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課外6:学院地下ダンジョン レベル1~2 (2)

「これがキーストーンだよん」


 迷路のようなダンジョンを、手書きの地図を持ったホエール先輩の的確な指示により得られる最適経路で進んだ先。

 たてまつられた大きな丸い石。

 ハゲ頭くらいのサイズ。

 撫でたらご利益(りやく)ありそう。

 ナンマイダー。


「触ってみて、エレナ」


 エミュ先輩が催促。

 すべすべか。

 あぶらギトギトか。


「ぺたぺたーっと」


 先ほどの魔導錠のビリビリ罰ゲームの件が思い起こされ、私はそっとそのノッペラハゲに触れた。

 すぐに反応あり。

 触れた部分が淡く光りだす。

 嫌な感じはまったくなく、柔らかい温かさ。

 まったり。

 その光と温もりは、5秒程で消えてしまった。


「これで解錠、完了よん」


 じっとを見るエレナ。

 変化、違和感、共になし。

 まあ、先輩が完了と言うのなら完了なのだろう。

 続いてノムも同じ作業をする。


「ちなみに、なんで、毎回私が先に行動させられるんすかね。

 ノムが先でもいいのでは、なかろうか?」


「愛だよ」


「そんな愛はいらん」


「完了なの。

 古代の不思議に触れられて、私はとても満足。

 楽しい遠足なの」


「お気楽~」


 そんな(かろ)んず発言を真に受けてはいけない。

 旅の安全を祈願するため、私はハゲ頭に向けて手を合わせた。






*****






 さて、私たちは再びビリビリ魔法陣が仕掛けられた螺旋階段の前まで戻ってきた。

 『敵が復活する』という発言はあったが、その復活にはある程度時間がかかるらしく、帰り道では敵に遭遇しなかった。

 『敵を倒しても意味がない』、ということはないようだ。

 しかし、『次回探索時は復活している』。

 そう考えるべきだろう。


「とーりぬけー、なの」


 ノムがビリビリ魔法陣を、ジャンプして越えたり、戻ってきたりする。

 ぴょんぴょんしやがって。

 たのしそうな。


 ある程度の反復跳躍運動を繰り返したら、ノムは飽きたらしく、下の階へ降りていった。

 このままノムが先頭を行ってくれれば助かるのだが。

 今回の探索。

 明らかに3人が、『エレナ先頭』になるように意図して行動しているのがよくわかった。

 まあ、たしかに私は前衛だから仕方ないのだが。

 がしかし、前衛だけど『壁』ができる職業じゃあないのよね。

 ・・・。

 私の職業ってなんだろ・・・。

 ・・・。

 ・・・・・・。

 すばしっこい、小さい剣装備。

 ・・・。

 盗賊?






*****






 レベル2。

 さあ、雰囲気が変わった。

 壁の見た目も、より黒っぽい色に変化。

 照明も、少し、暗くなった?

 しかし、そんなことはどうでもいい。

 問題は漏出魔力だ。

 そう。

 これはこのフロアにいるモンスターが漏出させる魔力と考えられる。

 地下1階と比較にならない。

 敵の強さ、インフレしすぎだろ!


「こっからはお遊びじゃあないよ。

 心して。

 そして、手作りの地図もない。

 私とホエールも初めて探索する。

 未踏領域さ」


 ホエール先輩が白紙の紙とペンを手にしている。

 マッピング係。

 それはとてつもないほどに重要な役割である。

 それを後衛である先輩が担当することは、理にかなっている。


「左に行きます?

 右に行きます?」


 この階も地下1階と同じく、降りてすぐに下層への螺旋階段が存在。

 そして当然のように半透明の魔法陣。

 魔導錠だ。

 もうビリビリはしたくない。

 さあ、キーストーンを探そう。


 南に上層への上り階段。

 北に下層への下り階段。

 今、北を向いた状態で、左と右に通路が存在する。

 1階のときと同じように、ここはエミュ先輩に判断を任せよう。


「左にしよう」


 クラピカ理論は?

 右かと思った。


「1階探索のときは、ずっとエミュに道を選んでもらったけど、すっごく迷ったんだよぉ。

 だからエレナが決めてほしいなぁ。

 なんかラッキーガールな感じがするんだよ、エレナって」


「ラッキーガールですか。

 ほんじゃ右で」


 ここで1点補足。

 おそらく宝箱は取り尽くされているから、階層をくまなく探索することはあまり意味がないと思われます。

 以上、補足でした。


「信用がないねぇ。

 まあ、ラッキーガールが言うんなら従うよ」


「新しい通り名が増えたの。

 よかったね」


「ダサくない?」






*****






「速い!」


 2匹のワイルドウルフの強襲。

 自分の身を守ることは、まだこのレベルの敵なら容易。

 1匹に雷の槍(サンダーランス)をお見舞いすると、狼は霧散、消滅した。

 が。

 しまった!

 一匹、後方に逃した!


「エミュ先輩!!」


「オーケー!

 お任せあれ!」


 エミュ先輩の持つ槍。

 そこに炎の魔力が集まっていく。


「シンセといい勝負だ」


 私よりは低いが、それでも冒険者ランクA-は固いと思われる解放魔力。

 正直、なめていた。

 先輩。

 強い!


ほむら!」


 その咆哮と同時に、先輩は槍を狼に突き立てる。

 その瞬間、槍を中心に、炎の旋風が巻き起こり。

 加速する旋風が、狼を吹き飛ばした。


 最後まで気を抜かないこと。

 そんな当然の思考が、脳を回転させる。

 吹き飛ばされた狼は、地面に衝突すると同時に霧散消滅した。

 近傍空間に敵性魔力は確認できず。

 我々の勝利だ。


「いやいや、腕はまだなまってはいないようで。

 よかったよかった」


「先輩なら安心して背中を任せられます。

 この言葉、使ってみたかったんですよね」


「おう、任せろ!」


 私の冗談に、先輩も力強く返してくれる。

 いつものヘニャヘニャお姉さんは影を潜め。

 古風な魔女は、武術もいける。


「暇なのー」






*****






 1階でも登場した『ウィスプ』『レイス』『デーモン』。

 2階ではさらに『ワイルドウルフ』『アリゲーター』『ガーゴイル』が追加。

 特筆すべきは、ガーゴイル。

 攻撃力はまだ危険レベルではないが、私の攻撃でも一撃で沈められなくなってきた。


 ダメージは皆受けていないが、魔術使用による疲労が、先輩2人には若干見えているように感じる。

 『今日は下見』。

 そんな言葉を思い出す。

 無理は禁物。

 私の基準で物事を考えてはいけない。

 しかし、それはエミュ先輩も十分に理解している。

 アホなフリして、この人。

 本当に常識人で。

 そして何より、『ネガティブ』なのだ。


「先輩、疲れたらノムを前衛にしますから、大丈夫ですよ」


「別に構わないの」


「こりゃ頼もしいね」


「ノム、全然疲れてない。

 すごいよぉ」


 仕事してないだけなんだけどね。

 でも、ノムが健在な限り、私たちが全滅することはない。

 ノムはあえて余力を残しているのだ。

 たぶん。


「あった、あったよ!」


 ホエール先輩がはしゃぐ。

 杖を持っていない左手で指をさし、早く視線の先を共有しようとうながしてくる。

 そこにあったのは、前階と全く同じ『ハゲ頭』だった。

 会いたかったぜ!

 残った元気をかき集め、ホエール先輩とエミュ先輩が駆け近く。

 ノムと私もすぐに追従する。


「みんなで一緒に触らない?」


 エミュ先輩の提案。

 なんか『円陣』みたい。

 コクコクという動作で意思共有し、皆でハゲ頭を取り囲んだ。


「せーのっ」


 ぺたっ。

 と同時に光輝く坊主様。

 1人で触ったときの4倍光っている気がする。

 神々しき。

 有難やー。






*****






 今度はぴょんぴょんすることなく。

 ノムがビリビリ魔法陣を通過した先で振り返り、ピースサインを見せてくれた。

 かわいい。


「オーケー、問題なしだね。

 見たところ、エレナとノムはまだまだ余力があるように感じる。

 時間的にもまだ余裕はある。

 でもでもでもね。

 不甲斐ない先輩を許しておくれ」


「初探索にしては、よい進捗だったと思います。

 先輩達と冒険できて、楽しかったです」


「ぬ」


「ありがとうね2人とも。

 僕も心強かったよ」


「それにしても、あんたら2人は化け物だね。

 どんな修行をしたら、ここまで成長するのか」


西世界(ミルティア)に行く用事があったら教えますよ」


 !!!!


 その瞬間。

 違和感。

 それを拾ってきたのは。

 耳。


 音。

 コツコツという。

 これは。

 足音だ。

 誰かが、階段を登ってくる。


 その判断の正しさを証明するように、ノムも階段の先の下層を見つめる。

 何か来る。










「あなた達、何してるの?」


「そちらこそ!」


 なに食わぬ顔で登場したのは炎の美少女。

 クレセンティア学院、3期研究生、レイナ様だった。


「探索だけど」


「探索をしている理由が知りたいなぁ、なんて」


 絶対、教えてくれない気がする。


「探しているものがあるの。

 内容はまだ、今のあなた達には言えない。

 で。

 そっちは?」


「ただの好奇心での遺跡探索です。

 エミュ先輩が、この場所の秘密を知りたいって言って」


「そう。

 なら目的は同じね。

 じゃあ次回は一緒に行動しない?」


「えーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」


 意外すぎる提案に、4人全員の声が一致した。

 この前の魔女のお茶会が、相当お気に召したのか?

 ここにきて、心の距離が一気に接近したらしい。


「3階層で苦戦しているの。

 歯痒(はがゆ)いけど、これが現実。

 しかし、これを、半年、いいえ、1ヶ月後の私の現実にはしたくない。

 力を貸して。

 そして、私も力を貸す」


 4人は呆気に取られ、その結果10秒ほどの空白の時間が生まれた。

 正気に戻った私たちは意思確認。

 いや、そんなものは最初から必要ないのである。


「もちろん、一緒に行こう!」

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