課外4:冒険者ギルドとシンセちゃん登場 (2)
「まさか、この山を再び登ることになるとは・・・」
依頼の受注が完了。
日帰りで依頼を済ませるため、私たちは早速出発した。
やって来たのは、地精魔術のシナノ教授と出会った場所。
クレセンティアの外れにある火山山頂の溶岩地帯だ。
「A-で、採取系で、日帰り可能な依頼って、これしかなかったのよねん」
危険生物ワイバーンが多く生息するこの場所は、ランクB以上の冒険者がいないと立ち入ることができない。
さらに山頂に近づくにつれ、魔物の種別がより上位のものになっていく。
ここでの素材の採取は、意味合い的に討伐依頼とほとんど変わらない。
「ローテーションね」
そんな約束を交わした3人。
ワイバーン、ワイルドウルフ、スネーク、モゲラ。
次々に襲って来る魔物たちを、1人づつ交代交代で倒していった。
正直、準備体操にもならない。
すべてが一撃で事済む。
シンセの光術が見れて勉強になった、くらいの感想。
さてさて、本番はここからですよ。
「まさか、こんなにすぐ再会できるとは思ってなかったわ」
山頂。
そこで、再び、シナノ教授と巡り会えた。
緋色のドレスが今日もお美しい。
お勤めご苦労様であります。
「新しい方もいらっしゃるようね」
「エレノムの友人のシンセ。
あなたの秘奥と尽力は、道中で彼女たちから聞いてる。
敬意を持って、初めまして」
「こちらこそ」
「シナノ教授、この先に、洞窟ってありますよね。
炎獣の洞窟。
ご存知ないですか?」
「ありますよ。
そんな危険な場所に、何かご用?」
「ラヴィ鉱石っていう素材の採取にきたんです。
ギルドの依頼なんですよ。
危険は承知です。
ご心配なく。
方角さえ教えていただければ」
「そうなの。
でも本当に危険よ。
最近、さらに魔獣の持つ魔力が増幅している。
ギルドの以前の調査結果は当てにはならないわ」
「マジですか。
ならやめます。
と。
言いたい気持ちはありますが。
今は、1日も、無駄遣い、したくありませんので」
そういって、私はドヤっとした笑顔を見せる。
道中の退屈な魔物狩りのおかげで、少々刺激がほしくなってしまっていた私。
しかも今日は、パワーアップした紅怜もいる。
ノム大先生もいる。
危険になれば、シンセが退却の指示を出してくれるだろう。
しかし、そんな私の自信も、教授には届かなかった。
「こんなところで、有望な才能を潰えさせる訳にはいかないわ。
アルティリスに殺されてしまう。
なので。
こうしましょう」
*****
「パーティーでのダンジョン攻略なんて、何年ぶりかしらね。
全てが新鮮に見えるわ。
楽しみね」
「この中で、一番若々しい反応だね。
強いのは知ってますけど、暴走だけはやめてくれ」
シンセが忠告する。
そう。
シナノ教授。
彼女が選んだ選択肢は、『同行』、だった。
緋色のハイヒールをカツカツさせながら、3人の後ろをついて歩く。
楽しそうな。
「教授。
ラヴィ鉱石は、どの辺りにあるのでしょうか?」
「洞窟の奥まで行かないと出会えないでしょうね。
入り口付近は私も確認済みよ。
奥に進みましょう」
溶岩が流れ込む、蒸し暑くて真っ暗な洞窟。
シンセが行使するグローライトの魔術が作る光源が、その道を照らしてくれる。
光術が得意なのは、こういうところで役に立つ。
彼女は便利な術を多数使える、万能型魔術師なのだ。
溶岩の湖が広がる、広い部屋に出た。
来たな!
部屋の奥から現れた。
赤黒い巨大なワニが2匹。
デカイ!
「マグマアリゲータ。
こいつは火をはくから、気をつけな!
一番ヤバいのは、見た目に反した瞬発力だよ。
デットリーカテゴリの、ヤバい魔物さ」
シンセはいつも忠告をくれる。
冒険者として日が浅い自分としてはありがたい。
「部屋の奥にもまだいるの。
1、2、3、4、5。
手前の2体含めて、合計7匹。
これ、明らかに異常。
ランクA-の依頼であり得てよいシチュエーションじゃない。
エレナなら大丈夫だけど、絶対油断したらダメ」
「マジ!?
そんないるの?
エレナ、後方からの炎術も警戒だよ!」
ノムとシンセがそれぞれ忠告をくれる。
そんな忠告の間、私は雷の魔力を青の剣に収束し続けていた。
先制。
相手の集中放火を妨げる!
「ごめんなさい。
ここは私にやらせていただけないかしら。
早めに、私がついてきた、その意義を示したいの。
それに、『暴れたい』。
そう言っているのよ。
彼がね」
普段、終始穏やかなシナノ教授。
彼女は、レイナが見せるような、いやらしい笑みを浮かべた。
「待避なの!」
ノムのその言葉で、私たちは後方へ移動した。
教授だけが部屋の中に残る。
武器の杖が天に掲げられる。
ヤバい、ことが、起こる。
「我が呼びかけに答えよ。
我はシナノ。
汝はタイラント。
目の前の敵を殲滅する!」
タイラントは、この地にしか留まれない。
しかし、ここで言う『この地』というのは、結構曖昧な表現。
この炎獣の洞窟も、『この地』にカテゴライズされるのだ。
際限のない魔力収束。
シナノ教官の杖に、半永久的に炎の魔力が集まり、大きく渦を巻いていく。
圧倒的熱量。
威圧感。
そして放たれる一撃!
「巨炎獣の一角!!」
その叫びに応じ、魔力が放出される。
巨大な炎の一角。
それが、全ての魔物を貫いた!
「うげっ!」
爆風。
衝撃。
轟音。
砂塵。
それらから反射的に身を守る。
結果の確認作業に時間がかかる。
「終わりましたよ」
全てが吹き飛ばされ、焼き尽くされ。
静寂が訪れた後。
にこやかなる笑顔で、シナノ教授が報告してくれた。
そして、一同を代表してシンセが発言した。
「教授」
「はい」
「こんな派手な魔法を使われたら、洞窟が崩壊して全滅します。
最後尾に回って、じっとしててください。
タイラント、禁止」
「しょぼん・・・」
その後、エレナ、ノム、シンセの息の揃った連携もあり。
無事良質なラヴィ鉱石を採取した一行は、帰路に着くのだった。
皆さま、お疲れ様でした。