課外9:喫茶世界樹のお手伝い (1)
講義も、地下ダンジョン探索も、ギルドの仕事も、魔術の鍛練もない。
そんな完全なオフの日。
ノムと二人でやって来たのは喫茶世界樹。
『クローズド』の吊し看板を無視して店内に入ると、無人の店内を楽しんでから、座りなれた席に腰かけた。
コーヒーもない空き時間で、店内観察を楽しむ。
あえて使い古した感を醸させる木製のテーブルと椅子。
まるでその木製家具から生えてきているかのような、店内を埋め尽くす観葉植物。
そこに差し込む朝の日ざし。
なにをするでもない、ぼーっとしたひととき。
それもいとおしく思える。
私も観葉植物になって光合成したい。
机に突っ伏して眠そうなオーラを出す私のほっぺたを、ノムがまったりな力加減でプニプニする。
最近イベントが重なって忙しかったから、こんな時間もいいなぁとか思ったり。
すやー。
「お、待たせ!!」
ガコシャンと元気よく扉が開かれ、そのあと扉に付加されたベルが痛々しく鳴る。
長い薄ピンクの髪をなびかせながら、ウェイトレスさんが入店し、一直線でエレノムに近づいてきた。
「セイカさん、おはようございます」
「ぬ!」
「感謝感謝。
助かるー」
ピンクのセイカ。
私たちが初めてこの店に来店したときに注文を取りに来てくれた、営業スマイルが眩しい、私と同年代の少女。
が、蓋を開けると変態。
エレノムと、このセイカ。
3人は互いに蓋を開けさせる程度まで仲良くなっていたのだ。
セイカに続いて、2人のウェイトレスさんも入店。
一人は淡い水色の髪、それをまとめてくびり、右肩に垂らしている。
クールで真面目な印象のある少女。
いつもいい匂いがする。
蓋を開ければツッコミ担当。
彼女がユズノさん。
喫茶店のマスターの娘さんでもある。
もう一人は淡い紫色、羊みたいにモコモコした長い髪。
くるくるのアホ毛。
やんわりとした笑顔がとってもかわいい、癒し系な少女。
彼女がナナミちゃん。
ピンクのセイカ。
水色のユズノ。
紫のナナミ。
喫茶店の制服を着た3人は、この喫茶世界樹の仲良し美少女看板娘3人集。
喫茶店に通いつめるうちに、気軽にお話しできる間柄になっていた。
*****
今日のミッション。
一言で言えば『荷物持ち』である。
喫茶店に置くための雑貨などなどを買い込みたいから、お付き合い頂けると助かります。
セイカさんの提案に、ユズノさんも乗っかって。
でも、そんな荷物持ちが5人も必要になるくらい雑貨買うの?
とか思ったが、面白そうだから黙殺した。
そんなこんなで、私たち5人は、ユズノさん行きつけの雑貨屋さんにやって来た。
暗めの照明と、レースカーテンごしに窓から差し込む光が、陳列された雑貨達を照らし、非日常感を醸し出す。
魔導具店の怪しさ+カフェのお洒落さ。
とりあえず、店内を軽く一周。
指輪、ネックレス、ブレスレット、カラーストーンなど。
これらはある意味『イミテーション』。
マジモノの宝石や、魔術的な力が込められた装飾具は価値が高く、盗難の危険性が高いため置いていないらしい。
そういうものが欲しい場合は宝珠店に出向く必要がある。
しかしこれらの雑貨も、魔術効果が全くゼロという訳ではない。
掘り出し物があるかもしれない。
その次に目にはいったのは食器、カトラリー、テーブルクロス、コースター、ケトル、エトセトラ。
続いて、文房具類。
その奥には芳香剤、アロマエッセンス、ポプリ、ハーバリウム、小さな花瓶、多肉植物。
さらに進んで、バッグ、帽子、ハンドタオル、ファブリック、ストール、スリッパ、手鏡、もろもろ美容品。
最奥に控えしは、モゲラとウニのぬいぐるみ。
奴ら、愛されてんなー。
あと謎の石像とか、木彫りのなんたらとかもあった。
品揃え豊富。
その商品、1点1点を眺めながらの考察。
それが楽しくて。
これだけの商品数があれば、半日は時間が潰せそう。
なんか癒される。
宿屋にも飾れるお土産でも買って帰ろうかしら。
「ふぁぁあぁあぁぁあ!」
突如響き渡る甲高い声。
すぐにその声の方向に視線を送ると、水色の髪。
その他の人物は視界に入らない。
・・・。
???
ユズノさん!?
いつもクールなユズノさん。
そのユズノさんは、胸に手を当てて、小刻みにぷるぷると震えている。
なんか『おしゃ・・・、おしゃ・・・』とか呟きながら。
「ユズノは、お洒落フェチだからねぇ。
あまりにもお洒落なアイテムに出会うと、発狂しちゃうんだよ」
ピンクの長髪がゆらゆらと。
そちらを向くとエメラルドの髪止めが目に入る。
セイカさんは、私の隣で雑貨を触りながら教えてくれた。
「発狂って・・・。
でも、普段のクールな出で立ちとのギャップがいいですね」
「そこがかわいいのだよなぁ」
セイカさんは心底楽しそうにニヤニヤしている。
たぶん、このセイカさんが、私と一番気が合う。
そんな気がした。
「セイカも、抜群にかわいいですぜ」
「エレナには負けるよ」
*****
セイカとたわいもない話でイチャイチャした後、ふと店内を見渡すと、ノムとナナミちゃんがイチャイチャしていた。
よきかな。
と思ったら、ノムはイチャイチャを中断し、私の方にやって来た。
「エレナ、何か買った?」
「ペンを新調しようかなーって。
ノムは?」
その質問を受け、ノムは『ぬいぐるみ』をもち上げて見せてくれた。
ウサギ耳の女の子。
バニーガールな衣装で、マジシャンハットとJ型のステッキを装備している。
胸に抱ける程度のお手頃サイズ。
「あたしゃうれしいよ。
ノムにもこんな乙女ティックな一面が残っていただなんて」
「魔法の練習のときの的にしようと思って」
「返してきなさい」
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