課外4:冒険者ギルドとシンセちゃん登場 (1)
「お仕事、お仕事っと」
学院生活を送るには、お金が必要。
その学資金を稼ぐ必要がある。
そのため、ノムと私は、初日に訪れた冒険者ギルドにやってきていた。
「今日は、まずは簡単な仕事をして、勘を取り戻すつもり」
ノムが計画を立案する。
その計画を実現するために必要な最初の作業。
それは、『依頼掲示板』の確認だ。
伝達。
護衛。
採取。
討伐。
その他を除外して、依頼はその4つに分類される。
各依頼書には、依頼の難易度を表すCからA+の記号が付加されている。
その冒険者ランクと同等、もしくは下位の仕事しか受注できない。
であるが、ランクA+の私なら、この掲示板の全ての依頼を受注可能である。
「ど・れ・に・し・よ・う・か・な」
「適当はダメ。
明確な理由を持って選ぶこと。
それが長生きの秘訣なの」
「えぃっす」
私は、依頼書の1つ1つに目を通していった。
その過程で、ある思考が脳内に生まれる。
「採取がいいな」
「その理由は?」
「ライザ教官に渡す武器の素材を見つけたいからだよ」
ライザ教官から提示された、私達の武器をメンテナンスするための条件。
それが『武具強化に必要な素材を見つけてくる』であった。
その素材の内容は、まだ厳密には提示されていない。
ノムの武器に使う封魔の素材。
私の武器に使う雷の素材。
それを見繕うように、そうとだけ言われている。
「なるほど。
ライザのクエストを同時にこなす。
すごく効率的。
私も賛同を示すの」
私達は『採取』に限定して依頼を絞り込む。
なやましき。
そんな熟考状態の私達に向け、突如として声を掛けてきた人物。
「あたしも参加させろ、っての」
覚えのある魔力感。
すぐに振り向いて、視覚情報を得る。
「シンセ!?」
「シンセですよ。
何か問題でも?」
「おひさ、シンセ」
特に驚きを見せないノムが挨拶する。
身長は私達よりもずっと低い。
ジト目。
白黒モノトーンの衣装に、黄緑とオレンジのラインが映える。
ダークブラウンのコルセットとブーツ。
明るく元気なオレンジ色の髪と瞳。
長いツインテールが彼女のトレードマーク。
彼女の名前はシンセ・サイザー。
私達が中央山脈を横断した先。
ミュウリィという街で出会い。
そこから、オルティア西大陸の港町セイレンまでパーティを組んだ女の子。
心の中で私は、彼女を『光の幼精』と呼んでいた。
しかし、彼女とはセイレンで別行動となった。
彼女はそこから北方の王国に行くと言っていた。
それが、何故、この大陸へ?
「気が変わっただけ。
あんたら2人が羨ましくなった、とも言う。
私も東大陸に来てみたかった。
クレセンティアにも。
他の目的もあるさ。
私の人生。
あんたらに決められる謂れはないぜ」
「喜びしかないよ、シンセ。
こんなに早く再開できるとは思ってなかった。
元気そうで、よかった」
「あんたらもね」
「ぬ」
魔術的な実力は私達が上。
しかし、『冒険者』というキャリアでは、シンセのほうが上だ。
冒険者歴の浅い私にとって、非常に頼りになる存在だったのだ。
これでまた、にぎやかになりそうだ。
*****
掲示板から依頼書をはがし、それをギルドの受付まで持ってきた。
受付のお姉さん。
彼女に依頼書と私の冒険者カードを渡す。
一瞬驚いた表情をしたお姉さんだが、すぐに手続きを開始してくれる。
今回の依頼のランクはA-。
依頼のランクが、代表者の冒険者ランクと同じか低ければ、依頼を受注可能だ。
あくまで、代表者のランクが判定基準であり、依頼に参加する他のパーティーメンバーのランクは関係ない。
お姉さんから1枚の用紙を渡される。
『受注証明書』。
ここに依頼の内容と、参加者の名前と冒険者ランクを記載することで、依頼契約が成立する。
まず、流れで代表者にされてしまった、私エレナの名前を記入。
最上段には代表者の名前を記載するのがルールである。
次に、ノムとシンセのフルネームを記入。
これは本人が書く必要はなく、代筆で構わない。
ここで補足。
ここで名前を書いたメンバー。
その人間だけが依頼に参加できるわけではない。
参加人数に制限はなく、100人だろうが、1000人だろうが構わない。
各自の取り分に関してはギルドは関与しない。
報酬は代表者に渡され、代表者が責任を持ってメンバーに配分するのである。
さて、では何故私は、用紙にノムとシンセの名前を記載したのか?
これは、私が依頼中に死んじゃった場合の保険である。
この用紙に名前を書いた人間しか報酬を受けとる権利がないのだ。
いわば、縁起の悪い話なのである。
でも、これが慣行なので、それに逆らう必要性はあまりない。
さて、これで手続きは終わりだ。
「ランクA-、ランクA+、ランクS・・・。
こんな高ランクの女の子のパーティー、聞いたことないです」
受け取った受注証明書を確認した受付のお姉さんが、小さく感嘆の言葉を漏らした。
でもすぐに笑顔になる。
なんだか、いやらしさを感じるのだが。
茶色の長い髪。
それを何故かお腹の辺りで結んでいる、謎のヘアスタイル。
でも、かわいいから許す。
「今後ともご贔屓に。
当ギルドは、他の支部とは並列には並びません。
非凡なる、トップギルドです。
ありますよ。
とっておき。
ランクSの依頼。
普通のギルドには、ランクSの依頼なんてありませんから」
「あはは、今は間に合ってます」
ノムがこの前言っていた。
『高ランクだと、いろいろ仕事を押し付けられる』と。
たぶん、ノムが話したのもこのお姉さんなのだろう。
つまり、ギルド間の競争に、私たちを巻き込み、ギルドの株式価値を高めたいのである。
知らんがな。
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