課外8:水術 (1)
朗らかな陽気。
澄み渡った青空。
吹き抜ける、涼しげな風。
ただ、この場所にいるだけで、心が洗われるようで。
クレセンティアの街から東に向けて。
そこには無限に広がる、悠悠たる草原。
その中に刻まれた、土色の一直線。
「見えてきたね」
進んだ先。
見えてきたのは、1本の大樹。
雄々しくそびえる。
みどりの葉を、幾千万と蓄えた。
この~木、何の木。
「『旅人の大樹』、だよ。
ここまで歩くと、だいたいクレセンティアから2時間程度。
それを旅人に教えてくれる。
と同時に、大きな木陰で休憩もさせてくれる。
そんな有難い観光名所さ」
説明ババア、エミュ先輩が教えてくれる。
エミュ先輩は一番乗りで、光のコントラストの境界線を越えた。
2番手は私、エレナ。
続いて、ノム。
最後に、若干お疲れ気味のホエール先輩。
最後だったにも関わらず、一番最初に大樹の幹にタッチし、そして背中を預けて座った。
「ほえー、疲れたね」
まだまだ、全然余裕です。
そんな表情の女性陣3人。
特にエレノムに関しては、はるばる、西大陸を横断してきた訳であって。
こんな数時間でへばる、へたばるような。
柔な。
女々しい乙女ではない。
戦乙女なのである。
「ホエールは、朝練が必要だね」
「朝は苦手だよぉ」
「がんばれ、がんばれ」
エミュ先輩がチアアップ。
意外と、様になっていてかわいい。
・・・。
・・・。
『意外と』、って、失礼だな。
訂正。
様になっていてかわいいです、純粋に。
「飯、食う、の」
ノム先生は、地面に下ろした、ずっしりバックをゴソゴソしだした。
何が出るかな?
何が出るかな?
何が出るかな?
テレレレン。
「パニーニ!」
「パニーニ!」
ごまだれー!
ノムがそれを天に掲げて叫び、私もそれに続く。
パニーニ!
「パニーニで来たか!」
「いいね!パニーニ!」
ノムの『パニーニ』で、みんなが笑顔になった。
さて。
パニーニとは、トーストしたパンに種々の具材を挟んだもの。
要は、サンドウィッチである。
でも、パニーニって言いたい。
言葉の響きがいいから。
こんがり焦げ目をこさえた、香ばしそうなフランスパン。
そこからはみ出る、トマト、レタス、ハム、そしてとろとろチーズ。
「生ハムとチーズのパニーニで勝負なの」
それを見て、今度はホエール先輩がカバンをゴソゴソしだした。
勝負。
それは、『誰が一番、美味しいお昼のパンを用意できるか』。
そんなミニイベントのことである。
しかし、ノムは本気だ。
そして、私も負けるつもりはない。
それは残り2人も同じだ。
「僕はこれ。
スモークサーモンとクリームチーズのサンドイッチ、だよ」
細身のパンに挟まれた、ピンクのサーモンが確認できる。
さずが鯨先輩。
魚で来たか。
「でも、まだ完成じゃないよ。
ここから、ファイアーの魔法でサーモンとチーズを炙るんだ」
そう言って、ホエール先輩は指先から炎を揺らめかせ、挟まれた食材に焦げ目をつけていった。
『本気で殺しに来ている』。
そんな言葉が脳内に浮かんだ。
「次はエレナだよ」
「驚くなかれ!
私は、これだ!」
ふっくら丸いベーグル。
その中に挟んであるのは下から順に、ベーコン、レタス、そして目玉焼き。
さらに白濁のドレッシングソースを滴下。
「シーザーソースのベーグルサンドです」
「なる」
エミュ先輩が短く呟き、その他2人も納得の表情を浮かべた。
まもなく、エミュ先輩がカバンを漁り出す。
曰く、エミュ先輩は料理上手らしい。
意外にも。
どん尻に控えし、大本命となる。
取り出されたパンは、4人の中で一番大きなサイズだった。
「でれーん。
トマトとアボカドのビーフハンバーガー、だよーん」
「ずるい!
ハンバーガーとか、ありなんですか!?」
「パンでしょ」
「まあ、パンですね」
その後、皆々、パンを4等分。
試食会を実施。
結論として、『全部旨い』という答えが導き出された。
ご馳走様でした。
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