課外11:紅怜召喚に関して
私を呼ぶ声がする。
私の中から、私を呼ぶ声がする。
少女の声が、私の脳内に直接響く。
少女『紅怜』の声が、私の脳内に直接響く。
『少女』の状態で召喚した炎の召喚獣。
『獣』と呼ぶことも不遜に思う、絶世の美少女。
冷ややかな瞳。
その視線が私を突き刺す。
「マスター。
召喚していただき、ありがとうございます」
冷徹でありながら、強固なる忠誠心を持ち合わせている。
「頼りにしているよ」
「なんなりと、ご命令ください」
『お手』という単語が脳内に浮かんだが、抹殺した。
「私に、伝えたいことがあるんだよね」
「そのとおりです。
本日は、私、否、『私たち』の召喚に関して、説明をしておきたいと思いました」
「『私たち』・・・。
つまり、それは。
君と、狐さんと、ちびっ子ちゃんの3人、ということでいいよね」
「そのとおりです。
便宜上、ここからは、『幼狐』、『幼体』、『成体』と表現させてください。
まず、あなた様は、この3状態、どの状態の私も召喚することができます。
そして、この3状態は、それぞれで異なった『特性』を持つ、ということを覚えておいてください」
「なるほど」
「まず『幼狐』の状態ですが、1回の召喚で実現できる攻撃力は、比較的低いです。
また、制御の自由度も低い。
『幼体』、『成体』の状態では、『自律性』が働きます。
つまり、マスターが詳細に命令を下さなくても、私たちが独自に考えを巡らせて、対象を殲滅する、ということです。
『幼狐』の状態では、およそ全ての命令を、マスターが下すことになる、と考えてください」
「うーん」
「あなた様の今の疑問を言葉にします。
『では、『幼狐』の状態で召喚することに、意味があるのか?』。
そのように考えているのではないでしょうか?」
「心、読まれたー」
「『幼狐』状態にも利点があります。
それは、『消費魔力量が少ない』ということです。
我々は、魔力を一定以上消費すると、書籍内にて、魔力を回復する必要があります。
魔力消費量が少ないということは、つまり、一回の術者定着で、複数回召喚可能ということを意味しています」
「なるほどなー」
「特に、『幼体』状態の私は馬鹿なので、魔力を無駄遣いします。
それ故に、最も魔力消費が激しいと考えられます。
逆に、『幼体』状態の利点は、『一撃の攻撃力の高さ』です。
全てのエネルギーを持ってして体当たりを行うので、全てのエネルギーを相手にぶつけることが可能です。
また逆に、『壁』として利用するのもアリでしょう」
「『壁』は、申し訳ないなー」
「なので、『幼狐』、『幼体』に関しては、マスターが相手の隙を突き、そのタイミングで召喚してダメージを与える、という戦闘ストラテジーに向いています。
長期的な召喚には向きませんので、その点、ご注意ください」
「了解」
「さて、では最後に私、『成体』状態についてです。
利点は最も自律的行動を得意とする、ということです。
魔力を無駄遣いしませんので、長期的な召喚にも向いています。
私が得意とするのは、式神の召喚です。
猫の形状に収束した複数の炎の魔力を操って、相手を翻弄することができます。
欠点は、式神、1匹1匹の威力は比較的弱い、ということです」
「そうは見えなかったけどね」
「比較的、です」
「例えばさ、敵さんが2人いるとして。
その1人を君に任せちゃってもいい?」
「可能です。
逆に、私はそのようなストラテジーにこそ向いていると思われます。
ただし、1点注意があります。
それは、魔力消費を節約するとは言っても、召喚時間は有限だということです。
あまりにも相手が強大な魔術師の場合、一時的な時間稼ぎしかできません」
「それで十分だよ。
これは凄い。
1人の人間が、一時的だとしても、2人分の戦闘能力を持つのか」
ウォード闘技場のCランクトーナメントで召喚の書を入手したときには、予測しえなかった。
私は、とんでもない力を手にしてしまったのである。
・・・
ここで。
なんとなく、思いつく。
私は、彼女に1歩づつ近づき。
そして両の手を持ってして、彼女を包み込んだ。
「やっぱり。
熱く、ない」
「私の魔力は、マスターに完全に隷属しています。
相性が良かったのでしょう。
本来、ここまで従属情報を共鳴させることは難しいのですが。
そこはマスターに才があったのだと考えます」
「幻魔降臨魔術、の、才能、か・・・」
私は、シナノ教授がかけてくれた言葉を思い出した。
その言葉が脳内から去っていくと、私の意識は再び目の前の少女に向く。
「改めて、これから、よろしくね、紅怜」
「お任せください、マスター」
ゆるかやな抱擁を堪能したのち、私は彼女から離れる。
「話をしたかったのは、ここまでになります。
最後に、提案ですが。
各状態の私を召喚する訓練をしておいた方がよいかもしれません」
「その提案、納得しかないよ。
じゃあ、早速やってみようかな」
私は、少女紅怜の召喚を解き、一旦、魔力を自分の体内に戻す。
そしてイメージするのは『幼女』。
『炎の幼女』。
彼女を脳内に描きながら、少しづつ魔力を空間中に放出する。
「呼ばれました!
マスター、召喚ありがとうございます。
でも、敵さんが見当たりませんね」
「ごめんね、紅怜。
紅怜を召喚する練習をしたかったんだよ」
「なるー。
それでも、呼んでくれて、うれしかったです。
せっかく出てきたので、曲芸でも見せましょうか?
バック転とか得意ですよー」
「見たい見たい」
クレイが華麗に後転。
空中に火の粉が舞う。
突撃させるだけではなく、いろんな攻撃を実現できるかもしれない、と思った。
「紅怜、1つ質問があるんだけど」
「なんでしょうか、マスター」
「ここまで紅怜、『幼狐』、『幼体』、『成体』って成長してきたけどさ・・・。
まだ、進化するの?」
『熟女紅怜』。
それもまた楽しみな。
「にゅー・・・。
たぶん、するかも、しれないし、しないかも・・・。
ごめんなさい、わからないです」
「そっか、ごめんね。
ありがとう」
「そもそも、私、進化できることを知りませんでした」
「そうなの?」
「進化する前は、お姉ちゃんのこと知りませんでした。
でも、今は知ってます」
よく、わからなく、なってきたな。
これ以上悩ませるのはかわいそうなので、ここでこの話題は切り上げ。
ここからローテーションで各状態の紅怜を召喚する訓練を再開したのでした。




