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講義10:エーテル学 (1)

「おはよう、エレナ」


「どしたの?」


 晴天のクレセンティア。

 朝から既に暖かく。

 気持ちも自然と穏やかになる。


 その陽気に反発するような陰気。

 局所的曇天。

 その中心地はエミュ先輩。


 『ハローハロー』というお決まりのフレーズ。

 無くなって初めて気づく寂しさ。

 ・・・。

 アノヒ?

 最大級のイタワリを持って接しよう。


「エミュの気持ち、わかるなー」


 そんな発言をしたのはホエール先輩。

 わかんの?

 オンナノコの気持ち?


「ぬめぬめーってしてて、ねっちょりでさぁ」


「そうなんだよなぁ。

 ぬめってんだよなぁ」


 これ以上。

 自己の脳内で思考を先行させるのはよそう。

 結論を教えてくれ。

 そんな表情でエミュ先輩を見つめる。


「教授が陰湿なんだよ。

 今日の講義のね」


「陰湿ですか」


「ぬめぬめー」


 ホエール先輩が苦笑いを浮かべ、そして歩みを止めた。

 現在地は研究院の講義棟の一階。

 講義室、事務室、会議室。

 それらを通り過ぎ。

 何の表示もされていない、とある一室の前。

 視覚的な情報は、他の部屋となんら変わらない。

 しかし、簡単なオーラサーチの結果が、ここから先にある異質さを示していた。


「嫌な、予感がします。

 帰りましょう。

 とか言ってみる」


「帰ろうか」


「帰りましょう」


「帰らせませーん」


 エミュ先輩とエレナの会話の間に、突然の来訪者。

 『心臓が飛び出る』という言葉、考えた人の気持ち、今ならよくわかる。


 エレナ、ノム、レイナ、エミュ、ホエール。

 瞳孔が開いた5人の瞳の先が、何もない空間上の一点で交わる。

 しかし、これから何が起こるかは、既に予想がついている。

 なぜならば、そのいやらしい声色に、聞き覚えがあったからだ。


「でてこい!

 変態!

 なの!」


「ぱんぱかぱーん」


 空間が歪み、まずは黒のローブが現れる。

 次に肌色。

 腹部の露出と判断。

 そこから下と上、同時に幻術が解かれる。

 そして確信となる首元のヘアマフラー。

 薄紫の長い髪が、首元をぐるりと一周している。

 さあ、今からお前がなんと言うか当ててやろう。

 『あなたたちの恐怖に歪んだ顔、とっても美味しかったわ』だ。


「あなたたちの恐怖に歪んだ顔、とっても美味しかったわ」


 声色から判断できたおかげで、彼女、オーラ学の研究者、シェムノ教授が完全に姿を表した時点で、私の心臓は平常運転に戻っていた。

 ここで腕の触覚が反応する。

 すぐに確認すると、ノムが私の腕をつかんで、私の背後に回り込んでいた。

 前回の胸撃きょうげきで、彼女は、ノムのトラウマ的な存在になっているのかもしれない。

 今のノムの顔からうかがい知れる感情は、恐怖や嫌悪というより、諦観だったように感じた。


 ここからは、ただの妄言。

 今までノムは、自分よりも『オーラ操作』で勝る人間に遭遇したことがなかったのだ。

 しかし現れた、自分を越える存在。

 絶対的な信頼を寄せていた、彼女のオーラサーチの能力。

 それにヒビが入ったことによる。

 精神的基盤の劣化。


 その基盤。

 私が代わりに支えたい。


「ハラタツー」


 ニヤニヤ、ヘラヘラしながらエミュ先輩が漏らした。


「あんまり意地悪ばっかりすると、鯨のエサにしちゃいますよ」


 同じくホエール先輩がニヤニヤヘラヘラしながら言った。

 ビックリしすぎて、少しネジが行方不明になっているようだ。


「お久しぶりね、エミュ、ホエール。

 エレナ、レイナも、この間は楽しかったわ。

 そして、ノムにゃんもねー」


「ぶちころす、なの」


 笑顔としかめっ面のお見合い。

 その時間が終わりを告げ、誰もに発言権が与えられた。

 その権利を行使したのは教授。


「さて。

 退路はふさぎました」


 にこやかに宣言したシェムノ教授がジリジリと。

 私たちは扉の方向へ追いやられる。


 そして迷いなく、レイナが扉を開けた。


「除湿は得意よ」


 レイナ、クールなのにユーモアセンス高いから好き。

 私の脳内告白が終わると、皆で部屋に潜入。

 偵察は1秒で終わった。


 地下への階段。

 確認可能なオブジェクトは唯一。

 だからこそ、レイナは迷うことなく。

 私たちはその背中を追いかけた。






*****






 五感が競争を始める。

 1位は全身の触覚。

 生ぬるく、多湿。


 2位は嗅覚。

 多種混合の芳香剤の香りの中に、ほのかなカビ臭さを感じる。

 気持ち悪い。


 3位は聴覚。

 今、なんかが鳴いた。

 気持ち悪い。


 味覚くんはお休み。


 最後に視覚。

 ロウソクの火がゆらめき、視覚情報を得るための光を与えてくれる。

 まずは、オブジェクトの列挙から開始。

 謎の苔、謎の苔、そこから生えるキノコ。

 試験管に入った、黄緑からピンクの間の色の謎の液体。

 小動物用サイズのオリ

 本棚、(ほこり)をたっぷりまとった書籍類。


 水道あるな。

 と思ったら、その隣にカエル。

 いっぱいいる。

 うえぇぇ。

 気持ち悪く、なってきた。


 この時点で、一時離席していたダイロッカンくんが戻ってきた。


「瘴気だ」


「エレナ、その考えで正しいの。

 封魔防壁を強化することを推奨する」


 この空間。

 問題は『空気の質』だけではなく、『空間魔力』。

 この地下室中に、微弱だが魔導の魔力が充満している。

 誇張表現すると、攻撃を受けている状態。

 毒ガスと、ある意味同じ。


 では、なぜ。

 私たちはこの部屋から出ないのか。

 それは、シェムノ教授が出口をふさいでいるからである。

 薄暗くて視認性が悪いが、笑みを浮かべていることだけはわかる。

 いじがわるい。


「奥に進むほど、エーテルが濃いわね。

 まるで、フェロモンを放出する食虫植物のよう」


「食人植物じゃないよね」


 この部屋の探索は完了した。

 まとめ。


 1、施錠された扉。

 2、奥へ続く細い通路。


 どちらかに進む。

 私たちが進むべき道は明確。

 エーテルが濃い方向に進む。

 通路。

 そこからエーテルの魔力が溢れてきているから。

 行きたくない。


「私、レイナが命令する。

 エレナ、先頭」


「なんで!

 私なの!」


「じゃあ、私が先頭でもいいの」


「それなら、私でもいいぜぇ」


「ほえほえー」


 そして、みなが私を見つめる。

 ・・・。


「いや・・・。

 なら私が、行きますよ」


「どうぞどうぞ」


「おいっ!」






*****

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