表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/75

講義3:魔導武具学(2)

「エミュ、良い武器とは何か?

 説明してみろ」


「イエス、マム。

 『魔導距離が限りなくゼロに近く』、『魔導効率が限りなく100%に近い』、であります」


「良い回答だ。

 魔導距離とは、術者が魔術を発動するために必要な魔力量と、その収束位置との関係を表すものだ。

 術者から距離が遠い場所に収束しようとするほど、多くの魔力が必要になる。

 お前らももう試したことがあるとは思うが、例えば1キロ先に魔力を収束しようとしても基本は無理だ。

 距離が2増えたとして、必要魔力量は4増える。

 そして、魔術師の体は魔導距離が0になる。

 つまり魔導距離の原点である。

 これが魔導距離の原則だ」


「魔導距離、私もノムから教えてもらいました。

 では杖に魔力を収束するとして、その杖の先端の魔導距離はどう表せるのか、って」


「そう。

 これは0にはならん。

 魔力が武具を通る過程で、魔導抵抗が発生し、無駄に魔力が消費される。

 結果として残った魔力、この割合が魔導効率だ。

 こんな無駄、もったいなすぎるだろうが。

 だから我々は、最大級の考慮をするのだ。

 魔導距離を小さくすることに」


「血もにじむような努力が存在するのよねん」


 エミュ先輩が教官に共感。

 この努力は、私の武器を作ってくれた技師、シエルも払ってくれたものだ。

 改めて言うが、私のこの青の剣がなければ、私はランダイン戦で死んでいた。

 あれだけの魔力を流せば、市販品の武器は途中で破壊してしまっていただろう。

 紛れもなく、命の恩人なのだ。

 クソガキとか言ってゴメンね、心の中で。


「魔導距離の抑制を実現するのに大切なのは、『素材』、『錬鍛れんたん』、『デザイン』の3つだろう。

 私はこのうちの練鍛とデザインのプロフェッショナルと言える。

 素材は私の力ではどうにもならん。

 クリクラとレフィリアに頼らざるを得ない。

 だがしかし、通常は融通がきかないこの2人だが、なぜか私には力を貸してくれる。

 この2人と交友を持てていること。

 それが私の一番のセールスポイントだとも言える」


「クリクラ教授も気分屋さんですしね」


 解説のエミュ先輩が、本当にいい仕事をしてくれる。

 心なしか、雰囲気がいつもと違う気がする。

 この錬金工房は、先輩にとってもホームグラウンドなのだと。

 改めて、そういう考察を行った。


「さて話はここまでにしようか。

 ここからは、練鍛れんたんの工程を見せてやる。

 ついてこい」






 *****






 ライザ教官による練鍛の実演が終了した。

 『筋肉同盟』、『筋肉革命』、『筋肉留学』と叫びながら金槌かなづちを叩きつける様。

 狂っているとしか思えなかった。

 しかし、美しく鍛えられた筋肉から滴る汗が、なんとも言えないなんとやらをかもし出していた。


「さて、これで私の講義は終わりだ。

 最後に、何か質問はあるか?」


「よろしいでしょうか?」


「なんだ、ノム。

 言ってみろ」


「私のこの武器を、メンテナンスしていただけませんでしょうか?」


聖杖せいじょうサザンクロスか。

 なかなかに価値のある武器を持っているな。

 だが、残念。

 このレベルの武器だと、メンテナンスは難しい。

 一から作り直した方が簡単だ。

 しかし、この武器の性能を超えられるか。

 それは保証できない」


「珍しく弱気ですね、教官」


 そう言ったのはエミュ先輩。

 わずかな笑みを持って教官の顔を覗き込む。

 教官はいまだ、手渡されたノムの杖を見つめている。


「方法はある。

 この武器を一度分解し、部品、素材のみを転用する。

 それが最も良い選択肢だろう」


「それで構いません」


「しかし、失敗する可能性もある。

 お前は、私を信用できるのか」


「他に当てがありません。

 教官こそが最適な人選です」


「エレナも同じか?」


「はい。

 私の武器もメンテナンスをお願いしたいと考えています」


 ここで教官は黙り込む。

 熟考状態。

 さまざまな可能性を検討し、最終的な回答を組み立てている。

 それだけ、難しく、責任が重い仕事だということ。

 それを理解してくれているのだ。


「ならば、こうしよう。

 やる。

 しかし条件をつける」


「なんでも言ってください」


「まず、素材が足りない。

 これをお前らが、自分の力で調達しろ。

 そしてもう1つ。

 なんらかの方法で、私を喜ばせろ。

 その2つだ」


「喜ばせる、とは、どうすれば」


「んー、ならばこうしよう。

 酒を持ってこい。

 私が驚くような酒を探してきて贈呈しろ。

 種類は何でも構わん。

 私は酒ならなんでも好きだ。

 ちなみに金はいらん、サービスだ」


「お任せください。

 事の難しさから考えれば、非常に簡単な条件です」


「納得する素材と酒が手に入るまで、私はリジェクトするからな」


「驚かせます、必ず」


 日頃無口なノムが、非常に饒舌じょうぜつだ。

 しかし、私の回答を代弁してくれているとも言える。

 クエストを受注。

 要はギルドの仕事とおんなじだ。

 ただし難易度は間違いなく高いが。


 課外の時間でやることが1つ増えた。

 さてさて。

 忙しくなりそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=652491860&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ