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講義5:神聖魔術学 (1)

 5講義目。

 集合は夜。

 街の外。

 北部に存在する。

 そこは『墓地』だった。


 雲間から覗くわずかな星空と私ご愛用のカンテラの光が、墓石達の位置を教えてくれる。

 この墓石の下に埋まっているのは、言わずもがなのナンマイダー。

 あまり長居はしたくない。

 何でこんな場所に、しかも夜に。

 星空の明るさだけでも、周囲を視認できることが救いだ。


「私達にとって、トラウマしかない場所だよね」


「ランダインの件で、私も多少嫌いになった。

 でも、元プリーストとしては、怖がってばかりもいられない。

 借りたものは全て返す、の」


 ほんのりと。

 ノムから感じる殺気。

 プリーストとしての血が騒ぐのか。

 しかし、正直、心強い。


「ほえーーーー」


 そんなおどおどした声が後方から聞こえた。

 その方向に光源。

 槍の先にぶら下げられたカンテラ。

 その所有者はエミュ先輩。

 その先輩にくっつくような形で、背後に隠れたホエール先輩。

 ・・・。

 ほほえまー。


 ニヤニヤしているエレナを見つけ、ホエール先輩が言い訳を述べる。


「この世界の墓地は、本当に本当に、出るんだよぉ。

 近寄りたくないんだよぉ」


 涙目の先輩。

 エミュ先輩はいつもどおり。

 肝、わってるガール。


 一方エレナは、ランダイン戦のおかげもあり、死霊というものに耐性ができ始めていた。

 あの事件と比較すれば、全てが取るに足らないものに感じる。

 それに元最強のプリースト、ノム先生がいれば大丈夫だ。

 封印魔術はノムの十八番なのである。


(そろ)っているな」


 新しい声、光源。

 そこにいたのは、レイナ。

 そして、その隣に、青いコートの女性。


 氷のような薄い水色のショートヘア。

 右目がその髪で少し隠れ、逆に左側の額は露出されている。

 凛々しい冷ややかなる水色の瞳。

 青いコートのところどころに、黄色の十字架のデザインがほどこされている。

 青色の鞘に収められた大剣セーバーは、まがいなく一級品だ。

 そしてコートの奥に見える露出された胸元とおヘソ。

 エロティッククールビューティおねえさん、略してクーエロネキと呼ぶことにする。


「私は、神聖魔術学を研究している、メリィ。

 クレセンティア魔術研究院所属。

 それと同時に、マリーベル教にも所属している。

 今日は貴方達に、闇の魔物と戦うための基礎を教える。

 貴方たちに『退魔師』の素養があるか。

 それを見極める」


「素養がある、って判断されたら、どうなるんですか」


「今日から、マリーベル教の一員ね」


「勧誘かいな!」


「冗談ではない。

 マリーベル教は、この世界の秩序を保全する、重要な役割を与えられた機関だ。

 常に優良な人材を求めている。

 名誉ある、栄誉ある。

 世界の守護者」


「せやかて」


「話は現実を見極めてから。

 早速、講義を開始する」






*****






 墓地に立ったまま、講義が開始された。

 こんなところでやらんでも・・・。

 ホエール先輩がエミュ先輩にぴったりくっついている。

 仲良し。


「神聖魔術とは何か?

 ノム、答えてみてくれないか」


「封魔術と光術の合成術。

 以上」


「そう、そのとおり。

 『封魔術』は、聖女マリーベルが産み出し、体系化した魔術。

 悪しき闇を封じる。

 そんな意志が込められた魔術。

 そしてその封魔術が、人々の道を照らす『光』と交わることで、さらに神々こうごうしい魔術が誕生した。

 それが『神聖術』。

 この神聖術もマリーベル様が生み出した魔術であると言われる」


 ここまでは既知。

 ウォードシティのマリーベル教会で借りた神聖術に関する書籍を読んでいたからだ。


「エレナ、貴方は神聖術は使える?」


「セイント、セイントクロス、までなら、いけますけど」


「及第点。

 これを受け取って。

 退魔師団入団試験の案内」


「だから!

 ところどころに勧誘を挟まないでください!」


「ノム、貴方は?

 どこまで行ける」


「グランドクロスも使えます」


「即採用。

 明日から、退魔師団加入。

 いいポジションを斡旋あっせんしてあげる。

 誓う。

 後悔はさせない」


「聖職者は、もうしばらく遠慮なの」


 ノムが弱々しくなげいた。

 クーエロ勧誘ネキ、ちょっと怖い。


「まあ、じっくりとマリーベル教の良さをいてあげる。

 時間はまだたくさんあるのだし。

 だから講義に戻りましょう。

 なぜ『グランドクロス』が、この教会にとって重要かを」


「『グランドクロス』を使えることが、教会内で『のし上がる』条件だって聞きました」


「そう。

 その理由の話。

 グランドクロスは、オウンターゲットの十字法陣魔術。

 オウンターゲットとは、自分を中心に術を発動する魔術のこと。

 回復魔法や封魔防壁なども含まれる。

 しかし、攻撃魔法であり、真の意味でオウンターゲットなのは、グランドクロスのみ。

 魔術師自身に魔力を収束するという、常識では考えられない、いわば狂気の魔術」


「自分に攻撃をしている、ってことになりますもんね」


「なぜ、術者自身に攻撃エネルギーが作用しないのか。

 その理由は『従属情報』にあると言われている。

 従属情報は、『魔導構成子』、つまりはプレエーテルやエーテルなどに与えられる情報をつかさどる付加的なエネルギー。

 『情報構成子』と呼ばれる。

 その従属の情報構成子が魔導構成子に付加されることで、術者はその魔力を操作できるようになる。

 空間中に存在する、従属情報を持たないプレエーテルは操作できない。

 だから、魔術師は一度魔力を体内に蓄積し、この従属情報を魔力に『書き込む』作業が必要になる」


「従属情報、ですか」


「この従属情報が、強く、そして純粋であれば、オウンターゲットを実現できる。

 魔力が術執行者を判別し、その執行者を攻撃対象から除外してくれる。

 奇跡のような話であり、この奇跡を起こせる人物こそ、教会の幹部としてふさわしい、そう考えるのだ」


「なるほど」


「話を変える。

 この世界でオウンターゲットを苦手とする人間達がいる。

 それはどんな奴らか?

 ノム、回答を」


「闇魔術師です」


「御名答。

 その理由を述べよう。

 闇魔術師が使う『強制従属』。

 これは従属情報を書き換えずに、上から押さえつけて支配することで魔術を行使するスベ。

 なので彼らは、『従属情報を書き換える』という魔術師として当然の鍛錬をないがしろにしている。

 それ故に、オウンターゲットマジックであるグランドクロスを使えるはずがない。

 使えば、その身を自分自身で焼くことになるだろう」


「なるほど」


「結論。

 純粋な闇魔術師は、幹部昇進試験を絶対にクリアできない。

 これにより、闇魔術師がマリーベル教の意思決定者になることを回避している。

 これはマリーベル様自身が考えた、この世界の秩序を保つための知恵。

 聖書にも書かれている内容だ」


 力を持つ有識者は考えた。

 自分の死後、世界を平和に保つための方法を。

 彼が残した12個の魔石も、このような考えに基づくものなのだと感じた。


「さて、講義はここまで。

 実技。

 あなたたちの実力を見せてもらう」






*****

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