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講義7:オーラ学 (1)

 学院の南西に存在する建物。

 それは『応接棟』。

 来客との打ち合わせを行うための応接室や会議室が備え付けられているそうな。

 正直なところ、エレノム、私たち2人には、全く縁のない場所だ。

 そんな場所を、今回の講義の集合場所として指定されたのだった。


「意味不明」


「同じく、なの」


 今回、先輩2人は欠席と連絡あり。

 レイナは窓の外を眺め、一人黄昏たそがれている。

 絵になる。

 タイトル『窓辺で黄昏たそがれる美女』。

 私は親指と人差し指で長方形を作り、出来上がったフレームにレイナを収めた。


 応接棟2階。

 4部屋あると思われる応接室の前。

 静かな廊下で。

 私は窓から見える広葉樹の緑の葉が風で揺れるのを眺めていた。

 瞑想。

 ・・・。

 ・・・。

 ・・・。

 飽きた!


「先生来ないね。

 暇だー」


「魔術しりとりでもする?

 魔術関連用語だけでやる、しりとり」


「おっし、やろう」


「んじゃあ、ノムからいくの。

 バースト」


「トライスパーク」


「黒魔術」


「月の女王」


「ウインドカッター」


「タイムリープ」


「プラチナ」


「ナイトリキッド」


「ドラゴンブレス」


「スラッシュ」


「収束」


「クルセイダー」


「ダークファイア」


「アークバースト」


「トライアンチエーテル」


「ル、ルーーー」


「ひゃん!」


 えっ!?

 突然、ノムから上がった、聞いたことのない黄色い悲鳴。

 同時に、あからさまに『びくん』ってなった。

 今までで一番『女子』を感じた。


 そして次の瞬間、ノムから溢れ出す漏出魔力。

 戦闘態勢への移行。

 明らかに動揺している。

 すぐに後ろを振り向く。

 しかし、そこには誰もいない。


 はずだった。


 空間がゆがむ。

 私は目をこすり、その歪みに焦点を合わせる。

 徐々に姿をあらわす。


 それは。

 女性だった。


「大成功。

 突然の『耳ふー』攻撃は効果抜群だったようね。

 あなたの恐怖にゆがんだ顔、とっても美味しかったわ。

 ご馳走さまでした」


 『ノムは耳が弱い』。

 そんな知識に意味はない。

 その理由。

 それは、ノムの背後に立つことは不可能であるからだ。

 彼女の『オーラサーチ』の能力は非凡も非凡。

 忍び足で近づいても、漏出魔力を感知されてバレてしまう。


 しかし、そんな私の中の常識が崩壊した。

 目の前の彼女は、ノムのオーラサーチの能力をくぐり、しかも姿を幻術で消して、完全にノムの背後をったのだ。


 かぶった黒のフード。

 長い布のようなそのフードが、腰下程まで垂れている。

 同色の真っ黒なローブ。

 その全身を覆うローブ越しでもわかるナイスバディー。

 悔しいけど、私より巨乳。

 胸元とお腹、おへそ、左の腰から足までが露出している。

 隠したいのか、見せたいのか。

 よくわからない出で立ち。


 たっぷりのクマをこさえた眠そうな紫の瞳。

 同色の髪は、右は短くカールしているが、左側部の髪はそのまままっすぐ下へ。

 そして首の周りで1回転して、また下へ。

 髪の毛をマフラー代わりにするという、超絶奇抜なファッション。

 やばい人だ。

 絶対、やばい人だ!


 威嚇する猫みたいなノム。

 キシャー、とか言いそう。


「自己紹介。

 私は基礎魔導学専攻、オーラ学を研究する、シェムノ。

 よろしくね、子猫にゃん」


「オーラ・・・」


 ノムがそう小さく(つぶや)いた。

 徐々に。

 徐々に。

 本来の彼女の穏やかさを取り戻していった。

 脳内で、交通整理が進んでいっている。


「ノム、です。

 教授はオーラについて研究していることもあり、オーラセーブが得意なのですか?」


「ご名答。

 この世界で最もオーラセーブが得意な魔術師だという自負があるわ。

 あなたも、かなりの才を持っているようだけど」


 一瞬の間。

 (にら)み合う、という言葉は既に適さない。

 見つめ合い、様子を伺っている。

 そのような表現が当てはまるだろう。


 その視線が私に向けられる。

 挨拶をせねば。


「3期生のエレナです」


「同じく3期生のレイナです。

 お待ちしていました」


 気づくと黄昏たそがれレイナも、私の背後まで移動済み。

 すごく丁寧に、『今後は時間厳守してね』と伝えた。


「さて。

 ここではなんですので、応接室に入りましょうか。

 講義のお時間です」






*****






「オーラ。

 その言葉。

 もう知っているとは思いますが、復習ね。

 オーラとは、魔術師から、意識的、もしくは無意識的に流れ出る魔力のこと。

 攻撃魔法を撃つ場合、その攻撃魔法の持つ魔力だけでなく、別途無駄に漏出された魔力も相手、攻撃の受け手まで到達する。

 受け手はこれを感じ取ることで、放ち手の魔術的な傾向を推測することが可能となる。

 また魔術攻撃時のみならず、平常時も一定量の魔力が漏出し続けている。

 ・・・。

 これってね。

 最悪なの。

 わかる?」


「戦わずして、相手に自分の情報筒抜けってことですもんね」


「その通りよ。

 だから2つの能力が必要になる。

 オーラを読み取る『オーラサーチ』。

 そしてオーラを隠す『オーラセーブ』。

 これができない魔術師は、いつまで経っても三流。

 わかったわね。

 レイナ」


「・・・。

 善処します」


 釘を刺されたレイナ。

 確かに、レイナは魔力を垂れ流す傾向がある。

 オーラセーブは苦手そうだ。


「オーラサーチ、オーラセーブも、習うより慣れろといった言葉しかないわね。

 詳細を知りたければ、私の論文を見てちょうだいな。

 と、いうわけで。

 今日は実践。

 オーラ感知、制御に慣れてもらいます」


 オーラサーチも、オーラセーブも。

 私エレナは完全独学。

 特に訓練などはしていないが、ノムの見よう見まね、かつどうしても必要な技術であったため、いつの間にか熟練度が上がっていった。

 これを意図的に練習できるのであれば有難い。

 改めて言う。

 この2つの技能は、それが魔術戦闘の勝敗を決めてしまうほど、重要なものなのだ。


 おそらく同じ考えであろうノム。

 答えを求め、()かした質問をする。


「具体的にはどうすれば」


「それじゃあ、レイナ。

 あなたからね」


「私ですか」


 嫌そうな顔をしたレイナ。

 彼女がこんな顔をするのも珍しい。

 ほんとに苦手なんだな。


「隣にあと3部屋、応接室があります。

 今から1分以内に、いづれかの部屋の中に入りなさい。

 クイズです。

 エレナとノムには、レイナがどの部屋に入ったか、当ててもらいます。

 外れたらレイナの勝利」


「なるほど。

 オーラセーブ vs オーラサーチの戦いなわけですね」


「単純だけど、すごく有効な修行方法なのよ。

 1人ではできない、ということが問題点だけど。

 オーラ操作の訓練は、複数人でやるのが定石。

 さあ、レイナ。

 見つからないように、持てる最善を尽くしなさい。

 漏出魔力だけではない。

 物理的な衝撃、音の発生にも気をつけなさい。

 もしも私を騙せたら、ご褒美をあげるわ」


「はあ、ご褒美ですか」


 とくにご褒美に期待の薄いレイナは、終始困惑した表情のまま応接室から出ていった。

 とても静かな時間が訪れる。

 耳を済ます。

 小鳥がちゅんちゅん鳴いている。


 そろそろ、いづれかの部屋に入っただろうか?

 しかしここで、ノムから残念なお知らせが入る。


「今、一番こっち側の部屋に入ったの」


 私たちが今いるのが、応接棟入り口方面から数えて1つ目の部屋。

 応接室1、である。

 そしてレイナは応接室2に入ったと。

 そうノムは宣言した。


「と思ったら、部屋を出た。

 今、廊下。

 今度は、一番奥の部屋に入ったの」


「筒抜けすぎる」


 あわれ、レイナ。


「それじゃあ、1分経ったから。

 答え合わせね」






*****

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