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「お父ぅ、話があるんじゃが」


「なんじゃ、あらたまって」


「お父ぅ、姉ちゃんはお父ぅとお母ぁの実の娘じゃないんじゃな?」


「お前、それをどこで聞いた?」


「お父ぅとお母ぁが話してるのを聞いたんじゃ。」


「ふむ……それで?」


「わしゃお姉ちゃんを嫁にする。お姉ちゃんも嫁にな

 る言うただ。」


「お前、何を言うだ。」


 父親は突然怒り出した。


「あの娘は、どこの誰ともわからん卑しい瞽女の娘じゃぞ。父親が誰かもわからんのじゃぞ。わしゃ、許さん。絶対に許さん」


「だけんど、死んだ婆様は我が子と同じように扱えと言うとったんじゃろ?」


「婆様はもう死んだんじゃ。今はわしがこの家の主じゃわい。ならん。絶対にならん。うちは立派な庄屋なんじゃ、そんな格好の悪いことが出来るかい。」


「お父う、今じゃそうかも知れんが、昔はうちもただの百姓じゃったんじゃろ?姉ちゃんが生まれてからこんなに立派になったんじゃ。良く考えてくれ。姉ちゃんは福の神じゃぞ?粗末に扱こうてどうするんじゃ?お父うが反対しても、わしゃ姉ちゃんを嫁にするぞ」


「駄目じゃ。わしゃ絶対に許さん」


 父親はそう言って部屋を出て行ってしまいました。


「お前な……私がお父うを説得するだで、もう少し待っとれや」


 お母ぁがそう言いましたが、弟は暗い目をして部屋を出て行きその足で姉の部屋へ行きました。


「姉ちゃん、お父うに話したが、反対されたわい」


「そうか……」


「お父うも変じゃ。あんなに怒る事はないと思うんじゃがな」


 姉は、最近のお父うの自分を見る目がおかしいのを思い、弟に言おうと思いましたが言わずに口をつぐんでしまいました。


「姉ちゃん、いつでも出て行けるように、荷物をまとめといてくれ」


「それはええが、この家を出てどこへ行くつもりじゃ?」


「まだ、決めとらん。じゃが、用意だけはしといてくれ」


「わかった」


 次の日、家の者が誰もいない時にお父うが姉の部屋にやって来ました。


「お前、弟の嫁になると言うたはほんとか?」


「ああ、本当じゃ」


「だめじゃ、わしゃ許さんぞ。お前は父親が誰とも分からん瞽女の子じゃ。育ててもらった恩も忘れおって弟をたぶらかすとは、この恩知らずが」


 お父うは姉の頬を叩きました。


 その時のお父うの目が血走っているのが怖くて、姉は部屋の隅に後ずさりしました。


 お父うは姉をじっと見ていましたが、割れた裾から白い太股が覗いているのを見ると、いきなり姉に襲いかかりました。


「お父う、何するだ!」


 胸の合わせをはだけさせようとするお父うの手を、姉は必死で押さえました。


「お前は弟になんぞやらん。わしのものになるんじゃ」


 か弱い姉の力ではお父うの手を押さえきれず、胸ははだけて白い乳房が揉みしだかれました。


「お父う嫌じゃ!止めてくれ!」


 その時玄関で、外出していたお母あが帰って来た声がしました。


 お父うは舌打ちをしながら


「ええか、弟のことは諦めろ」


 そう言って部屋を出ていきました。


 姉は弟に相談しようかと思いましたが、それもできずにただ泣いているばかりでした。


 それから数日後のある朝、お父うが姉の部屋にやってきました。


「昼からわしと一緒に、知り合いの家に行くだで、荷物をまとめとけや」


「お父う、どこ行くだか?」


「お前の嫁ぎ先が決まったが、この家からは嫁に出してはやれん。じゃから、わしの知り合いの家から嫁ぐことにするんじゃ。嫌とは言わさん。弟には黙っとけや」


 お父うはそう言って出て行きましたが、それはお母あや弟への建前で、本当は姉を別の家へ移す為でした。


 そして、後からすぐに弟が入ってきました。


「姉ちゃん、聞いたぞ。今すぐここを出ていこう。おらの荷物は持ってきただ」


「どうするだ?」


「出てから話す。今ちょうど、お母あもお父うもおらん。今のうちじゃ」


 そして二人は、手に手を取って家を出ました。


「お前、どこへいくんじゃ?」


「あの山を越えて行く。そこから近くの所に死んだ婆様の仲のええ友達がおるんじゃが、お父うは知らん筈じゃ。まだ婆様が生きておる時にな、何かあればその人を頼るがええと言うとった。その人にはもう話してある」


「そうじゃったか。婆様は賢い人じゃったから、こんなこともあろうかと思っとったんかいの」


「そうかもしれん。お父うには言うなと言うとったからの」 


季節は冬でした。


 朝からうす曇だった空が、二人が山へ差し掛かる頃には黒い雲が出て、重たくのしかかってきました。


「姉ちゃん、急ごう。雪になるかも知れん」


 二人はそう言って山道を急ぎましたが、中腹に来た頃には、吹雪いて歩くのがままならなくなってきました。


「姉ちゃん、駄目じゃ。あそこに洞穴がある。あそこへ入ろう」


 二人は洞穴へ入り、疲れた体を休めてほっと一息入れました。


 思い合う二人を引き裂こうとするしがらみから抜け出した事と、これから二人で生きていく喜びとで二人の気持ちは浮き立っていました。


そして弟が持ってきたお握りを、仲良く食べ始めました。


二人は小さい頃の思い出や、楽しかったことを笑いながら話しました。


 雪は、益々激しくなってきました。


 二人は、抱き合ってそのまま眠ってしまいました。

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