課外3:エミュ先輩の学院案内 (1)
「ハローハロー」
すっかりおなじみになったバカっぽ明るい挨拶。
それを2日連続で聞くことになった。
本日は休講日。
しかし、私とノムは学院にやってきた。
その目的は。
「こんにちわ先輩。
学院を案内して欲しいなんて、図々しくお願いしてすみません」
「感謝なの」
「今はなによりも、君たちからの信頼が欲しいのさ。
後輩なんて、人生で初めてだし。
慕われたいなぁ、慕われたいなぁ」
「そういうの、言わない方がカッコいいと思いますよ」
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この学院は、『北西』『北』『北東』『西』『中央』『東』『南西』『南』『南東』、9つのブロックに分かれている。
最初にやってきたのは、南の正門を入ってすぐ。
南のブロック。
「ここが『庭園』ね。
庭師のヤドンさんが管理してくれている。
研究で疲れた脳をリフレッシュするにはもってこいの場所だよ。
でも施設は何にもないね。
ってことで、次行ってみよー」
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次にやってきたのは南西のブロックだ。
「この建物は『応接棟』って言うんだ。
お客様をもてなすための施設だよ。
来客と打ち合わせをするための応接室、会議をするための会議室とか。
お客様用の宿泊施設などが設けられているね」
「お客様、ですか」
「この研究院が持つ、政治的な力は絶大さ。
なんせ、たった1人の教授が、1つ2つの軍隊を超える力を持っているんだからね。
国や機関との交渉。
そんなことも日常茶飯事なのさ」
「すごい」
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次は西ブロック。
「ここは、『寮棟』。
ドミトリー。
この街に宿泊場所を持たない研究者、関係者が寝泊まりするための施設だね。
しかも無料だよ」
「そんなのあるんですか?
私も住みたいです」
「でも今は満室だよん」
「残念無念」
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次は北西のブロック。
そこにあったのは、この研究院で最も高い建物だ。
「ここは、有名なクレセンティア魔術研究院の『時計塔』だよ。
観光名所だね。
高いでしょ。
この街で一番高い建物だからさ。
この頂上からの景色は、マジで最高だよ」
「登ってみたいですね」
「この時計塔の鳴らす鐘が、この街に時間を教えてくれる。
もはやこの街のシンボル、と言っても良いだろうね。
ちなみに、この時計塔はもう1つの顔を持っている。
それは、簡易天文台さ。
街外れの山頂にも天文台があるけど。
その簡易版、といったところさ。
この時計塔は、占星術を研究する、マリア教授とアリサ教授の住居にもなってる。
彼女たちの講義を受ける時は、この塔を登ることになるだろうね」
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次は北ブロック。
北門にやってきた。
そこから北側、学院の外に見えるもの。
それは、クレセンティア第一図書館だ。
「ここは、図書館との連絡通路の意味合いが強いね。
その意味で『連絡棟』って呼ばれている。
他にもいろいろな資料が展示された資料室とか、第二図書館などがある。
悪く言えば物置だね。
そんなわけであまり重要な場所ではないよ。
次に行こう」
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次は北東のブロック。
・・・。
要塞?
「ここは『実技棟』。
魔術を実践するために建てられた施設だよ。
例えばだけど、『決闘』とかもできるだろうね」
「ノムとレイナが決闘したら、こんな施設、すぐさま木っ端微塵になっちゃでしょうね」
「それがそうじゃないんだなぁ。
この施設のすごいのは物理防壁。
魔術攻撃に対して、高い防御力を備えた物理的な防壁。
この建物の壁には、魔導防衛学の叡智、言ってしまえば魔導防衛学のモル教授の実力が込められている。
どんな魔法攻撃にも耐えることができる。
それが、モル教授の研究の成果。
魔法攻撃に対して、どうやって防御をするか。
その研究の全てが、ここに集約されている。
実技の講義は、この施設で行うことになるだろうね」
「じゃあ、エレナ。
久しぶりに一戦やってみる」
「遠慮」
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次は東。
ここはすでに知っています。
「『錬金工房』ね。
ここはもういいよね」
「なんかこの建物だけ、すごく人の気配があるんですよね」
「この研究院で錬金工房だけは特別扱いなのさ。
研究院関係者以外の人も、この工房で働いている。
錬金、装具製造を行うには、どうしても人がいる。
みんな頑張ってくれている。
その頑張りの結果、結晶は、この街の様々な場所で役に立っている。
私も、その歯車の一部になりたいのさ。
あと、この街の自衛力向上にも一役買っている。
この街には自警団があるんだけど。
もはや、そんじょそこらの軍隊よりも強いだろうね」
「タバコのポイ捨てとかしたら殺されそうですね」
「冗談じゃなく、本当にそうなるから。
絶対やっちゃダメだよ。
この街の管理社会っぷりを舐めてたら、死ぬからね」
「肝に命じておきます」
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南東のブロックにやってきた。
ここも最初の庭園と同じく緑が生い茂っている。
しかし、高い柵があり、中に入れないようになっている。
なぜ?
「ここは『薬学農園』。
薬の原料を栽培する施設。
農園管理者のトロロさんが住んでいるんだ」
「中には入れないんですか?」
「入れないよ。
毒物が栽培されているからね」
「なにそれ、怖い」
「劇物は時に、劇薬になるのだよ。
魔導医学のチナミ教授の講義で、ここに来るかもしれないね」
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