課外1:喫茶世界樹と学院七不思議 (1)
『この街にある、いろんな料理屋さんに行ってみたいね』
そんな女子力の高い会話を交わしながら、私たちは街を散策。
フォークとナイフが仲良く並ぶかわいい看板が掛かっているお洒落な外装のお店を発見。
見事、当たりくじを引き当てた。
お腹を満たしたのち、宿屋へ。
回転合成習得修行によりもたらされた、肉体的かつ魔力的な疲労もあり、ぐっすりと眠れるであろう。
『おやすみ、ノム』
相部屋の彼女に声をかけ、寝室の明かりを消す。
そして。
魔法学校1日目が終わった。
*****
次の日。
魔法学校2日目が始まる。
ぁぁあらなかった~。
残念、休講日でした。
簡単にまとめると、教授が忙しいのだ。
そんな毎日毎日、私達のために時間をとってもらえる訳じゃあない。
昨日、サイトゥ教官から次の講義の開催日の連絡を受けていた。
次講は2日後。
昨日の時点で、2日後。
1日過ぎて、今日の時点では、1日後、明日。
教官からの説明は、もう1点。
講義は、おおよそ2日に1講義のペースになるらしい。
故に、私たちは、空いた時間を何に使うかを考える必要があるのだ。
では、ここで問題です。
私達が休講日に、最初にやりたかったこととは、なんでしょうか?
考え中・・・
考え中・・・
考え中・・・
終わり。
正解はこちら。
「ハローハロー」
そんなバカっぽかわいい挨拶で登場したのは、鎖骨麗しきエミュ先輩。
そして鎖骨を追いかけるように、モノクル・ホエール先輩もやってきた。
「御足労頂き、誠にありがたく思いますよぉ」
私は、丁寧さとフレンドリーさを兼ね備えた謝辞を述べる。
そう。
昨日は聞けなかった、学園についてのアレやコレを、めいいっぱい、思う存分に質問し、モヤっとした気持ちを解消するためにお呼び立てしていたのだ。
ノムも軽くお辞儀をし、感謝の念を伝えようとしている。
ここで話題を変えさせてください。
今、エレナ、ノム、エミュ、ホエールが集まったこの場所。
ここは『喫茶世界樹』という名前の、瀟洒なカフェ。
エミュ先輩の行き付けらしく、おしゃべりの場として指定されたのだ。
大都会の中に存在する癒しの空間。
至るところに配置された緑鮮やかな観葉植物が、窓から差し込む光に当たり、光合成をせんかのように温かく光る。
太陽光が葉っぱ、枝、幹に遮られ、床、壁に到達し、シルエットを生み出す。
光と影のコントラスト。
店内を見渡すと、コーヒーカップからふわりふわりと湯気が立ち上ぼる。
その席に座っているご婦人は、厚手の書籍を重そうに持ちながらも、本の世界へ完全に没入しているようであった。
数日後、自分も、彼女とおおよそ同様の状態に陥るだろう。
現時点までの短い時間で、私はすっかりこのお店のファンになってしまっていた。
4人掛けのテーブル席。
ウッドのデスクと茶革のソファー。
先着していたエレナノムに向かい合う形で、エミュ先輩とホエール先輩が腰かける。
するとすぐに、ウエイトレスさんがやってきた。
歳は、同い年くらいかな?
ピンク色の長い髪。
左横の髪を、碧色の石が付いた髪止めでまとめて流している。
白と黒を基調としたお洒落でかわいい制服。
黒いネクタイがポイント。
そんなかわいい彼女が、単価ゼロの営業スマイルを見せてくれる。
ほんと、いい店だな、ここ。
「ご注文を承ります」
じゃあ、そのウサギさん!
非売品です。
店員さんが差し出してくれたメニュー表をテーブルの中央に置き、みなで眺める。
と思ったら、エミュ先輩はそれを見るそぶりなく即答した。
「私は、コーヒーホット。
砂糖とミルクはいらないよー。
あと、おまかせクッキー4人分」
なるほど、彼女はここの常連だった。
「僕はカフェオレ、砂糖多めで」
「私も、彼とおんなじで」
最後の注文をしたのはノム。
彼女は甘党なのです。
ちなみに、私は牛乳があんまり好きじゃないのでした。
「私はエミュ先輩とおんなじで、お願いします」
注文が終わると、ウエイトレスさんは一旦奥に消え、そしてすぐにドリンクとクッキーを持ってきてくれた。
みんなが一口づつコーヒーを口につける。
ノムは先ほど見損ねたメニュー表を閲覧しだした。
私も後で見たい。
さて、本題に戻ろう。
今日の目的。
学園について教えてもらう、だ。
しかし途中でエミュ先輩が『いっけねぇ、用事思い出した、メンゴ』とか言い出すかもしれない。
重要なの事から順番に聞いていきたいところだ。
そこで私は作戦を考えてきていた。
「エミュ先輩、早速ではありますが。
先輩がこの学院について『一番重要』だと思うことについて教えていただけませんか?」
「ふふっ、いい質問だね。
ならば、刮耳して聴くがよい!
そう、それは。
クレセンティア魔術研究院・・・。
『学院七不思議』だ!」
・・・。
これ、ダメなやつだぁ!
先輩、それ後でいいやつです。
そんなことは言えるはずもなく。
先輩はもう話す気まんまんだ。
まあ確かに、これはこれで興味ありますし。
そして、エミュ先輩は左の鎖骨を人差し指でクリクリしながら話始めた。
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