講義11:魔獣学 (2)
「一つ聞いていいかい、エレナ」
「なんでしょうか教授」
「講義って、何すればいいの?」
「知らぬよ」
「パグシャ、教えて」
「先程の『魔導従獣』の話のように、『魔獣学』というブランチにおいて、特に特殊性のある専門的な内容の話をすればよいのです」
「なるほど。
ちなみに、『講義をしなかったら』、どうなるの?」
「端的に言うと、教授職をクビになります。
これは専攻長会議での決定事項ですので、絶対です。
あと、1年間に1冊以上論文を提出しないとクビになりますので。
これさえ守れば、あとはおおよそ、何をやってても自由です」
このやりとり、今やるべきことなの?
「それじゃあ、去年の論文の内容を、研究生諸君に話せば、オーケー?
オーケー?」
「ばっちりオーケーです」
パグシャさんが親指と人差し指で丸を描く。
パグシャさんとノレリア教授が仲良しという話。
なんか、めっちゃわかる。
「紙とペン、持ってる人」
「私のノートを使ってください」
私は私物のノートとペンを偽耳教授に手渡す。
ノートは白紙のページが開かれ、テーブルのど真ん中に置かれた。
無言のまま、偽耳教授は、単語を記述していく。
『軟体動物』、『昆虫』、『魚類』、『両性類』、『爬虫類』、『鳥類』、『哺乳類』。
「ここまでで、質問は?」
その教授の問いに対しては各位無言。
そう、生物の分類の話だ。
「では、ここで問題です。
この分類の中で、モンスター化する可能性がある、と言われているのはどれでしょう。
さあ、みんなで考えよう」
ミリオン・スロット!
というわけで、各位が自分のノートに回答を書き、一斉に回答オープンするということになった。
ここからは私エレナの思考。
問われ、改めて思った。
虫のモンスターって、この世界にはいない。
理由はわからないが。
なので『昆虫』は除外。
『両性類』、『爬虫類』、『鳥類』、『哺乳類』はイエス。
残るは、『軟体動物』と『魚類』。
『軟体動物』っていうのはよくわからんが。
『魚類』、魚のモンスターはなんかの本で見たことがある。
結論:『魚類』、『両性類』、『爬虫類』、『鳥類』、『哺乳類』。
各位、正解が出揃ったようです。
フリップ、オープン。
「正解は・・・。
『軟体動物』、『両性類』、『爬虫類』、『鳥類』、『哺乳類』、でした。
正解者に拍手。
よくできました」
拍手を送られた人間は一人。
さすがのノム先生のみであった。
シンセは私と同じ答え。
レイナのノートには『全部』って書いていた。
ここから解説が始まる。
「『爬虫類』、『鳥類』、『哺乳類』はいいよね。
デーモンやアリゲーターは『爬虫類』、プテラスが『鳥類』、モゲラやワイルドウルフは『哺乳類』。
ちなみにワイバーンは『鳥類』じゃなくて『爬虫類』。
ガーゴイルは『哺乳類』だよん」
「ペンギンは『鳥類』なの」
「さて、問題はここから。
『軟体動物』、『昆虫』、『魚類』、『両性類』。
まずエレナとシンセが気づいたように、この世界では『昆虫』はモンスター化しない」
「なんで、なんでしょうか」
「実は、私が今研究しているのが、まさにソレなんだよね。
なんでなのか。
わたしもまだ、ハッキリわかんない。
生命の神秘、みたいな」
「うーん、不思議」
「次に思い浮かべて欲しいのは『死海』。
東世界と西世界を隔絶する死の海。
その海が航行不能であるのには、2つの理由がある。
1つ目は、天候が安定しないこと。
2つ目は、『クラーケン』が出没すること。
ここで何が言いたいかというと。
条件に『魚のモンスターが出没する』というものが存在しない、ということ。
そして、『クラーケン』は『軟体動物』であること。
その2つ。
死海にすら、魚のモンスターは存在しないのだよ。
まあ、ピラニアとかサメとかは、モンスターみたいなものなんだけどね。
このへん、ちょっと曖昧かも。
というより、『モンスターの定義』が曖昧、とも言うね」
めっちゃ、喋る。
先程、『講義って、何すればいいの?』とか言ってた人と同一人物とは思えない。
改めて。
やはり、この人も『教授』、なのだと思った。
「最後に『両性類』だけど。
これが実は微妙で。
でっかいカエルとか、サンショウウオとかが確認されてるから、これがモンスターにカテゴライズされてるんだけど。
ほかの種族と比べると、攻撃性が低いんだよね。
なので微妙なラインなんだ。
でも、現在の科学ではイエス判定です」
「攻撃性のあるジャイアントトードとか・・・。
即、ジェノサイド、なの」
ノムが嫌な顔をする。
ほんとのほんとにカエルがダメらしい。
「じゃあ、次の問題。
先程あげた分類の中で、もっとも危険と言われるのはどれでしょうか。
ただし、哺乳類から人間は除いて考えてください」
「でも、哺乳類じゃない?」
シンセが即答。
「正解は『爬虫類』。
理由は簡単で、『デーモン』、『ワイバーン』、『ドラゴン』。
厄介なそいつらが、全員『爬虫類』だからです。
本当にこれも理由不明だけど。
爬虫類の危険生物って多いのよ」
「確かに」
「特に、ワイバーンの厄介さときたら。
困ったもんだよね。
どこでもいるんだもん」
「クレセンティアの北方の山地にもいますしね」
「美味しくないし」
「食べたんですか」
「やっぱりモゲラが一番うまい」
憐れ、モゲラ。
「じゃあ、次が最終問題です。
次は得点が倍になります。
誰にでも、優勝のチャンスがあります」
「優勝商品とか、あるんですか?」
「モゲラの唐揚げ」
憐れ、モゲラ。
「では問題です。
先程あげた分類にカテゴライズされないモンスターがいます。
これは何という分類のモンスターでしょーか。
早押しで!」
ピンポン!
越◯製菓!
「アンデット!」
反射神経ならば、ノムにも負けない。
そんな気合いで放った答えは・・・。
「正解!
優勝は、見事20ポイント獲得されましたエレナさん。
モゲラの唐揚げ。
この後、揚げたてをプレゼントします」
「なるほど。
ウィスプとか、レイスね」
納得したシンセと、ムスッとしたノム。
レイナは、ちょっと、なんかボーッとしてた。
「『不死系』、とも言うね。
こいつらは『モンスター』だけど、『魔獣』とは言わないね。
わたしも、あんまり興味ないんだよなぁ。
気になるんなら、メリィ教授のとこに行けばいいさ」
「あんまり会いたくない、の」
そんなこんなで『魔獣クイズ』は閉幕。
結局、全員、モゲラの唐揚げをご馳走してもらうことになったのでした。
・・・
憐れ、モゲラ。




