課外3:エミュ先輩の学院案内 (2)
残された最後のブロック。
それは学院の中央の建物だ。
「『研究棟』ね。
君たちが授業を受けている場所だね。
教授達の研究室もあるよ。
教授達と仲良くなれば、研究室に入れてもらえるかもしれないね。
ちなみに研究室は2階以上。
1階は統括部。
キリシマさんやメイド部隊の基地になっている。
授業を受ける教室も1階だね」
「これでこの学院、全部回りましたね」
「最後に、この棟で見せておきたい場所が3ヶ所あるんだ。
そこを案内したら終わりだよ」
*****
「まずはここ」
研究棟の1階。
そこから、さらに地下へ降りれる階段。
その階段は『KEEP OUT』と書かれた紙テープで封じられていた。
封じられていた。
・・・。
このダランと垂れ下がったやる気のないテープを持ってして、『封じる』と言ってよいのやら。
「ここが地下迷宮への入り口だよ。
ここから先は立ち入り禁止。
と書かれている。
けど、立ち入り禁止だと忠告はされていない」
「どっちですか」
「何が起きても、学院側は一切の責任を負わない。
つまり自己責任。
立ち入り禁止って書いてあって、それでも入るんなら、なんかあっても君の責任ね、ってこと」
「エミュ先輩は、私たちをここに入らせたいんですよね」
「今から行く?」
「遠慮、Part2」
*****
「ほんじゃ次は、これ」
「なんですか、これは?」
壁がくり抜かれ、そこに人間が複数人入れる『檻』が設置されている。
ゴンドラ?
「驚け。
これは『魔導エレベータ』、っていう移動手段だよ。
コイツで上の階へ登れるんだ。
早速やってみるよ。
さあさあ、乗って乗って」
エミュ先輩に素直従って、私たちはゴンドラに乗った。
中に入り振り返る。
右にはA、左にはEと書かれている。
なんぞ?
「Aにアンチエーテル、Eにエーテルの魔力を流す。
するとエレベータが上昇するんだ。
ちなみに逆にすると下降する」
エミュ先輩が魔力の収束を始める。
魔導と封魔の2属性多地同時収束。
意外と面倒な収束を、簡単にやってのける先輩はさすがだ。
すると徐々にエレベータが動き出す。
ゆっくり、ゆっくりと上昇。
2階、3階と通り過ぎ。
4階に差し掛かるに連れて徐々にスピードを落とす。
そしてスピードゼロになると同時に、4階に到着した。
「すごいっすね、これ」
「これは魔導建造学のトニック教授の力作さ。
魔導制御の技術で動作するんだ」
「私もやってみよう」
「でも注意してね。
魔力を一気に強くすると、暴走して天井にぶつかって死ぬから」
「やっぱ、やめます」
*****
さて最後にやってきた場所。
それは。
「言うまでもなく、屋上さ」
研究棟4階から、さらに階段を上がり。
扉を開けると。
涼やかな風が私の髪を流し。
そこに広がるのは、絶景。
街中を見渡せる。
幾千もの街路。
それらを辿ると行き着く巨大な城壁。
そして、その奥に広がる広大な草原地帯。
西。
その方向が、私の心を引き付けた。
夕日が沈む。
その赤橙色の輝きが、言葉で言えない感動を産み出した。
私は夕日が好き。
夕日の赤い光が風景と合わさると、その土地その土地で見え方が違ってくる。
私の旅の、ささやかなる楽しみの1つ。
その中でも、美麗なる街並みとの融合が見せる、この場所での日没は、また格別な味わいがあった。
「本当にいい街だな」
自然とそんな言葉が漏れた。
永住。
その言葉がふと浮かんで消えた。
「きれいだね」
ノムは私と同じ方向を見つめている。
感動を共有できるというのは、当たり前のことではない。
人間は人それぞれ、物事の感じ方が違う。
でも、『世界の美しさ』というものは、誰にでも平等に与えられるものなのだ。
「気に入ってもらえたかい?
研究で疲れた脳を休めるには、最適な場所。
私はそう思う。
中庭も好きだけどね」
優しく語り掛けるエミュ先輩。
ん?
その奥でおっさんがタバコを吸っていた。
が、その人は完全にこちらを無視。
黄昏タイムを満喫していた。
気にしないでおこう。
「先輩、今日はありがとうございました。
先輩が先輩でよかった。
そう思います」
「私は、この研究生生活が終わっても、この学院に残るつもり。
だから君達がこの街に残る限り、いつだって会える。
残念ながら、魔術的な実力は君達が上。
レイナも含めて。
私のほうが弱い。
でも。
でもね」
そういって、西、夕日が沈む方向に歩き出した先輩。
夕日を一杯に浴びると、180度ターン。
彼女の持つ赤いコアの付いた槍を私達に向け、高らかに宣言した。
「魔術。
それに対する情熱だけは負けないよ!」




