講義4:四元素魔術学 (1)
「我が名は、ルミナス・エレノール。
炎術を極めし者なり。
炎術のことならば知らぬことなし。
お前達。
もっと。
もっと熱くなれよ!」
「先生!
私は炎術よりも、雷術を教えてほしいです」
「雷術?
なんだそれは?
知らん。
炎こそが、この世界に希望を灯す、唯一の輝きなのだ。
他の属性など死んでしまえ。
情熱を燃やせ。
それがこの世界の理だ」
そんなやりとりから始まった4回目の講義。
ルミナス・エレノール。
その名前に聞き覚え有り。
私が図書館で借りた、雷術の書籍の著者だ。
若々しい整った顔立ちと緋色の瞳。
焦げ茶色の長髪。
その後ろ髪は丁寧に編み込まれている。
バカみたいに爆発したアホ毛。
そして美麗なる黒のドレス。
しかし一番の着目ポイントは胸元。
そこに存在する、大きなペンダントだ。
金銭的な価値も高そうな、緋色の宝石がはめ込まれている。
彼女の書籍を読んでからずっと思っていた。
この人と話をしたい。
雷。
それについて、深く話を聞いてみたい。
そんな私の願望。
それを完全否定された。
ありえない。
あれほど雷術について詳細に説明できる人間が、『雷術は死ね』などと宣う。
その原理がわからない。
コレガワカラナイ。
何があったの?
雷術に裏切られたの?
不倫なの?
大混乱。
思考がまとまらない。
そんなとき、聞こえてきたのは、かすかな笑い声。
その方向に振り返ると、しかめっ面のノム。
その先に発見。
犯人は鎖骨。
「エミュ先輩。
何か知ってるんですよね。
教えてください」
ひそひそ声で説明を懇願する。
エミュ先輩はニヤニヤしながら、メモ紙に何かを書き始めた。
「お前ら、聞いてるのか。
この世界で最も重要な魔術属性は何だ!
答えてみろ、赤い髪の娘!」
「炎です」
「お前は見所があるぞ。
名を名乗れ」
「レイナです」
「レイナ。
炎術の、その特出した点を簡潔に述べよ」
「特筆すべきは、魔導効率の高さです。
雷術も高いですが、雷術の扱いには高い制御力が必要です。
最も使いやすく、最も高ダメージを出しやすい属性です。
また、収束しやすいという点もあります。
1点に集めることのできる魔力量が、他属性よりも多いように感じます。
『収束』というものとの相性の良さを感じます。
『爆発』というものの攻撃力の高さもありますが。
『炎』という形式にすることで、ネチッこい、相手に絡まりつくような長期持続する攻撃を実現可能です。
まさに、攻撃魔法としての必要事項を完全に網羅しています。
以上です」
「お前、熱い女だな。
最高だ」
さて、レイナが尺稼ぎをしてくれていた間に、エミュ先輩のメモが完成した。
それが、ノムを経由して私に伝達される。
それなりに長い説明文。
それに私は目を通す。
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ルミナス教授は多重人格。
朝起きたときに人格が決定する。
その人格によって、得意な属性が変化する。
炎、雷、風、光。
4つの属性それぞれで、彼女は違う性格になる。
今日は『炎』の人格。
このときは『雷』の術のことは、完全忘却している。
先生の胸に付いたアクセサリ、それが赤いときは炎の属性の日。
アクセサリの色で人格を判断できる、のよん( ゜∀゜)
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なるほど。
わからん。
そんな奇天烈な話があるのか?
だが、これが本当なら、『雷術の日』というものがあるらしい。
その日を待つしかないようだ。
「緑!
名を名乗れ!」
「げっ!
私ですか?
エレナ、ですけど」
「お前、炎術と相性悪いな」
「はぁ、すんません」
「なのに何故。
何故、『炎狐』に好かれている?」
炎狐。
それは私の中にいる『紅怜』のこと、それで間違いない。
今日も魔導書から魔力を引き出し、私に定着させていたのだ。
まあ、教授が言うこともよくわかる。
私は紛れもなく、炎術と相性が悪い。
そんな私が、炎の幻魔と融合を果たしたのだ。
『あなたは、属性問わず、全ての属性の幻魔に好かれる才能を持っている』
地精学、シナノ教授が私に掛けてくれた言葉だ。
どうやらそういうことらしい。
おかげ様で。
私は、『炎術を使わない』という考察を相手にさせた上で、『実は炎術が切り札でした』という、相手の裏をかいた戦術が展開できるのである。
これがアリウス戦、ヴァンフリーブ戦で効果を発揮した。
紅怜が居なければ、運命は変わっていた。
「狐を見せろ」
「はぁ・・・。
紅怜、ごめん、出きてきてね」
私は魔力の収束を開始する。
イメージするのは幼女。
炎の幼女である。
『私は体内に幼女を飼っている』。
って、相当危険な発言だな。
「呼ばれて飛び出て、こんにちわ。
ご主人様、召喚、ありがとうございます。
今日も一生懸命がんばります」
かわいい。
愛でたい。
「狐。
よく来たな。
よし。
私の者になれ」
「ちょ!
何言ってんですか!
紅怜は私のものです!
ナンパしないでください!」
「おばさんには興味ないです。
ご主人様の方がいいです」
紅怜が毒を吐く。
幼女のくせして、結構いい性格をしている。
「私ならば、お前の真の能力を引き出せる。
封印された尻尾も、復元するだろう」
「それは、うれしいですけど・・・」
「紅怜、行っちゃダメ!
帰ってきて!」
「ならば、こうしよう。
とりあえず、まずは私の魔力をお前に与える。
その上で、緑髪と私。
どちらの方が居心地がよいか、決めればいい」
「うぐっ」
まずい。
この教授の魔力は本物だ。
レイナを軽く超えていく。
そんな絶大なる炎の魔力を秘めている。
炎を喰らう紅怜ならば、その甘美なる味を理解してしまうのだろう。
「魔力だけもらって、ご主人様の元に戻ります」
「ならば、いくぞ。
全員。
実技棟に集合だ!」
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