてもらえるかしら」
「私、エレナは、6属性の基本的な法陣魔術を全部使えます。
アークバースト、アークレイ、アークウィンド、アークスパーク、アークシザーズ、グレイシャル。
特に、アークスパークが得意です」
「素晴らしい」
「あなたって、すごいのね」
サラ教授とレイナが褒めてくれた。
最初にアークスパーク習得して以来、他属性の習得訓練も地道にこなし。
ウォードシティーからクレセンティアまでの旅の中で、時間をみつけては訓練し。
ノムにお手本を見せてもらいながら。
現状、全属性習得まで漕ぎ着けていた。
「アークバーストのお手本は、エレナに見せて貰えばいいわけね」
「アークバーストは一番苦手なんだけどね」
レイナにロックオンされた。
まあ、美人に貸す貸しならば、いくらでも。
「私、ノムも6属性の基本法陣は全習得です。
あと、グランドクロスとアブソリュートゼロを使えます」
「アブソリュートゼロを使えるの!?
マリーベル教会の人間でも、使用可能者はほとんどいないのよ」
さすが、ノム先生は格が違った。
サラ教授から驚嘆を勝ち取ってみせた。
「是非、私のゼミ生として受け入れたいわ」
「有難いお言葉。
でも、そのへんは、まだ、ゆっくり考えるつもり、なの」
「グランドクロスも古代魔術だぜ。
本当に、この青髪、バケモンだよ」
「バケモノじゃなくて、実は、女神様かもしれないねぇ」
シンセ、エミュも感嘆の言葉を述べる。
この2人、ここまでの道中で、既に相当仲良くなっていた。
だいぶん、気が合うらしい。
「次、ホエールの番だよ」
「僕は、基本法陣はアークレイとアークウインド、使えます。
あと、水術のアシッドレインとメイルシュトロームが得意です」
「これまた、稀有な才能ね。
『水術使い』だけでも特殊なのに、その法陣魔術まで使えるとなると」
「レッドドラゴンも倒しましたしね」
「褒められるの、なんか、恥ずかしい。
でも、ありがとうございます」
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