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課外7:天空露天と月の歴史 (1)

『ダンジョン初探索、お疲れ様会をやろう!』


 その提案をくれたのはエミュ先輩。

 エレノムには断る理由なし。

 軽く首を数回上下運動させたあと。

 自然と残った赤髪美女に視線が集まる。


『何?私も誘っているの?

 ・・・

 別に、構わないけれど』




 さて、そんなこんなでやってきました。

 慰労会場。

 それは『クレセンティア天空露天』。

 そう、露天風呂だ。


 地上4階建ての大型宿泊施設。

 その屋上に、お湯が張られている。

 立ち上る湯気。

 その奥に見えるのは、大自然。

 大都会の中に存在する癒しのオアシス。

 自然の岩で囲んで作られた湯船。

 その脇に、南国にありそうな樹木が複数植えられている。

 いくらなんでも豪華すぎる!


 あっけに取られるのは、タオルを胸から下に垂らしたエレノム。

 その後ろから同じくタオルで身を隠した、鎖骨麗しきエミュ先輩。

 胸は小さい、とまではいかないが、私と比較すると控えめ。


 そして。

 それに追従してレイナ様。

 胸は私とエミュ先輩の中間サイズの美乳。

 顔では負けているが、胸では勝ったぞ。


 ちなみにノムはレイナと同程度。

 彼女は意外と女性的魅力が高いのだ。


「こんな都会に、こんな場所があるなんて驚きだろ。

 驚いてほしいなぁ」


「驚いていないように見えますか?

 この街に来て、一番の驚きですよ!

 これはすごい。

 すごい、金の掛けようですね」


「入浴料がもう少し安かったらいいんだけどねぇ」






*****






「ぽかぽかなの・・・」


 露天風呂に口元ギリギリまで浸かったノムが、幸せそうに漏らした。

 そんなノムの隣で、私はお湯に浸かりながら天空を仰ぐ。

 そこには満点の星空。

 そして、それらの存在を超越する『クレセント』。

 月の名を冠したこの街は、月が美しく見えることでも有名だ。


「疲れが吹き飛ぶよ」


「そうね」


「気に入ってもらえたようで安心したよ」


 そう言いながら、エミュ先輩は私の後ろに回りこんだ。

 何?


<<もみもみ>>


「エミュ先輩!?」


「いいからいいから」


 私の後ろに回った先輩は、肩を揉んでくれた。

 こんな良い場所を紹介してもらった上に、肩まで揉んでもらうなんて。

 申し訳なさを含んだ声で先輩の名を呼んだが、エミュ先輩は構わず続ける。

 ここは先輩に甘えよう。


 先輩の指は肩を離れ、首や肩甲骨の上辺りを行ったり来たりする。

 親指が深く体にめり込むたびに、悩ましい声が漏れてしまう。

 これは、ヤヴァイ、でぇす。


「お上手ですね」


「父に昔よくやってたからね」


「先輩ご家族は?」


「父、母、あと妹が1人。

 みんな元気にやってるよ。

 そうだ、今度家に遊びに来なよ。

 エレナなら大歓迎するよ」


「はい、是非是非」


 ここで、首にさらに深く親指が突き刺さると、私は甘美な世界に没入してしまう。

 ちょっと痛いくらいが気持ちいいです。


 しかし、残念ながらここでマッサージは終了。

 私はすぐに感謝の言葉を伝える。


 そのまま、先輩は私の前まで移動。

 私、ノム、レイナ全員を交互に見つめると、語り始める。


「今回の探索は、本当にお疲れ様。

 次回も力を貸しておくれ」


「楽しみにしておいて」


 レイナが代表して言葉で返答し、エレノムは首と笑顔で返した。


「さて、ちょっと先輩の小噺(こばなし)に付き合ってもらってもいいかな?」


「もちろんです」


「昔話をしようと思う。

 月の聖地、クレセンティアにまつわる昔話。

 ・・・。

 エレナ。

 錬金工房にさ、肖像画があったの、覚えてる?

 女性の肖像画」


「ああ、ありましたね。

 超美人の。

 丸い眼鏡をかけた」


「なんていう人物か、知ってる?」


「わからないです」


「フローリア様だよ」


「知ってます!

 知ってます!

 ゴーレムを産み出した、月の従者様ですね!

 三魔女の歴史書に出てきますもん!」


「その通りだよ、エレナ。

 彼女はゴーレムをはじめとした、魔導工学に関連する研究の開祖。

 『魔導工学』という分野に大きく貢献し、多くの遺産を残した。

 我々魔導工学専攻の研究者にとって、神様みたいな人。

 だから彼女の肖像を飾り、常に尊敬の念を忘れないようにしているのさ」


「なるほど」


「次に。

 エステル様の名前は知ってるよね」


「もちろんです!

 大好きなんです、エステル様!

 月の従者にして、ありとあらゆる魔術に関する知識を習得し、全属性の魔術を使いこなす。

 史上最高の天才少女。

 ポニテ仲間!」


「イエス、イエス。

 私よりも詳しそうだね。

 さて。

 そのエステル教授を敬い、肖像を壁に掲げるのが基礎魔導学専攻。

 アルティリス女史もエステル様押しだよ」


「へー」


「では問題です。

 応用魔導学専攻の教授が敬い、肖像を飾っている人物は誰でしょう、か?」


「あーーーーーーーー、誰だっけ?

 月の第一従者は3人いるんですよ。

 エステル様、フローリア様、とあと1人。

 ぬぅん、どうしても出てこない」


「はい、時間切れ。

 正解発表です。

 正解は、エステル様でした」


「あれっ?

 そうなんですか?

 あと1人いましたよね、月の従者様」


「おさらい。

 魔導工学専攻がフローリア様。

 基礎魔導学専攻がエステル様。

 応用魔導学専攻もエステル様。

 そして、もう1人の月の従者。

 それが『アレイズ』様さ」


「そう!

 アレイズ様だ!

 でも、アレイズ様って、歴史書にはあんまり記述がないんですよね」


「エレナ、歴史に詳しいわね」


「好きなんですよ」


「エレナ、的を得た考察だ。

 こここそ、今日話をしたかった点さ。

 工学の天才、フローリア様。

 魔導学の天才、エステル様。

 しかし、アレイズ様には魔術の才能がなかったんだ。

 比較的ね。

 凡人と比較したら最強だよ。

 でもフローリア様とエステル様が天才すぎた。

 そんな2人と、彼女、アレイズ様は、ずっと比較され続けてきた」


「それは、キツイ」


「ご存知の通り、第一従者となるためには、非凡なる魔術の才が必要だ。

 そして、その選定理由により、アレイズ様、フローリア様、エステル様が選ばれた。

 でも、アレイズ様は思い悩んだ。

 全力で魔術を磨いた。

 でも追いつかなかった。

 そして思ったんだ。

 『自分は必要ない』、ってね」


「湿っぽい話ね。

 ウジウジした人間は大嫌いだわ」


「ストップ。

 この話の続きを聞いてくれ。

 ある日、黄昏(たそがれ)ていたんだ、アレイズ様がね。

 そこに月の女王、クレセント様が現れる。

 声を掛けた。

 『悩みがあるなら聞きます』、と。

 そしてアレイズ様は答えた。

 『従者をやめたい』と。

 そして続けた。

 『私には魔術の才能がないのではありません。魔術に対する興味がないのです』」


「そっか・・・。

 人間が何に魅力を感じるかなんて、人それぞれだもんね」


「でも、女王は返したんだ。

 『貪欲(どんよく)になりなさい』、って」


「貪欲・・・」


「『あなたが欲しいものを明確にしなさい。魔術が嫌いなのではなく、他に興味があることがあるのではなくて?なんでそれらを求めてはいけないの?第一従者だから?私はそんな命令はしていないわ。常識は捨てなさい。仕事はしなさい。でも、それ以外の時間はあなたのものよ。自分が信じる人生を歩みなさい』」


「・・・」


「この一言でアレイズ様は変わった。

 魔術の研究もやりながら、彼女は元々好きだった、美術と建築の研究を始めたんだ。

 彼女は、こんな言葉を残している。

 『エステルとフローリアが研究の合間に癒しを感じれるような、ずっとここに居たくなるような美しい街を作りたい』ってね」


「自分の道を見つけたんですね」


「彼女は本気だった。

 そして何より『権力』があったんだ。

 その権力を保つために必要となる魔術的な素養も、さらに磨いた。

 魔術を学ぶ、その目的が変わったんだ。

 そして、クレセンティアの街の全市民に向けて、高らかに宣言した。

 『この街を、世界で最も美しい街に変える!反論は許さない!ついて来て下さい!』ってね。

 そして、この言葉に、市民みんなが賛同したんだ」


「だから、この街は『美しい』んですね」


「そうさ。

 何人もの人間が。

 美術家が。

 建築家が。

 アレイズ様の『美しい街』という合言葉を心にしまい。

 何回も。

 何回も。

 どうすれば、より『美しい』かを考えた。

 その結果が、今のこの街さ」


 この街の魅力は『路地』にある。

 密集した建物の合間の通路が美しい。

 街の中のどんな位置にたたずんでも、どんな角度でも美しく、また場所によって違った魅力を見せてくれる。

 どれだけ散歩をしても飽きることがない。

 そしてそんな街を一望できる、研究棟の屋上での風景。

 その夕日に照らされた光景が、脳内を埋め尽くした。


「肖像画の話に戻ろう。

 エステル様とフローリア様の肖像は学院内で多く飾られている。

 でも、アレイズ様の肖像は、学院の外、この街のいたるところに飾られている。

 この街の全ての住人が、アレイズ様に感謝し、そして崇拝している。

 ・・・。

 だからさ。

 私達は絶対に。

 この世界一美しい街を。

 命をかけて守るんだ」






*****

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