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講義3:魔導武具学 (1)

「ハローハロー」


 もはやおなじみとなったバカっぽ明るい挨拶。

 3回目の講義を受けるべくやってきた学院の校門。

 そこで待っていたのはエミュ先輩だった。


「案内人の美少女錬金術師見習い、エミュちゃんだよん。

 今日は本当に、君たちに先輩らしいところが見せられるはずだよ。

 では早速参りましょう」






*****






「ここが、錬金工房。

 我々、魔導工学専攻の研究者のホームグラウンドさ」


 エミュ先輩が案内してくれたのは、私たちがサイトゥ教官から授業を受けた学院中央の棟の東に建つ建物。

 煉瓦れんが造りの2階建程度の高さ。

 複数の煙突が天に突き出し、そこからかすかに煙が立ち上っていた。


 工房の入り口で待っていたホエール先輩と合流し、建物の中に入る。

 まず感じたのは、熱気。

 ちょっと暑いくらいの室温。

 そして金属を叩きつけたようなキンキントントンテンテンカンカンという音。

 錬金工房という事前の説明のおかげで、それらの情報に全く違和感を感じずにすんだ。


 建物の奥まで進むと、エミュ先輩は何のためらいもなく観音かんのん開きの扉を開けた。

 すぐにやってくる温風。

 蒸し蒸しした空気が室外に漏れる。


「ライザ教官、ハローハロー!」


 目上の人に対しても態度を変えない、社交的、なのかネジぶっ飛んでんのかわからないエミュ先輩。

 そんな挨拶に対する返答は、先輩の声の大きさを軽く超越する。


 待っていたぞ、若人わこうどども」


 うおおおおお!!!!

 獣人だ!!!!!!!

 ケモミミだ!!!!!


 すこぶる元気なライザ教官。

 彼女はなんと、この世界では非常に珍しい『獣人』だった。

 狐のような長い薄ピンク色、もっふもふのケモミミ。

 それが同じく薄ピンク色の髪の毛から、ぴょこぴょこと2本飛び出していた。


 次に目が行ったのはその容姿。

 ぴっちりとしたボディーラインがわかる黒いタイツ質の衣服。

 そこには炎を表す赤いラインの模様がデザインされている。

 そして見逃せないのは所々の肌の露出。

 見てくれと言わんばかりに露出された肌。

 そこに浮かび上がる凹凸。

 そう、筋肉だ。

 髪と耳はもふもふ、体はカチカチ。

 どちらにも触ってみたい衝動に駆られる。

 とりあえず、ケモミミ筋肉教官と名付けよう。


「私はライザ。

 魔導武具学、魔導武具製造を研究する、魔導工学専攻の教授だ。

 今日はお前らに教鞭を取るように言われている。

 光栄に思うがいい」


「よろしくお願いします教官。

 はじめまして、エレナです」


「ノム」


「レイナです」


「エレナ、ノム、レイナ。

 そんで、エミュとホエール。

 聞いていた通り、これで全員だな。

 では早速講義をするぞ。

 魔導武具製造にとって、一番大事なことはなんだと思うか。

 レイナ答えてみろ」


「魔導材料の質、魔導効率を落とさないためのデザイン。

 しかし、最も大切なことは、金属を溶かすための『熱の温度』だと考えます」


「違うな」


「では、なんなのでしょうか?」


「筋肉だ!」


「はい?」


「筋肉だと言っている」


「・・・」


 レイナが無言になった。

 そりゃそうだ。

 ツッコミを入れて欲しかったのかな?

 と思ったが、教官は本気なようだ。


「金属を強化するには、この金槌かなづちで何度も叩き、錬成しなければならない。

 これはひ弱なる肉体で実現できるものではない。

 日々の鍛錬によって作られた肉体美。

 それが最強の武器を作るための必須条件だ。

 わかったか?」


「はぁ・・・」


 ため息とも取れる回答を返す、レイナ。

 彼女に同情の念をテレパシーで送っておく。


「だから、今から言うことを復唱しろ。

 いいな、いくぞ!

 筋肉同盟!」


「・・・」


「筋肉同盟!」


「筋肉同盟」


「筋肉革命!!」


「筋肉革命」


「筋肉留学!!!」


「筋肉留学?」


「いいか、今の3つの言葉を忘れるな。

 筋肉同盟とは、自己研鑽をする人間が、他の人間のモチベーションを創造し、そしてこれがループ現象を起こすというものだ。

 筋肉革命とは、自己研鑽により、過去の自分では到達し得なかった思考領域に達することができる、ということだ。

 筋肉留学とは、自己研鑽の先で、与えられた場所のみで満足せず、常に新しい領域に手を伸ばし、さらなる高みを目指せ、というものだ。

 わかったか」


「わかるかい!!」


 我慢できずにツッコミを入れたのは私。

 何言ってんのこの人、もといこの獣人。

 脳ミソも筋肉でできてんの?

 脳筋なの?

 それともこれが世界の真理なの?


「エレナ、いいツッコミだな。

 だが冗談を言っているわけではない。

 今はわからなくていい。

 心のどこかに、この3つの言葉を留めておけ」


「はあ、わかりました」


「さて、冗談はこれくらいにして」


「やっぱり、ボケてたんじゃないですか!!」


 レイナとノムが笑っていた。

 彼女達が笑うのって珍しいのよね。

 まあまあ、漫才を楽しんでもらえたのならよかったよ。

 それにしても。

 私、いつからツッコミ担当になったんだろ。

 ボケ担当のはずだったんだけど。


「魔導武具製造学。

 短く言えば、『鍛治』になる。

 これが含む範囲は、材料の調達、金属の溶解、型への流し込み、金属の錬鍛れんたん、武器のデザイン、組み立て、試用、となる」


「つまりつまり。

 端的に言うとですね。

 このライザ教官が、この大陸で最も強い武器を作れる人、ということですよ」


 エミュ先輩が補足してくれる。

 そして私は、ノムの言葉を思い出す。


 『私とエレナの武器をメンテナンスしたい』


 その願望を叶えることが可能な人物。

 そんな稀有けうな存在に、早くも出会えたということだ。

 この人とは、何としてでも仲良くならなければならない。

 まずは菓子折りから。

 これが、ライザ教官攻略が開始された瞬間でした。






*****

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