講義12:鉱石学 (1)
監視者。
天空露天にて覗き魔がいないかを監視し、処理までを行う人間のことである。
その監視者が働くのは、天空露天のみではない。
ここクレセンティアで、監視者が最も多く働く場所。
それが、ここ、『宝珠店』である。
ウォードシティの宝珠店も、かなりの豪勢さを誇っていたが。
クレセンティアのこの店を見てからでは、月と亀。
優雅な貴族と屈強な戦士が同じ場所に留まるという違和感。
それは、ここで販売される宝珠が、魔術的な補助能力を持つからである。
宝珠、アクセサリは、以下の3種に分類される。
1つ目がメインアクセサリ。
MA、レインフォースアクセサリ、防壁増補装具、主魔導装具とも呼ばれる。
このアクセサリは、術者を覆う封魔防壁を増強する効果があり、つまりは魔法防御力をアップしてくれるのである。
2つ目がサブアクセサリ。
SA、補助魔導装具とも呼ばれる。
MA程魔法防御力は上がらないが、補助的な魔術効果を発生させるものが該当する。
そして、3つ目がエレメント。
このアクセサリを装備して魔法を使うと、その属性の成長が速くなるという有難い代物。
例えば、炎術が苦手な私は、炎のエレメントを装備して、その苦手分を補う、といったことも可能。
この宝珠店は、この3種全てを取り扱う。
そしてさらに、『鉱石店』も併設されている。
『鉱石店』で販売される『鉱石』は、おおよそ、魔術使用に適した武器や防具を製造するために使われるものである。
ライザ教官から出された宿題をこなすために、私たちはこの鉱石店にも大いにお世話になる必要がある。
さて、しかし。
本日、宝珠店に来店したのは、ショッピングが目的ではない。
サングラスをかけた体格よく、スキンヘッド、黒服の男性が小声で声をかけ。
そして、案内してくれる。
『立ち入り禁止』の表示がされた通路を通り。
応接室に案内され、待機するように言われた。
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出されたコーヒーには手をつけず、大人しく待機していると、一旦退出した黒服さんが応接室に戻ってきた。
女性を引き連れて。
背丈はシンセより小さい。
顔も童顔で、私たちよりも若く見える。
が、この点に関しては事前にパグシャさんから、『レフィリア教授はあなた達よりずっと年上ですので、無礼のないようにしてくださいね』、という注意勧告を受けていた。
腰の下まで伸びる長いブロンドが、彼女の高貴さに拍車をかける。
衣服は全身黒色のドレスで、反対色、金色のラインが映える。
しかし、一箇所のみ白色。
それは手袋。
宝石を扱うためには、白の手袋が適しているのでは、という考察が生まれた。
ドヤっとした表情からは、彼女が彼女自身に向ける信頼が読み取れるようだ。
とりあえず仮で、『尊大ロリ教授』と呼ぶことにする。
「貴殿らが研究生よな。
名を名乗れ」
「エレナです」
「ノム」
「レイナよ」
尊大ロリ教授が私たちを見つめる。
応接室の豪勢さに当てられて、なんか緊張する。
彼女は、まず、どんな話をするのだろうか。
「エレナとノムの武器、私に売っていただけない」
「やなの」
「嫌です」
金の、話だー。
「良い値で買いますから。
こんな質の高い武器、そうそう見たことはないわ。
私は武具店も経営しておりますの。
これは間違いなく、高い値が付きますわ」
「値段の問題ではないです」
「レイナの腕輪も良い代物ね」
レイナは無言のまま、ため息を付いた。
商魂、逞しすぎだろ。
「ならば、こうしましょう。
なんか、持ってきてちょうだいな。
私が高揚するような代物を」
私は思った。
これは、チャンスだ!
「了解しました。
ただし、お代はいりません。
代わりに、『素材』をください」
交渉開始。
「今、私たち3人は、武器を新しく作り直そうとしています。
そのために、質の高い魔導素材が必要です。
特に、私は雷、ノムは封魔、レイナは炎」
シンセがいたら、光を追加するところだが。
本日は、この3人だけ。
鎖骨と鯨もお休みである。
「なるほど。
では、ラヴィ鉱、なんてどうでしょう?
炎の武具素材」
「それは、もう持っています。
もっと、価値の高い交渉にチャレンジさせてください」
「もちろん冗談ですわよ。
まあ、ラヴィ鉱は本当にコストパフォーマンスが高い素材なのですけどね。
そのせいで、枯渇が問題になり始めていますわ。
そこで、先日、ラヴィ鉱の採取をギルドに依頼いたしまして。
その依頼を担当した方々が、すごく優秀だったようで。
予想以上に成果をあげてくださいましたね」
「どこかで聞いた話、ですねー」
「炎獣の洞窟のモンスターも成長していて、危険度も上がっている中。
大変、お見事なアウトプットでした。
お疲れ様でございました」
全部、筒抜けてるのか。
まあ、依頼主には依頼受注者の情報が渡されるのが通例なので、特に問題はないが。
ただしこのとき、ランク情報だけは伏せられる。
そして思った。
洞窟のモンスターが凶悪化しているのを知ってたなら、依頼のランク、先に見直せたのでは?
それならば、報酬、もっと貰えてたはずなのでは、と。
「さてさて、冗談はこれくらいにいたしまして。
講義、とまいりましょうか」
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