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 信州のある山の中に、ちょっと変わった不思議なお地蔵様があったと言います。


 それは無垢の木で丁寧に彫られたもので、男女が抱き合って立っているというものでした。


 そのお地蔵様を見た人はまるで生きている様に見えたと云います。


 これは、そのお地蔵様にまつわるお話です。




 昔ある村に子供のいない夫婦とお婆さんが三人で暮らしていました。


 お婆さんと亡くなったお爺さんがまだ若い頃にはとても貧乏でしたが、二人が一生懸命働いたので、今では食べるには困らない程の田畑を持っていました。


 若い頃から苦労をしたお婆さんは、人の痛みの分かるとても優しい人で、村人からも慕われていましたが、息子夫婦はそんなお婆さんに『人の世話を焼きすぎる』と言っていました。


 そういう時お婆さんは決まってこう言うのでした。


「他人様は鏡に映る自分の姿じゃと思うて敬い、大切に扱うのじゃぞ」


 しかし息子夫婦にはその言葉の意味は分からないようでした。


 この三人にはさしたる悩みは無かったのですが、息子夫婦にどうしても子供が出来ず、お婆さんも『はよぅ孫の顔が見たい』と常々言っていました。


 そんなある日、一人の瞽女が門の前に倒れていました。


 よく見るとその瞽女は大きなお腹をしていて、俄かに産気づいたらしく、お婆さんはその瞽女を家の中に入れて介抱し産婆を呼んでやりました。


 そして瞽女は可愛い女の赤ん坊を産みました。


 しかし瞽女の体は子供を生むのが精一杯だったらしく、女の子を産んですぐに死んでしまいました。


 瞽女が死ぬ前にお婆さんは『自分の家には子供がおらんから、この子は我が家で育ててやる』と瞽女に言いました。


 瞽女は大層喜んで『このご恩は忘れません。必ずご恩返しします』と言って亡くなりました。


 お婆さんは瞽女を手厚く葬ってやりました。


 そして残った赤ん坊を、息子夫婦と三人で育てていきました。


 赤ん坊はよく笑う明るい子で、今までどことなく寂しかった家が明るくなりました。


 お婆さんと息子夫婦も喜んで『めんこい子じゃ』と言って可愛がって育てていました。


 そんな時、連れ合いを亡くした隣の家の婆さんが『都に居る息子夫婦の世話になるので、僅かばかりの田んぼじゃが買って欲しい』と言って来ました。


 お婆さんはお金を工面してその田んぼを買ってやりました。


 その田んぼは今まで手入れをしていなかった為荒れていましたが、手を入れてやると不思議と作物がよく実り、その頃から他の田畑にも作物が良く実るようになり、家は段々と裕福になっていきました。


 お婆さんは赤ん坊に『これもお前のかかさんの恩返しかもしれんのぉ』と話しかけていました。


 そして一年後に息子夫婦に赤ん坊が出来ました。


 生まれた子は男の子で、家は益々賑やかになっていきました。


 お婆さんと息子夫婦は、自分たちの子が生まれても女の子と自分の子を分け隔てすることなく、兄弟として育てていきました。


 兄弟はとても仲がよく、いつも一緒に遊んでいました。


 二人はすくすくと育ち、やがて十六歳と十五歳のとても美しい娘と、立派な若者になりました。


 家も庄屋と呼ばれる程の立派な家になっていました。


 そしてその年にお婆さんが天寿を全うして亡くなりました。


 死ぬ前にお婆さんは枕元に娘を呼んで、本当の母親の事を言いました。


 お婆さんは、『我が家が裕福になったのもお前のかか様のお蔭じゃから、本当の娘ではないことを気にせんでもええ』と言いました。


 娘はとても驚きましたが、お婆さんの手を取って泣きながら感謝しました。


 お婆さんが亡くなった次の年、息子夫婦に今度は女の子が生まれました。


 兄弟は年の離れた妹が出来たことを喜び、とても可愛がりました。


 しかし優しいお婆さんが亡くなり、家も立派になった為か、女の子が生まれてから息子夫婦の姉に対する態度が変わってきました。

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