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課外1:喫茶世界樹と学院七不思議 (4)

「6つ目の不思議。

 それは『消えた1期生』」


 エミュ先輩、ホエール先輩は2期生だと言っていた。

 ならば1期生が存在したはずだ。

 ・・・。

 それが、『消えた』?


「いなくなっちゃったんですか?」


「おそらく。

 私もホエールも、1期生に会ったことはない。

 入学した時点で、すでにいなかった。

 みんなに聞いたよ。

 どんな人でした?、って。

 そしたら、みんな言うんだよ。

 『知らない』、ってね。

 おかしいだろ」


「おかしいと、思います」


「調べたんだよ。

 私も、いろいろね。

 でもさ、なーんも出ないのよ。

 情報が。

 ありえない。

 私は思ったね。

 『情報操作』、だって」


 6つ目にして突如として現れた至極しごく深刻な怪奇。

 1期生に訪れた結末が、3期生にも起こりえないとは言えない。

 他人事では済まされない。


「この学院の教授たちは、みんな良い人だよ。

 私は、そんな彼らを疑いたくはないな。

 でも、だからこそ知りたいって。

 そんな風にも思うね」


「そうですね」


「この不思議は、君たちは調査しなくていいよ。

 嫌な、感じがするんだ。

 でも知っておいて欲しかった。

 この学院は、『絶対的に安全な場所』ではない、ってことをね」


「無事だと・・・いいですね」


「そうだね」


 私のささやかな祈りに対し、エミュ先輩が優しい微笑みを見せてくれる。

 こんな顔もできるんですね。


 そして、私は入学案内にあった一文を思い出した。


 『何が起きても、当院は一切責任を負えません』


 今になって、その言葉の真の意味がわかった気がした。


 沈黙の時間。

 10秒ほどか。


 それは、エミュ先輩がクッキーを噛み砕く音で破られた。

 コーヒー飲み干し、ドンと音を立ててテーブルに置く。

 そして高らかに宣言した。


「以上が、学園七不思議だよ!」


「七個目は!!!」


 私はガタガタっとあえて音をたてて立ち上がり、空間にチョップをくらわせた。

 見ているかい、ホエール先輩。

 これが真のツッコミというものだよ。


 知らんけど。


「先輩、まだ6つしか聞いてないです。

 これじゃぁ、六不思議です」


 落ち着きを取り戻したエレナはゆっくりと着席した。


「ごめんね、6つしか用意してなかった」


「んじゃぁ、最初から六不思議でいいじゃないですか?」


「いや、七の方がよくない。言葉の響き的に」


「知らぬよ」


「だからさ・・・。

 7つ目の不思議は、エレナとノムに見つけてもらいたいんだ。

 不思議を探すところからスタート。

 オーケー?」


「はぁ・・・、わかりました」


 私が心無い返事をすると、それでも先輩は満足だったようで。

 腕組みをして目をつぶった。


 そしてそのあと、急に立ち上がり、私とノムを交互に見つめる。

 何かを、伝えようとしている。


「さて、改めて。

 エミュ先輩が、あなたたち2人に『目的』を贈呈ぞうていしましょう。

 7つ目の不思議を制定しなさい。

 そして、それを含んだ7つの不思議を全て解き明かし、それらの内容を私に報告しなさい。

 あなたたちが、この学院を去る、その時までに。

 よろしいか?」


 『面白そう!』。

 『触らぬ神にたたりなし』。

 そんな2つの思考が脳内に浮かんだ。

 しかし2つの思考は互いに衝突することなく、しばらく脳内に留まっていた。

 そしてその後、『時と場合による』という思考が生まれると、その3思考は回転しながら混じり合い、そして虚空(こくう)へと還っていった。


 次にやって来た思考は、『ノムの意思を確認したい』だった。


 私は彼女の左耳を見つめる。

 声をかけようとする間もなく、彼女もこっちに視線を向ける。

 そこから一瞬の間を置いて、ノムはしっかりと首を縦にふった。


 やる気まんまん。

 そう。

 名探偵ノム、爆誕の瞬間である。

 ミステリーハンターの方がいいかな?

 不思議~、発見!

 ボッシュートです。

 沢木さん、次の問題どうぞぉ!


 ん?

 今、私何って言ってたんだ??


「わかりました。

 やります。

 できる範囲で、ですけど」


「オーケー、オーケーだよ。

 楽しくなってきたね。

 君たちが後輩になってくれて本当に嬉しいよ。

 色づく世界を見せてくれ。

 私とホエールと、君たち自身のために」


 そして、みんなが笑顔になった。


 新しい約束が交わされた。

 色づく世界。

 私も見たいよ。

 先輩。


「では先輩、急かすようで申し訳ないのですが、次の質問を・・・」


「あばぁ!

 しまった!

 そういや、用事があったのを思い出した!

 もう私帰るわ。

 メンゴ」


 そう言うとエミュ先輩はお金だけテーブルにおいて、超特急で帰っていった。

 これからが大事なところなのですが・・・。


「んじゃぁ、僕も帰るね。

 楽しかったよ。

 これからよろしくね、エレナ、ノム」


 ホエール先輩は、それが当然のことであるようにエミュ先輩のあとを追って帰っていった。

 扉に取り付けられたベルが美しい金属音を響かせる。

 付き合ってんの?








 ドタバタした時間から平静を取り戻したくて、私は残ったコーヒーを全て飲みほした。

 ご馳走さまでした。

 クッキーも綺麗になくなっている。

 さて。


「どうしようか?」


 私は、ノムに尋ねる。


「コーヒー、おかわりで」


 ノムが私にコーヒーカップを突き出して言った。

 そんなノムの提案を即座に受理。

 私たちは、この喫茶世界樹でのコーヒー付き読書タイムを満喫することを決めたのだった。

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