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講義9:魔導制御工学 (2)

「改めましての自己紹介。

 僕はメチル。

 魔導工学専攻。

 魔導制御工学を研究している。

 本来なら、ここから一般的な説明のフローに従うのだが、君達の場合は別」


「ゴーレムに関して既知だからですね」


「そうだね。

 ならばゴーレムの動作原理は知っているね」


「回答。

 エーテルとアンチエーテルの魔力の『反発力』。

 これを利用する、の」


「なぜ君達2人が、それほどにゴーレムに詳しいのか?

 それを先に教えておくれ」


 実はこれこれしかじかで。

 なるほどなるほど。

 ぬーん。

 コーヒーうまうま。

 かくかくうまうま。


 ・・・


 そして、『シエル・ニクロムは只者ではない』という結論で、一式の説明がクローズされた。


「ぜひ、そのシエルくんに会ってみたいね」


「若干クソガキ感がありますが、笑って許してもらえると助かります」


 まったり談笑する3人。

 この間、レイナ、蚊帳の外。

 もしかすると若干機嫌をお損ねになられてるのでは?

 ちらりとご尊顔を見やると、うつむき。

 その視線の先には小さなメモ帳。

 手には深紅のペンが握られて。

 逆の手にはコーヒー。

 それが桃色の唇に運ばれて。


 私はコーヒーになりたい。


 心配御無用。

 講義はすでに開始されている。

 それだけの話だった。

 私とノムの冒険談にも、吸収できる魔術的な知が含まれている。


 さて、私もノートを開こう。


「さあ、では仕切り直し。

 ここから僕の講義を始めよう。

 まず『魔導制御工学』とは何か。

 それは文字通り。

 魔術を用いて、なにかしらの対象を制御する、魔導工学の学問分野(ブランチ)

 この『魔術による制御の方法』は、2つ語られる。

 一つは、風術を用いる方法。

 もう一つは、魔導術と封魔術の反発力を利用する方法」


「ぬぅふ」


「風術を用いる場合は単純。

 風という物理運動エネルギーで、操作対象を押す、というわけだね。

 しかし、この風による操作は、『粗い』んだ」


「精密制御に向かないの」


「そこで、2つ目の策。

 魔導封魔反発力を利用した物体制御。

 これが着目される訳となる」


 そこまで説明すると、教授が一時離席。

 謎のメカを胸に抱えて戻ってきた。

 そのメカがテーブルの中央に置かれる。

 乙女3人はコーヒーをテーブル端に移動させた。


 なんじゃらほい?

 観察開始。


 円筒形。

 その頭にファンがついている。

 そしてその円筒のサイド2箇所にでっぱり。

 私から見て左には『E』、右には『A』という文字が刻まれている。

 この2文字を見て、既に何をすればいいのか理解できた。


「エレベーターだ!」


「なるほど。

 魔導エレベーターも既知なのだね」


「乗せてもらいました。

 エミュ先輩に」


「ならば、何をすればいいか、わかるね」


「私、エレナが代表して試行します」


 私はメカに向かい合う。

 よく見ると円筒部にニコニコ笑顔が描かれていた。

 かわいい。

 よし、命名。

 君を今から『コロスケ』と名付ける。


 私は魔力収束を開始。

 魔導と封魔の2地収束。

 コロスケの左手、Eと書かれた方に魔導。

 コロスケの右手、Aと書かれた方に封魔。


 破壊しないように。

 徐々にエネルギーを増やす。


 エネルギーが一定の閾値を超えると、コロスケの頭のファンが回り始めた。

 それを脳天側から(のぞ)き込むと、ファンの回転が生み出す風を顔面に受け、『うぉう』ってなった。

 涼しい。


「『魔導モーター』。

 魔導と封魔の反発力を、回転運動のエネルギーに変換するための装置。

 魔力を増やせば、回転数も増える。

 魔力の『極性』を反転させると、逆回転になる」


「EとAを逆にするんですね」


 私は魔力供給を一旦停止。

 ファンの停止を確認後、極性を反転。

 コロスケの左手、Eと書かれた方に封魔。

 コロスケの右手、Aと書かれた方に魔導。

 前回と同じく、徐々に回転数を増やしていく。


「なるほど、吸い込む方向に回転しだしましたね」


 ノムがファンの近くに紙切れを持ってきて、実験。

 小さな声で『吸ってる、吸ってる』とつぶやいた。


「この魔導モーターが魔導制御工学の基本型。

 この回転要素に紐付きゴンドラを付加したもの。

 それが魔導エレベーター。

 このモーターを応用し、様々な駆動機械を発案できる。

 そして、その魔導駆動応用の最先端を走っているのが、魔導建造学のトニック教授、というわけだよ」


「夢、広がりますね」


「そうだね、エレナ」


「そして、この魔導モーターの原理は、ゴーレムにも応用されている。

 そういうことでいいのかしら?」


「レイナ、その通り。

 でも構造的には、魔導エレベーターほど単純じゃない。

 なんせゴーレムは『人間の模倣』だからね。

 駆動の自由度が半端じゃないんだ」


「駆動部ごとに、小さな魔導モーターが取り付けられている。

 操作者はこのモーターを、並列的に、別々に操作。

 具体的には各部に魔力を流す。

 これにより、各稼働部が独立して動き、その結果、人間らしい動きが実現される。

 そんな予想」


「ノムは、実際にゴーレムを動かしたことがあるのだったね。

 さすが。

 実体験した人間は、その本質の理解が深い。

 その言葉が浮かび、突き刺さる」


 手に持ったコーヒーをひとあおりすると、メチル教授は言葉を続ける。


「駆動部の多さ。

 それを並列に同時制御する。

 それは簡単なことではない。

 非凡なる魔術の精密制御能力が必要になる。

 そしてノムはそれを実現し、さらにシエルくんはそれを越えている」


「そして教授は、さらにその上を行く、の」


 ノムが教授を称賛する。

 それを受けた教授は、はにかみ、ごまかす。

 本当とも、嘘とも言わず。


 余談ですが、シエルは複数ゴーレムの同時操作も実現していた。

 もちろん1体1体の戦闘能力は下がるが。

 それでも、たった一人で『軍隊』を担う、狂気的な能力。

 仮に、この教授もその程度の危険性を孕んでいる。

 そう考えた方がよさそうだ。


「もう一点、強調したい。

 それは、1稼働部ごとの『制御』に関して。

 その稼働部への入力となる魔力は、オンとオフの2値ではなく、どの程度の魔力量かという『連続値』である。

 また魔導封魔の極性が、その値の正負を表す。

 符号付きの数、実数値が入力となる。

 そしてその結果得られる『出力』。

 それは入力と、内部状態の掛け合わせ」


「内部状態、ですか・・・」


「たとえば、ゴーレムの足を一歩動かしたいとき。

 足にめいいっぱいの魔力を流したらどうなる?」


「ゴーレムが、足つっちゃう、とか」


「意味合い的には正解だよ。

 つまりは過負荷。

 求める出力に対して、入力が大きすぎる。

 なので適当な値の入力を与える必要がある。

 さらに足が持ち上がった後は、逆方向にブレーキとなる力を加える必要がある。

 ゴーレムが既に運動エネルギーを保持しているから。

 これが今のシステムの内部状態。

 この内部状態は時間で変わる。

 だから、時間の一点一点において、最適となる入力値が存在する。

 そしてそれは数学の力を持って、ある程度表現できる、ということなのさ」


「数学、怖い」


「数学から、逃げるな、なの」


 ノム先生からの激励。

 でも、やっぱり数学は怖い。

 たぶんグレーターデーモンくらい怖い。

 そして、無言のレイナ様。

 コーヒーを飲むふりをして、視線を()らしていた。

 たぶん、アンチ数学仲間。


「今は数学は求めないよ。

 ただし、もしも僕のゼミ生になるのなら、避けては通れないね。

 その時は覚悟を決めてね」


「微分、積分、絶対必須。

 ようこそ、数の神秘の世界へ、なの」


「私には底無しの泥沼に見えるぜ」

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