課外12:学院地下ダンジョン レベル3 (1)
『KEEPOUT』。
その封止テープの前に再び終結した。
エレ、ノム、鎖骨、鯨。
そして、レイナ様。
学院地下ダンジョン。
第3階層の攻略が始まる。
*****
第3階層は第2階層と比較して、より壁の色が黒く、また照明は暗く。
そして、敵が漏らす魔力は大きく。
レイナが弱音を吐くほどの攻略難度であることが既知であり。
自然と身が引きしまる。
「第3階層に関して、私が知っていることを述べておくわ。
まず、第2階層よりも広大である、と思われる。
長期戦を覚悟して。
次に出現モンスター。
ウィスプ属、レイス属、デーモン属、ウルフ属、アリゲータ属、ガーゴイル属。
ここまでは第2階層と同じ。
これに加え、さらにワイバーン属、プテラス属など、飛翔系モンスターが出没する。
通路の広さが上層より広くなり、複数体からの同時攻撃を受けやすくなっている。
ウルフ系も含めて、敵の敏捷性の高さに、特に注意を払ってちょうだい」
「隊列、どうしようか」
「今回、前衛に向く人間が、エレナと私、2人いる。
なので、本探索は、『バックアタック』への配慮を行うのはどうかしら。
つまり、前衛2人が隊列の最前列と最後尾に位置する。
これで、背後からの攻撃にも対処可能。
必然的に、最前列の人間の消耗が激しくなるので、適宜交代する」
「それ、助かるー」
「まず、私が先頭に出る。
その後ろを、ホエール、エミュ、ノム、エレナの順で追従する。
エミュは、後衛の2人に危機が迫った場合に対処を行うことをタスクにしてもらう。
前にも、後ろにも行けるようにしておいて」
「ガッテン!」
*****
探索は順調に進んだ。
戦力が比較的低いエミュ、ホエールを、残り3人がサポートする。
ダメージを受けても、ノム先生の治癒術ですぐ全回復。
ノムが健在な限り、全滅はありえない。
ただし当然、攻略難易度は2階層とは桁違いだ。
その一番の理由は、ただ敵が強いから、だけではない。
「来た!」
交代して先頭を預かっていた、私、エレナが警報を出す。
前方からモンスター、の群れ。
そう。
モンスターが集団で襲ってくるようになったのだ。
しかも、異種族混合。
まるで、人間のような、知能や仲間意識があるように。
「後方からも来た!」
ある意味、予定通りのバックアタック。
しかし、まさか前後同時の侵攻とは。
「後方は2体。
ワイバーンとレイス。
ノムと私で足りる。
エミュは前に出て!」
「オーケー。
お任せあれ!」
エミュ先輩が、ホエール先輩をかばうように前に出た。
と同時に、ホエール先輩は魔力の収束を開始する。
「4体、かよ」
前方に魔力体を確認。
その数、4。
視覚情報から得られる、敵の種別情報。
デーモン2体、ガーゴイル、そしてプテラス。
今階層から出現するようになったプテラスは、過去存在したとされる恐竜『プテラノドン』に類似した魔獣である。
体は細く、防御力は低いが、危険なのが、長い嘴と鋭い爪、そして羽。
特に羽は、鋭く、刀剣類のような殺傷力を持っている。
空中を自由に飛び、そのスピードはワイバーンよりも速い。
魔術は使わないが、最も警戒すべき相手である。
逆に、ガーゴイルは防御力が高く、攻撃力は比較的低く、かつ鈍足。
私がコイツの相手をしてしまえば、危険な残り3体を鎖骨鯨組に渡してしまうことになる。
それが、最も避けるべき事態だと考える。
「デーモン2体、ガーゴイル1体、プテラス1体。
計4体です。
プテラス急接近中です。
でも、突破された場合、あえて無視しますので、エミュ先輩、コイツの相手をしてください。
ガーゴイルは捨てます。
残りデーモン2体は、私が殺ります!」
「請け負った!」
そして、私の横をプテラスが通過していく。
想定通り。
先輩方、頼みます。
そして、次に接近したのは、紫色のデーモン、そしてその上位種の緑色のリザードデビル。
『接近』というのは、私の『雷槍』の射程に入った、ということです。
「はっ!!」
青の剣の先端から雷槍。
ソイツが紫色のデーモンを貫いた。
即、相手が戦闘不能になったことを悟り。
同時に、緑のリザードデビルが、物理攻撃に向け、私に急速接近していることを感知する。
『ガーゴイルが接近するまではまだ余裕がある』、という思考を挟んだのち。
私は相手の鋭利な爪による攻撃を、青の剣を持ってして、はじき返した。
そのまま剣で反撃。
相手の右肩をかすめるも、致命傷には至らず。
すぐにバックステップで距離を取ってきた。
その瞬間、感じる魔力。
緑、風。
風術だ!
デーモンは炎の術を使うが、リザードデビルが使うのは風の術。
空間中に魔力が収束されていく。
ここで怖いのは、この魔法が、私の後方に通過してしまうことだ。
運悪く、鎖骨か鯨にヒット。
そのワーストケースを殺す。
私は魔力収束を開始。
属性は風。
目的は相殺。
相手が魔法を発動したのと同じタイミングで、私も放出を行った。
後攻であったにもかかわらず、相殺よりも良い結果を得られることになる。
私の風術の方が威力が高く、風が相手まで到達した。
さほどのダメージにはならなかったが、相手の体勢を崩すことに成功。
その隙を見逃すほど、私は甘くない。
奴の急所に、青の剣を突きつけてやった。
勝負有り。
リザードデビルは即、霧散消滅した。
デーモンも消滅済みであることを確認。
この時点で、ガーゴイルまでは、まだ距離がある。
そのとき、
「うわぁぁっ!!」
悲鳴。
声色から判断、それはホエール先輩。
しかし、私はその声を無視。
今は、先輩たちを信じよう。
そう決心し、私はガーゴイルに向けて侵攻を開始した。
*****
戦闘終了。
我々の勝利だ。
ガーゴイルを雷槍2撃で消滅させ、すぐに引き返すと、そこには、もうモンスターは存在していなかった。
心配だったホエール先輩は尻餅をついているが、流血は確認できず。
大丈夫そうだ。
エミュ先輩が手を差し伸べると、笑顔で受け、すぐに立ち上がった。
「ごめん、ごめんホエール。
倒し損ねちゃった」
「怖かったよぉ」
「でも、結局トドメはホエールが刺したんだし。
もっと胸張りなよ」
どんな戦況だったのかな?
その内容は、余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)で戦況を見つめていたノム隊長から説明された。
「エミュの炎の武具収束は被弾したけど、致命傷にはならなくて。
敵の羽が槍を弾いて、突破を許して。
敵が嘴でホエールを攻撃したけど。
とっさにホエールが杖で応戦して、反撃して。
それで相手が怯んだ隙に、水術でトドメを刺した。
ホエール先輩、意外と物理もいける口、なの」
「それだけ余裕があったんなら、助けてあげなよ」
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