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課外1:喫茶世界樹と学院七不思議 (3)

「さあ、どんどんいこう。

 4つ目の不思議だよ。

 4つ目は、『賢者の石』さ」


「賢者の石!?」


「名前くらいは聞いたことがあるだろう」


「あります、けど・・・。

 そんなものが実在するんですか、ねぇ?」


「さぁねぇ、どだろねぇ」


 エミュ先輩は魔女帽子の淵をクニクニしながら、ふわふわとした釈然としない受け答えで返した。

 焦らしプレイなの?


「エレナは、『賢者の石』って聞くと、どんなものを思い浮かべる?」


「無から有を創ることができる神秘の魔導具。

 鉄を金に変えたり、不老不死の薬を作ったり。

 そして。

 もしも、『魔力』も作れるのなら、『無限の魔力』が実現できる。

 それは、所持するものを『最強』の存在にするのに十分な能力。

 危険すぎる代物(しろもの)


「どうも。

 いい回答だ。

 では、今のエレナの意見についてどう思う、ノム。

 信じる?」


「む。

 ありえない。

 理由は単純。

 『創造術』は『秘術』だから。

 以上」


「その通りだよ、ノム」


 創造術とは、無から有を創り出す術のこと。

 秘術とは、絶対に実現できないと言われている術のこと。

 つまり創造術は絶対に実現できず、無から有を作り出せるという『賢者の石』の能力は物理理論上実現しえない、そう言っているのだ。


「賢者の石ってのも、御伽話おとぎばなしの産物なんだよね」


 私はため息をつくようにそうつぶやいた。

 でも、ノムの回答でいろいろと納得。

 そもそもそんなものが存在していたら、この世界はもっと大きく動いている。

 良い方向か、悪い方向か。

 それはわからないけれども。


「さて、ここまでが前置きだ。

 こっからが本題ね。

 無から有は作り出せません。

 でもよ。

 有から有は作れんのよね」


「質量保存の法則、エネルギー保存の法則、等価交換の原則ってやつらですね」


 ノムがいいそうなことを、先に口走ったエレナ。

 まあ、ノムの受け売りなんですけどね。


「イエス、イエス。

 それらの法則が成り立つ条件下ならば、どんなことでも実現できる可能性がある、ってことなんだよね」


「絶対にできないことはできなけど、とてつもなく難しいことならできる。

 賢者の石とは、この後者を実現するための魔導具なのですね」


 ノムが議論の本質をつく。

 エミュ先輩は満足げな顔をたたえ、大きく3度うなづいた。

 呼吸を整えると、彼女は話を続けた。


「ちょっと話題を変えるね。

 『錬金術』について話そう。

 さっきまでの議論で結論は出てるから理由は省略するけど、鉄から金は作れません」


「オッケーです」


「この世界で『錬金術』っていうと、それはおおよそ『魔導材料工学』のことになるんだ。

 んで、この『魔導材料工学』って学問だけど、これは魔導効率が高い武器や防具を作るのに必要な金属、合金を製造することを研究するものなのだよ。

 金属を、るための、すべ、とも表現できる。

 そして美少女錬金術師見習いのこの私は、この魔導材料工学に高いインテレストを持っているのさ」


 私は、自分の武器の剣を見つめた。

 大きな青のコアが1つと、小さな青のコアが3つ、手元のつばの部分に取り付けられている。

 魔導工学の天才少年シエルが作ってくれた傑作。

 『ブルーティッシュ・エッジ』と命名された、青の剣。

 この剣にも、魔導材料工学のエッセンスが多々取り入れられているのは間違いない。

 それはノムの武器『聖杖せいじょうサザンクロス』も同じだ。


「ここで問題です。

 錬金術にとって最も重要なことは何でしょう?」


「んーと」


「はい時間切れ」


「早いですよ」


 ノムがなんか言おうとしたが、それを追い越してエミュ先輩が正解を発表する。

 自分で答えを言いたかったのかもしれない。


「熱、だよ」


「熱ですか」


「インゴット、合金を製造するには、金属を一度溶かす必要があるんだけど、この時必要になる炎の温度は、1000度を優に超える、とんでもないエネルギーが必要になるのさ。

 融点ね。

 人間1人燃やすのとは訳も桁も違う。

 攻撃魔法として有用な炎術を実現できていたとしても、それが錬金術にとって十分な魔力量であるかはわからないのさ。

 錬金術師にとって、炎術は避けて通れないものなんだよ」


「なるほどですね」


「さあ、ここで再登場してもらおう。

 賢者の石にね。

 もう私が何を言いたいかはわかるね。

 つまり、賢者の石があれば、金属を自由に溶かし、混ぜ、そして整形することができる。

 そしてその先に待つのは、『最強の武器』、その存在なんだよ」


「だから賢者の石が欲しいんですね」


 鉄から金が作れなくても、不老不死の薬が作れなくても。

 これは、本当に夢のような話なのだ。


「だからこそ、君たちにはやってもらいたい。

 賢者の石を・・・。

 作って欲しいんだ!」


「いやいや!

 無理でしょ!!」


 とんでもないことを突如として言い放ったエミュ先輩。

 作るって、あんた。

 あたまだいじょぶかなぁ?


「普通は、『探してきて』、じゃないんですか?」


「存在しないものは探せないね。

 それに君たち2人だけで作れ、とは言ってない。

 この研究院の人たちに協力を依頼して、彼らとともに作って欲しい。

 もちろん、その中には私も含まれる」


「そんな簡単に言いますけど」


「この錬金術の分野で、最先端を走っているのは魔導工学専攻のクリクラ教授。

 まずは彼女に話を聞いてみて欲しいんだ」


「自分で聞けばいいじゃないですか」


「だって教えてくれないんだもん。

 こんなに敬愛してるのに。

 なかなか私の愛が伝わらないんだ」


「愛ですか」


「みんなで作ろう、賢者の石!

 みんなで作ろう、賢者の石!

 ほら、エレナも早く言って!」


 なんかテンションがおかし高くなった先輩に、今は付き合うしかないようだ。


「賢者の石〜、おー」


 私は軽く右手を突き上げて、ヘラヘラと笑った。

 その隣でノムがちょこんと右手を上げていた。

 かわいい。


「んじゃあ、次の不思議ね」


「先輩、マイペースっすね」


「5つ目の不思議。

 それは、『学院地下の大迷宮』さ」


「学院の地下になんかあるんですね」


「ただし何があるかはわからない。

 存在は確かだけど、入り口が封鎖されているんだよ。

 危険だ、っていってね」


「崩落しそうなんですか?」


「魔物がいるんだよ」


「ダメでしょ。

 突然地下から魔物が湧き出してくるんじゃないですか、学院内に」


「それはないよ。

 過去の経験上はね。

 この学院は月の女王の時代に建築され、それを改築改築して維持されてきたものなんだ。

 そのころから地下空間は存在したと言われている。

 でも本日まで、何かしらの事案が発生したという痕跡は残っていない。

 ・・・。

 なんの理由で地下空間を作ったのか。

 なんで魔物がいるのか。

 全てが謎。

 まさに不思議だろ」


「もしかして、この地下迷宮を調査しろとかいわないですよね」


「いうよ」


「でしょうね!」


「大丈夫。私もいっしょにいくから」


「先輩、私より弱いじゃないですか」


「ホエールも強制連行するよ〜」


「いやだよぉ」


 エミュ先輩が、ホエール先輩の腕を掴んでブンブンと上下させた。

 ホエール先輩はされるがままだ。

 仲睦なかむつまじいことで。


「でもさ。

 もし本当に危ないんなら。

 この街に魔物が溢れ出す、そんな可能性があるとしたらだよ。

 ・・・。

 この学院の教授達が、きっと力を貸してくれるはずだって、私はそう思う。

 だから、大丈夫だよ」


 その理屈には賛同を示したい。

 たしかに、それならば死の可能性を大きく低減できそうだ。

 研究、忙しい、無理。

 という単語達も脳内に浮かびましたがね。


 この話はここで終わりなようだ。

 さあ、次の不思議はなんでしょうね。






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