課外6:学院地下ダンジョン レベル1~2 (1)
Keep out。
その文字が刻まれた封止テープの先。
階段下の大扉。
それを見つめるのは4人。
エレナ、ノム、鎖骨、鯨。
エレナは剣を。
ノムは杖を。
鎖骨は槍を。
鯨は杖を。
各々強く握りしめた。
「本当に行くんですか?」
「大丈夫、大丈夫。
今日は『下見』だからね」
そう言って先輩は犬歯を見せた。
やってきたのは、学院中央の研究棟1階。
そして、この大扉を抜けた先。
そこに存在するのは、学院地下にあると言われる謎の空間だ。
学園七不思議。
その1つとして、エミュ先輩がピックアップした謎。
この地下空間に何があるのか。
それを確かめるのである。
「それじゃあ、レッツらゴー!」
エミュ先輩は、私達の意思は無関係。
大扉を開けて中に入っていった。
驚いたのはその次。
ホエール先輩は、なんのためらいもなく、それに続いたのだ。
『やめよぉよ』とか言うと思っていた。
エミュ先輩大好きボーイだから、無意識的に追従したのかもしれない。
しらんけど。
*****
「明るい」
地下空間。
そこにあるまじき、整備された照明。
誰が管理する訳でもないはずの照明装置が、地下空間を照らしてくれる。
特に不思議な顔をしていない。
そんなエミュ先輩を見つめ、発言を待った。
「魔照石さ」
「魔照石?」
「空間中のプレエーテルを自動的に吸収して発光する。
これが壁に埋め込まれてるのよん」
「そんなもの、聞いたことないです」
「ロストテクノロジーだよ。
今は実現不能な、古代の魔導技術。
つまりは、どういうこと、かなぁ」
エミュ先輩がニヤリと笑い、私を見つめる。
「この地下空間、このダンジョンは、古代の遺跡、ということですね」
「イエス、イエス」
「まさか、こんなものが、学院の地下にあるなんて・・・」
ここで、改めて周辺を確認する。
目の前には、さらに下の階に続く螺旋階段。
いきなり下層に行けるのか。
ラッキーなのか。
はたまた、地獄へ続く階段なのか。
それを見極めるかのように、私は階段の先を覗きこんだ。
なんか・・・
魔法陣が描かれた半透明の幕のようなものが見えるのですが。
気のせい?
「残念だけど、まだ次の階には行けないのだよ」
「何でですか?」
「行けばわかるさ」
そのエミュ先輩の発言の後、全員が黙りこんだ。
何か知ってんなら、教えてよ。
私は階段へ近づく。
半透明の幕。
恐る恐る。
触れてみる。
<<ばぢぢぢぢ!!>>
「うわっちぃ!!」
何!?
何?!
手が痺れ、跳ね返された。
進め、ない?
「これまたロストテクノロジー。
魔導錠。
つまり、鍵がかかったドアさ」
「んな、アホな」
立て続けに訪れる、現在の科学では実現不可能な仕掛け。
そしてやってくる憤慨タイム。
先に教えてくれれば、私が痛い思いしないで良くない!
よくなくない!
じとっ、とした目付きでエミュ先輩を見つめる。
ニヤニヤしやがって。
「解錠方法を教えてください」
痺れた指先をぷらぷらさせながらの質問。
「このフロアのキーストーンに触れる。
それでオッケーさ」
「よくわからんですが、もう先輩の先に進むことはしないので、先行してください」
「へいへいほー」
この時点で、左の通路、右の通路、2つの選択肢があった。
しかし、先輩は迷うことなく右に進んだ。
クラピカ理論かな?
*****
突然ですが、この世界のモンスターの解説のコーナー。
ウィスプ。
残留魔力が凝縮し、攻撃の意思を持ったもの。
魔力属性ごとに、その属性の魔法で攻撃してくる、厄介なモンスター。
レイス。
魔術師の残留魔力が、その魔術師のローブや杖に定着し、アンデット化した存在。
攻撃が単調なウィスプと違い、より複雑な魔法を使うことができる。
上位種は、超危険種。
デーモン。
なりそこないの悪魔。
リザードと悪魔のハーフ。
鋭い爪による物理攻撃と、的確な魔法攻撃を織り混ぜてくる。
この世界でも、危険度トップ5に入る種族。
同じく上位種は超危険種。
そんな厄介な3種類のモンスター。
それらが、代わる代わる、私たちの前に立ちはだかったのだった。
「まあ、雑魚ですが」
相手のレベルはウォード闘技場中級レベル。
もはやとるに足らない、過去通りすぎたステージ。
前衛を任された私エレナが、まるでハエでも殺すかのようなあっけなさで仕留めていく。
後衛のノム、ホエール、そしてその間に陣取るエミュ先輩に出る幕なし。
後ろから、好き勝手にヤジを飛ばしてくる。
楽しそうな。
驚いたのは1点のみ。
それは死体が残らないということだ。
魔力体であるウィスプやレイスならまだしも、デーモンでさえ、撃破と同時に空中に霧散してしまう。
どういうこと?
そんな私の疑念を、エミュ先輩は先読みする。
「今倒した敵は、魔力体だよ。
本物のモンスターじゃない。
幻術を使って、姿を見せる。
原理的にはウィスプとおんなじさ」
「そんな事って」
「不思議のダンジョンなのさ」
ますます深まる謎。
このダンジョンは、一体誰が、何のために作ったのか?
心の奥底に眠る、私の知的好奇心が、脇腹をくすぐってくる。
こちょばい。
「ちなみに、倒したモンスターは、一定時間おきに復活するので気を付けてね」
「ヤバいじゃないですか!!」
「無限増殖、なの」
なんか知らんが嬉しそうなノム。
とにかく、私は今、本当にヤバい場所に来てしまった。
雑魚連戦で気を抜かないようにしなければ。
そんな私の確固たる意志。
それは1秒しかもたなかった。
「エミュ先輩!!
宝箱!!
宝箱あるよ!!」
まさか。
そこにあったのは金色の装飾がなされた赤色の宝箱。
いや、宝箱とか、誰が設置したの?
このダンジョン作った人、何考えてんの?
ダンジョン男なの?
ダンジョン男なの?
宝箱を指さし、振り向き様に先輩に呼び掛けながら、私は駆け足で宝箱に近づく。
そして後続するエミュ先輩の顔を、じーーーーっと見つめた。
じーーーーーーー。
じーーーーー。
「じーーーーーっ」
「大丈夫、ミミックじゃないよ」
「やったぜ!」
重要な確認を済ませると、すぐさまオープン。
宝箱の中から光が溢れる。
温かくて優しい。
そんな光が体を包む。
そして・・・
「からっぽ!」
その瞬間、大笑いする鎖骨と鯨。
こいつら、知ってやがったな!
イラダチスゴイ!!
「待って、待ってよ、エレナ。
空だけど、空じゃないんだよ」
涙を拭いながら、鯨先輩が弁明を開始。
弁護人、前に出なさい。
「このダンジョンも、今まで多くの人が攻略してる。
上層階の宝箱は、もう漁り尽くされてしまっている。
でも、この宝箱には、体力と魔力を回復する力があるんだ。
今、エレナを包んだ光。
それを浴びると、回復効果を得られるんだよ。
だから宝箱は、閉めておいて。
閉めないと、回復魔力が蓄積されないんだ」
確かに、体が軽い気がする。
納得感が苛立ちを緩和してくれる。
ダンジョン攻略に際して、このシステムは誠にありがたい。
丁寧に宝箱を閉じ、私たちは探索を再開した。
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