課外9:喫茶世界樹のお手伝い (2)
発狂したユズノさんは、やはり狂っていて、『こんなに買うの?』、と私を驚かせた。
セイカとナナミちゃんは『いつものこと』とでも言わんかのような苦笑いを浮かべた。
しかし、あくまで雑貨。
持ち込んだお手製の買い物バック2つがパンパンになったが、それはセイカとナナミちゃんが担当し、エレノムは荷物持ちを免れた。
「ごめんなさい。
荷物持ちのために参上したのに。
やっぱり私が荷物持ちますよ」
すると、クールビューティーなユズノさんが、いやらしさを孕んだ微笑を浮かべる。
狂気の入り口だ。
「大丈夫。
もう1件行くから」
*****
ユズノさんが先導して連れてきてくれたお店。
お店の前に飾られているのは『木』。
木?
ユズノさんに続いて店内に入ると、やっぱり『木』。
大小様々な『木』や『草』が店内を埋めつくし、それはもう、ほぼ森だった。
「売り物だよ」
セイカの一言で線がつながる。
「観葉植物だ!」
アイテムに近づいて確認すると、発見。
値札だ。
「このお店は、うち、喫茶世界樹の御用達。
『世界樹』の名前に負けないために、絶対に外せないアイテムなの」
ドヤっ、とした表情を浮かべるユズノさん。
椅子に座ってリラックス済み。
店内の観葉植物を見渡して、選別作業を楽しみだした。
私も店内の散策を開始。
すると、ある疑問がすぐに浮かんだ。
「でもでも。
これだけ植物があると、水やりがたいへんですね」
「水やりは必要ないんだよ。
偽物だからね」
「偽物なの!?」
私の一番近くにいたナナミちゃんが教えてくれる。
そしてめいいっぱい、目の前の商品に近づき観察。
目視での確認を諦めると、わたしは指で葉っぱを掴んだ。
「なるほど。
みすみずしさがない」
「喫茶世界樹も同じ。
あれだけの数の観葉植物の管理なんて大変でしょ。
だから偽物。
フェイクグリーン、イミテーショングリーンって呼ばれる。
でもこれはただの偽物じゃないわ。
芸術作品よ」
「その通りだ!」
ユズノさんの力説のあと、また新しい声の持ち主が現れた。
齢40か、50か。
短い白髪を脳天で結って。
何故かアゴヒゲも結っている。
変なおじさん。
強面の職人気質。
ボロボロの作業着は、緑と茶色の塗料で汚れている。
「緑!」
「緑です!」
私を色で指名したおっさんは、一度部屋の奥に引き返すと、2本の『植木』を持って帰ってきた。
私の身長より少し小さいくらい。
そして、これが観葉植物だと考えると、規格外に大きなサイズである。
「俺の問いに答えろ、緑。
この2本の植木。
どちらかが本物で、どちらかが偽物だ。
触らずに、真贋を見極めてみろ」
「やってみます」
てれれれれ、れーれ。
てれれ、れーれ。
てれれ、れ、れ、れ、れ、れーー。
鑑定やいかに。
「この2本、全く、同じだ。
寸分の狂いもない。
どっちも本物に見える。
しゅごい」
「見事なの」
私の後ろに、ノムを含め、みんなが集まってきて覗きだす。
ユズノさんだけは、それを楽しそうに後方から眺めていた。
あれやこれやの意見交換会が始まる。
そして、結論は出た。
「ギブアップです」
おてあげー。
「ユズノ、回答しろ」
「両方イミテーションよ」
「それ、ズルくないですか?」
しかし少し落ち着いて考えると。
結論として、2本ともの真贋を見抜けなかったのは私であって。
ぬーん。
「参りました。
純粋に、すごい仕事です」
「そして、この2本の植木が、今回のお目当てのアイテムなのよ。
オーダーメイド、規格外サイズの特注品。
そしてこのサイズで、このレベルの品質を安定供給できるのは、この人、バレル氏しかいないわ」
「だといいがな。
まだ俺も修行の身。
一生続く、修行の身」
私たちが魔術を追い求めるのと同じく、彼にも追い求める理想があるのだろう。
「気になっていたことがあります。
この街、観葉植物が多いって、前から思ってたんです。
世界樹も、私たちの宿も、メチル教授のガレージも」
「緑、その通りだ。
この街は世界一美しい。
そんな自負。
が、しかし、この街は住宅地。
深く自然に触れるためには、城壁を越える必要がある。
なので先人は考えた。
なのでアレイズ様は考えた。
偽物でも、いいのではないかと」
バレルさんの解説にユズノさんが続く。
「この街で、擬似観葉植物のアーティストは、高く尊ばれる存在で、とても人気がある職業なの。
定期的にコンテストが開催され、技を競い会う。
この街で最も価値がある芸術品。
それが、イミテーショングリーンなのよ」
「今回、世界樹に購入してもらうこの2本も、そこそこの値はつけさせてもらっている」
「そして、それでも私はこれを買う。
世界一居心地のよい、そんな喫茶店を作るためにね」
そう。
その理想に近づくため、私とノムはこの2本の観葉植物を、世界樹まで運搬する必要があるのだ。
なるほどなるほどの一仕事。
重さの問題よりも、破損させないための気配りに精神を費やされることとなった。
しかし最後に、世界樹でコーヒーをタダでご馳走してもらい、美少女ウェイトレスさん達との親睦をさらに深めたのでした。
いい休暇でした。
まる。