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講義8:魔導光学 (1)

 講義も8回目。

 お馴染みの中央棟1階の教室。

 ではなく。

 今日の講義は、中央棟の『2階』。


 部屋は間違っていないのか?

 そんな疑問により、おっかなびっくりに扉をノックすると、すぐに声が返ってくる。

 ゆっくりと扉を開ける。


 おじゃま、します。


 部屋の内部をざっと確認。

 大量の機材が乱雑に置かれている。

 その1つ1つに視線を送るが、いったいぜんたい、なんじゃこら。


 そして、視線を部屋の奥へ送る。

 窓から差し込む柔らかな光に照らされた机。

 そこには一人の男性。

 微笑みを浮かべ、こちらを見つめている。


「ようこそ、僕の研究室へ。

 歓迎するよ」


「はじめまして。

 3期生のエレナです」


「ノムっていう」


「レイナよ」


「エレナ、ノム、レイナ。

 (めぐ)り合えたことに感謝するよ。

 僕はナルセス。

 応用魔導学専攻、魔導光学を研究するナルセスさ」


 エメラルドの髪、それが右目を覆い隠し、同時に後ろ髪は細く束ねられている。

 鋭い目、瞳の色はとう

 超絶美形、肌白美男子。


 体で一番最初に視線が集まるのが胸元に掛けられた大きな鏡のペンダント。

 その曇りなき鏡に写った私と目が合う。

 今日もかわいいよ、エレナ。


 全身は白いローブで覆われている。

 が、しかし。

 なぜか露出された左半身。

 程よく鍛えられた美しい筋肉を、右胸周辺に確認できる。

 このような容姿も、彼の美意識による意思決定の賜物たまものなのか?

 とりあえず。

 簡易的に、『見せ乳首教授』と呼ぶことにする。


 ・・・


 そこから何故か、訪れた静寂。

 見せ乳首教授は、ただ一点。

 緋色の瞳を見つめ続けていた。


「美しい」


「はい?」


「こんな美しい女性、見たことがない!」


 興奮を押さえきれない教授は、レイナの両肩を鷲掴み。

 レイナは、それをすぐさま振り払った。


「何ですか?」


「僕の、絵のモデルになってくれ!」


 嫌悪感を隠さないレイナにも、お構い無しで攻めるナルセス教授。

 もはや、変態だ。


「絵のモデルになって、私に何のメリットがあるのでしょうか?」


「金を払う」


「お金は間に合っています」


「ならば、欲しいものを何でも与えよう。

 この部屋にあるものならば、なんでも持っていっていい」


「ガラクタに興味はありません。

 あまりしつこいと、爆破しますよ」


「いや、逆に爆破してくれ!」


「なら遠慮なく」


「ここでは、やめて!」


 変態を痛め付けても喜ぶだけ。

 そう考えると、変態って最強だな。


 さて、これでは話が進まない。

 私は変態を美女から引き剥がしにかかる。

 2人の間に入り、変態の視界から一旦レイナを排除すると、両肩を鷲掴みにし、これでもかと揺さぶってやった。


 もちつけ!


 ナルセス教授は、私にされるがままに往復運動を繰り返した。

 目をつむって、口を半開きにして、あうあう言っている。

 私が手を離した後も、慣性の法則が働いていた。

 やじろべえのように時間をかけてゆっくり静止する。

 そして、私をじっと見つめてくる。


「緑の髪、君も美しい・・・」


「ビリビリ、したいかい?」


「おうっ!

 痛っ!痛!痛!」


 ナルセス教授は、全力で手首をプラプラさせて指先の痛み、痺れを(まぎ)らわせる。


「次は、股関を狙いますよ」


「望むところだ!」






*****






「さて、取り乱してすまなかったね。

 真面目な話に戻ろう」


「お願いします」


 エレナ、ノム、レイナ。

 全員がジト目で教授を見つめる。


「僕が研究するのは『魔導光学』。

 『魔導』、『光学』。

 なんだけど・・・」


「なんだけど?」


「僕がメインで研究してるのは『光学』。

 『魔法』は、基本関係ないんだよ」


「この部屋にある、雑多なアイテムは、この『光学』の研究に使うんですね」


「その通りだよ、エレナ。

 さらに、『光学』の中で、僕の感心領域の中心は、『レンズ』なんだ。

 『レンズ』。

 これは、人類史に残る大発明なのさ」


「なるほど。

 それで、あちらこちらに『眼鏡』が置いてあるんですね」


「『眼鏡』を発明したのは、魔導工学の始祖、フローリア様。

 そこから、ここクレセンティアでは『レンズ』の研究が始まった。

 その研究を引き継いでいるのが僕。

 そんな表現も可能となる」


「なるほど!

 フローリア様とエステル様が掛けている眼鏡は、フローリア様が作ったんですね」


「その通り」


 そう言って、教授が指差した先。

 そこには、フローリア様と、エステル様の肖像画が仲良く並んでいた。

 ナルセス教授は応用魔導工学専攻。

 しかし、エステル様だけでなく、フローリア様も崇拝している。

 そこから、この教授の研究の内容を推測しえるのだと感じた。


 その視界に、まんまるい眼鏡を掛けた青髪少女が入ってくる。

 フレームをちょこんと触って、首を少しかしげてポーズを取る。

 かわいい。


「似合う!」


「でも、視界がボケボケなの」


 眼鏡を返却したノムを、教授は微笑ましい表情で見つめていた。


「どうかしら?」


 !!!

 まさかの、レイナ様、御試着。

 わずかな『鋭さ』を持ったフレーム形状が、彼女の鋭利なる美麗さに拍車をかける。

 美人って、何でも似合うからズルい。


「描きたい・・・」


「ナルセス教授、今は自重してください。

 これじゃあ、話が進みません」


「そうだね、エレナ。

 脳内自己去勢しよう」


 レイナが眼鏡を返却すると、講義が再開される。


「レンズは、眼鏡だけでなく、様々なものに応用される。

 まずは、これらを列挙しよう。

 顕微鏡。

 望遠鏡。

 カメラ。

 映写機。

 この4項目。

 これらが僕の研究のメインテーマなのである」


「各々、聞いたことはあるかもしれない、です」


「まずは顕微鏡。

 接眼レンズ、対物レンズをはじめとして、複数のレンズを絶妙に組み合わせ、配置し、人間の目では見えないような微小な構造の視覚確認を実現するもの。

 ここ、クレセンティアでは、魔術以外にも、医学、薬学、農学、生物学、工学などの研究が進められているけれど、顕微鏡はこのような分野でこそ、その真の価値を爆発させるものなのだよ」


「とんでもない発明なの」


「そうだね、ノム。

 顕微鏡によって、世界が『奥行き方向』に広がったんだ。

 さて、次は『望遠鏡』だよ」


「これが、クレセンティア天文台に設置されているんですね」


「その通り。

 また、研究院の時計塔にある簡易天文台にも、レベルは落ちるけどそれなりのものを設置している。

 より遠い、暗い星を見るためには、対物レンズを巨大化し、光をたくさん集める必要がある。

 このレンズの巨大化、及び同時に形状の精密化、平滑化と、我々研究者は戦っている。

 そして、その成果。

 それは、是非、ここクレセンティアに滞在する間に体験していって欲しい」


「ぬぬぬ!」


 肯定のノム語が3回続く。

 私としても、今の教授の言葉を受ける前から、天文台への訪問は予定に組み込まれていたのだ。


「次に進もう。

 『カメラ』。

 それは、今僕が見ている世界を、絵画の世界に閉じ込める、そんな機械さ」


「そんなことができるんですか?」


「百聞と一見の差については周知の通り。

 本物(リアル)を見せよう」


 そう言うと、教授はガラクタの中から、1台の装置を持ち出した。

 三脚の上に、黒い布がかけられた箱が乗っている。


「この装置に向かって、3人並んでおくれ」


 『へいへいほー』と心でつぶやき、教授の指示に従う。

 なし崩し的に、私が真ん中に陣取ることとなった。

 左手にノム。

 右手にレイナ。

 ほぼ同身長の赤緑青が仲良く並んだ。


「はい笑って、笑って」


 その新しい指示に、私だけが従う。

 他の2人が頑ななることを理解した教授は、黒幕を一気にまくった。

 そこから現れた円筒形の構造が、私たちを狙っている。


「動かないで!」


 その指示で訪れた5秒ほどの静寂の時間。


 ここで私は思った。

 『これ、レイナの画像を教授に渡してしまうことになるのでは?』

 『それが教授の狙いだったのでは?』

 『が、時すでに遅し』


 そのあと、教授は黒幕を再度、箱に覆いかぶせる。


「お疲れ様。

 できあがりは後々のお楽しみ。

 銀塩への露光は完了したけど、現像作業に時間がかかるのでね」


「そうなのかー」


「このようにして、君たちの今を切り取って、後世に保存しておくことが可能になるよ。

 このカメラは、今クレセンティアの新聞社で使ってもらっている。

 フィードバックをもらって、日々改善を繰り返している最中さ」


「たしかに。

 新聞には画像も掲載されてましたね。

 あれは、このカメラを使っていたんですね」


「そういうことだね」


 私は改めて、黒幕で覆われた箱を覗き込む。

 こんなガラクタみたいなもので、世界の事象をみなで共有できる。

 ・・・。

 私も1個欲しい、かも。


「値段は聞かないでね」


「さようですか」


「最後の4つ目に行くよ。

 『映写機』。

 これは例えば、先ほどのカメラで撮った結果である『写真』を、スクリーンに投影して、みんなで鑑賞できるようにする装置さ」


「ファンタスティック、なの」


「フィルムに光を当て、レンズで拡大する。

 でも、目指しているのは静止画の投影ではない。

 動画。

 動く写真さ」


「しごい」


「投影したいフィルムを連結しておき、これをテープ状に巻き、くるくると回転させながら光を当てると、まるで映像が動いているように見える。

 そして、まさに今、僕が一番力を入れているもの。

 それが、この動画を皆で鑑賞できる場所。

 『映画館』なんだよ」


 教授の顔が夢に(あふ)れている。

 本当に楽しそうに語る先生は、私たち3人の誰も見ていない。

 好きって、いいよな。


 ノムだけでなく、レイナまでも柔らかい表情を浮かべている。


「この映画館で、僕が求め続ける『美』というものを、みんなに共有できるんだ。

 みんなが愛するクレセンティアの歴史も、後世に残すことができる。

 まあ、1つのコンテンツを作るのには、莫大な労力と時間とお金がかかるのだけど。

 この映画館。

 現在は試験上映中さ。

 もしよければ、のぞいてみて欲しい」


「是非に」


「逆に、これに関して、君たちに1つ聞きたいことがある。

 映像を見せるには『光源』が必要になる。

 でも、良い映像を見せるために必要な、輝度が高くて、より白色に近い光を、現在の工学技術では実現できない。

 そこで現在は、『光術』に頼っている。

 でも、この映画に適した『光』を実現できる魔術師が、現状僕しかいないんだ。

 これじゃあ、僕が特等席で映画を見れないだろ。

 そこで。

 光術が得意な術者がいたら紹介して欲しい。

 もちろん、その人物には報酬を払う」


「なるほど。

 ならば、冒険者ギルドで『シンセ・サイザー』を探してください」


 すぐに浮かんだオレンジ色のツインテール。

 勝手に紹介して良いのか分からんかったが。

 シンセならば教授が変態的行動を取ったとしても、冷静沈着に対処できるであろう。

 逆に、教授が死なないかの方が心配だ。






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