講義5:神聖魔術学 (2)
「なぜ今日、墓地に集まってもらったか。
その理由は、今からわかる」
そう言うと、勧誘ネキは青の鞘からセーバーを抜き、それを天に掲げた。
精神集中。
剣を中心に魔力が拡散されていく。
常時神聖さを醸し出すメリィ教授と反するような、ねっとりした感覚。
そんな雰囲気が、この墓地の空間に広がっていった。
嫌な、感じがする。
「ほえーー。
でた!
でたよぉ!」
ホエール先輩が叫ぶ。
彼が指さした先。
そこにいたのは、ガスト。
紫色のエーテルの魔力が作るモンスター。
ただ、自分が今まで見てきたガストよりも、心なしか光が弱々しく見える。
特に注意するような気配も殺気も感じない。
しかし、そのできそこないのガスト達は、この墓地の中に次々と生み出されていった。
早く、説明が欲しい。
同じ考えのレイナが質問をする。
「メリィ教授、これは?」
「私の特殊技能『残留魔力の可視化』。
この世界、特に墓地のような場所には、死んだ人間から抜け出し、魔力輪廻に還れなかった魔力が、残留魔力として留まっている。
普段は見ることはできないが、これが凝縮すると、ガストやレイスのような魔物に変わる。
今見えているこいつらは、魔物になる前の状態。
魔物になる可能性を持った。
行くあてもない。
いわば、幽霊」
「ほえほえ・・・」
「ほえほえ言っている、モノクル。
まずは貴方から。」
「最後でいいですよぉ」
「手本を見せて。
貴方、2回目でしょ。
エレナ、ノム、レイナに見せてあげて」
「うにゅぅ、りょ、で」
ぼそぼそと呟いたホエール先輩が、エミュ先輩から離れ、前へ出る。
1体のガストを見つめ、そいつに向けて杖を突き出した。
魔力が集まっていく。
封魔の魔力。
ダイアブレイクかな。
そう思っていた私の想像を、現実がかき消した。
「アクア・ブリッド」
力なく叫ばれた魔法名に合わせ、『水球』がガストへ向かって放たれる。
すぐに衝突し、水しぶきをあげ。
そこにはガストはいなかった。
「先輩!?
今のなんですか?
初めて見たです!」
「水術だよ。
封魔の応用術で、水っぽい見た目をした封魔術だね。
残念ながら面白いのは見た目だけだよ」
「ほえーー」
「今度時間があるときに、ちゃんと見せるね」
興味深々のエレナを見て、ホエール先輩が優しい約束をくれる。
その隣でノムが自分自身を指差していた。
私も見たいということらしい。
「いいか。
今のが『浄化』だ」
講義が再開される。
「残留魔力は、意思を持つ魔力。
浄化とは、その意思情報を消滅させ、魔力輪廻に還すという行為。
ホエールの放った封魔術。
それが持つ『情報構成子の削除』の能力が働き、ガストが消滅した。
この『浄化』こそ、退魔師必須の能力。
『封印魔術』とも呼ばれる」
「『浄化』に、『封印魔術』ですか・・・」
「さて、ここで課題を出す。
今、可視化された全ての残留魔力。
これを全て浄化しろ。
それが終わったら解散だ」
「多すぎますよぉ」
ホエール先輩が言う通り、私たちの周囲、墓地の中には、数えることも難しい程度のガスト達が確認できた。
地道に。
そんな言葉を脳内で噛み締めて。
私は行動を開始、
<<ドーーーン!>>
しようとした直後、やってきた爆発音。
ガストがいた場所で爆発が起こり、みなの視線が集中する。
「レイナ、貴方、封魔術を使いなさい。
浄化を行うのに、炎術は非効率よ」
炎のレイナが一発ぶちかまし、それを教授が諭した。
「私、炎術以外は好きではないので。
それに、炎術で浄化ができないわけではないでしょう。
残留魔力を爆発四散させれば、情報構成子は分離されて、その機能を失う。
炎術でも構わない。
目的は達成している」
「ご自由に」
我が道をいくレイナと、嘆息し諦めた勧誘教授。
その後ろで、エミュ先輩が腕をグリグリと回転させて準備運動をしていた。
ホエール先輩も決意が固まった様子。
薄水色のコアがついた杖をギュっと握った。
みんなで分担すれば5分の1の時間で終わる。
そんな計算が浮かび。
そして、それは。
すぐに意味のないものとなった。
「アブソリュート・ゼロ!!」
墓地全体を覆う、巨大な水色の魔法陣。
それが宵闇に美しい輝きを生み出す。
地上に再現された星空。
私たちは、その星空に包まれる。
その星々の輝きが空間中のガスト達と衝突すると、1匹また1匹と消滅していく。
なんか脱力する。
魔力が奪われていく感覚。
・・・
15秒ほどだったろうか。
地上の星の輝きが消え失せるた時には、全てのガストも消滅していた。
「貴方!
貴方!
アブソリュートゼロまで使えるの?!
すごい。
封印魔術の秘奥よ」
メリィ教授がノムを褒め称える。
既視感はないが、体で感じた経験はある、その魔法。
雪の女王リレスが使った、空間中の全ての魔力を無効化する、封印法陣魔術。
それは、ランダイン戦の後、私の命を救ってくれた魔法だった。
私の命を救うため、ノム先生はその術を奇跡的に習得していた。
結果、私の体を傷つけずに、空間中の闇の魔力だけを消滅させることができたのである。
「ようこそマリーベル教へ。
歓迎するわ、魔術師ノム。
入会キャンペーン実施中。
今なら、大教皇の座だって狙える。
あなたなら!」
「助けて、エレナ、なの」
ぐいぐい袖を引っ張られるノムが、こちらにヘルプを出す。
かわいいなぁ。
そんなことを思いながら、私は2人のやりとりを優しく見守ったのでした。




