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講義6:魔導材料工学 (2)

「2点補足しておく。

 白金と銀は魔導効率が良い、マグネシウムとアルミニウムは安価で軽量、そう覚えておけ。

 多少魔導効率が落ちても、武器の重量を気にする機会は多々ある。

 また白金、銀の合金は、その魔導効率の高さに敬意を払い『ミスリル』という別称が与えられている。

 最高の魔導効率を持つ、白銀に輝く金属。

 この世界でも最高レベルの魔導素材と言える」


「教授。

 発言権を与えてください」


「なんだ青髪。

 言ってみろ」


「端的に言います。

 私とエレナ。

 2人の武器をリメイクしたいと考えています。

 そのため、魔導効率の良い金属が必要です。

 この金属の入手に関し、教授にご助力いただきたいのです。

 武器を改造してくださるのはライザ教官です。

 ライザ教官から、紹介状を頂戴しています。

 これです」


「わかった、快く引き受けよう」


「本当ですか!?」


「と、でも、言うと思ったか?」


 昔もあったこの展開。

 なつかしいですねー。

 もう、がっかりもしません。


「なんでもします」


「本当か?

 本当になんでもか?」


「御命令を」


 ノムが交渉術を見せる。

 私も助力せねば。


「私に貸しを作れ」


「貸し、ですか?」


「私がお前たちに感謝の意を示したくなるような、そんな行動を取ってみろ。

 どんな行動を取るべきかは、お前たち自身で考えろ。

 私は『貸し』という言葉が好きだ。

 返してもらえるかはわからないが、相手がより有能であればあるほどに、人生に保険ができる。

 有事に備えたい。

 この街を預かるものとして」


「この街を、預かる?」


「クリクラ教授はこの街の自警団で一番偉い人なんだよ。

 極論を言えば、教授が『戦争を起こすぞ』と言えば、戦争が始まるんだよ。

 以前も言ったけど、この街の自警団は、一国の軍隊よりも強力さ。

 世界征服も夢じゃないね」


「訂正しろ、エミュ。

 あくまで『自警団』だ。

 目的は防衛にある。

 他国を攻めることは絶対にありえん」


「私は、クリクラ教授の一言さえあれば、そんな決まりごとは覆ると思いますけどね」


「そんな決定はしない」


 軍事的な最高決定権を持っている。

 それが、こんな小さな女性なのか。

 しかし、彼女から溢れる漏出魔力から、彼女が私、いや、ノムよりも強いことが理解できる。

 専攻長の地位を持つことは、偶然ではなく必然だ。


「自警団元帥。

 それが私の、もう1つの肩書きだ。

 これでわかっただろ。

 私は忙しいのだ。

 次の予定がある。

 講義はこれで終わりだ」


 そう言うと、2色のジャケットを(ひるがえ)し、クリクラ教授は後退。

 出口のところで黒服の男性が待っており、付き従えて一緒に去って行った。

 偉い、人なんだな。


 そんな人物が、貴重な時間を割いてくれた。

 それは、通常ありえることではない。


「貸しを作る方法、考えないとね」


 私のその言葉に対し、ノムが首を垂直に振る。

 表情からは、彼女の確固たる意志が伝わってくるようだ。

 そして私も同じ意志を持っているのである。


「振り向かせますからね、絶対に」






*****






「今日のクッキーは何かなぁ」


 つまみ上げた紫色のベリーがあしらわれたかわいらしいクッキーをしげしげと眺めるのはエミュ先輩。

 視覚情報を十分に堪能すると、口内へひょいっと放り入れた。


 やってきたのは、もはやお馴染みとなりつつある『喫茶世界樹』。

 目的は明確。

 『クリクラ教授に貸しを作る』。

 その方法を検討するため、まずは彼女と親交があるエミュ先輩から、教授について根掘り葉掘り。

 掘り掘り、掘り掘り。

 吸い出そう、教授の秘密。

 『弱み』、なんかまで抽出できれば完璧だ。


「おいしいわね、このクッキー」


 その言葉の意外性に、3人全員が視線の先を共有する。

 3人とは、エミュ先輩、ノム、エレナの3人。

 そしてその視線の先には緋色の髪。

 魔女のお茶会に、まさかのレイナ参戦。

 意外すぎて、まだ現実感がない。

 ちなみにホエール先輩は用事があるとか言って帰った。

 もしかして、レイナが怖かったのでは?

 そんな思考が生まれた。


「あぁ、私のことは空気として扱っていい。

 ただ話を聞きたかっただけ。

 私も武器作成に興味がある。

 今は腕輪だけだけど。

 今後は新しい可能性を見つけたい。

 そのために、私も教授の機嫌を取りたい」


「せめて空気じゃなくて、薔薇とかにさせてください。

 居てくれるだけで華やかになります、空間が」


「レイナに集まる男性陣の視線が半端じゃなかったけどね」


 喫茶店までの道中、振り向いた男性の数、多数。

 改めて、レイナが絶世の美女であることを再確認。

 間違いなく、この街で1位2位を争えるレベル。

 美少女コンテストに出場させたい。

 そして水着を着せたい。

 恥じらわせたい。


「なんか、変なこと、考えてない」


「バレました?」


「バーカ」


 まさか、私のために微笑を浮かべてくれたレイナ様。

 日頃の氷華のような態度とのギャップ攻撃で悶え死にそうです。

 美人ってずるい。

 (ののし)られているのに、ちょっと興奮する。


 クッキーに遅れてコーヒーが到着する。

 3つのブラックコーヒーに挟まれた、甘々のカフェラテ。

 それがノムの元へ渡った。


「早くはじめてちょうだい」


 レイナが急かす。

 さて本題に入ろう。


「まず残念な連絡からだね。

 クリクラ教授の好きなもの。

 正直、私にはわからない。

 『好きなもの』というものを、あまり持たない人なんだ。

 『仕事が人生』、とも言うね。

 甘いものが好きとか、お酒が好きとか。

 そういうものは、聞いたことはない。

 物欲の欠片かけらもない」


「贈呈攻撃が効かないのね」


「彼女の心にある最も強い信念。

 それは、この街を守ること、だろうね。

 与えられた自警団元帥という役職。

 それに大いなる自負を持っている。

 可能性。

 それがあるとすれば、教授の仕事である軍事的防衛に貢献すること。

 それが最近傍」


「大枠は理解。

 でも具体的な行動が見えないの」


「ごめん。

 それは私にもわからないよ。

 そして、それは私も知りたい。

 いつだって、彼女の、教授の力になりたいって。

 いつもそう思ってるんだ。

 でも、何の力にもなれない。

 立っているフィールドも、実力も、違いすぎる」


 エミュ先輩が湿っぽく言った。

 有りたい理想と、今有る現実。

 その差に打ちひしがれること。

 それは人類全てが直面する、自分との戦いだ。


「教授の仕事を減らせればいいのでしょ。

 防衛に助力すればいい。

 彼女が驚く。

 そんなブレークスルーとなる防衛方法。

 それは私達だけで成せとは言っていない。

 この学院の教授の力も借りれる。

 この街を守りたいという、それは合言葉なのだから」


 レイナが会話に割り込む。

 紡ぎ出したその言葉が、場の雰囲気を変えた。

 聞こう。

 みんなに。

 どうすれば。

 この街を守れるかを。

 それが現時点での私たちの答えだ。

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