クリスマスには特別な何かを
クリスマスに一日遅れました・・・
幸せは、いつもどこかに。
「ふーふふんふーん♪」
私は今、気分がいいのです!
なんたって今日はクリスマスイヴなんですよ?
みんなで集まって、チキンを食べて、それでそれで、
なんと、ケーキまで食べられるのです!
誕生日の時以外にはまず食べられないあの素晴らしい食べ物が!
私はこの日のために生きてきたといっても過言ではありません!
と、思っていたのですが・・・
「ごめんね、今日は仕事が入っちゃって。夜はお兄ちゃんと二人で食べてね。」
朝ごはんのとき、お母さんにそう言われたのです。
ショックです・・・
せっかく家族みんなで食べられると思ったのに・・・
そしたら兄まで、
「俺?今夜は彼女とデートあるから。お前と違うから。」
と言ってきたのです!
ひどいです、こんな兄だったなんて!
というのはジョークですが。兄らしいです、仕方ないです。
でも、本当は兄がいてくれたら、少しはましだったのに。
むぅ。
というか、何が私と違うのでしょう。わかりません。
午前中はぼーっとして過ごして、午後になりました。
私は何もすることがないので、街に出かけることにしました。
いつも歩いている道をゆっくりと歩いていきます。
今日はぴっかぴかの太陽が、空に浮かんでいます。
私は嬉しくて、マフラーのはしっこをくるくる回します。
サンタクロースも雪が降っていないから、きっと笑顔になっていると思います。
「りーちゃん、メリクリー。」
あ、友達の冬奈ちゃんです。
「とーちゃん、メリークリースマース!」
「いつまでその呼び方するの・・・」
「いーじゃん、ほんとにお父さんみたいなんだから。」
冬奈ちゃんは父親力がたかいんです。本当に頼りになります。
「で、なんでこんなとこにいるの。」
「暇だからです!」
「威張るな。私は買い物に来てたの。」
「私は暇だから来ました!」
「さっき聞いたから。それならあんたも来る?」
おお。
「誘ってくれるとは珍しいですねぇ。」
「うるさい。で、くるの、来ないの。」
冬奈ちゃんが来てほしそうにしてるので、ついていくことにしました。
冬奈ちゃんが行こうとしているのは、ケーキ屋さんというお店でした。
そこに、ケーキを買いに行くそうです。
ケーキだけのお店、どういうお店なんでしょうか。わくわく!
というか、もしかして・・・
「とーちゃん、実は大食い?」
「なんでそうなった?」
「だって、ケーキを一人で食べるんだよ。」
あんな大きい食べ物を一人で食べるなんて驚きです。
「あー、何となくわかった。」
?
「まあ、中に入れば分かるって。」
何が分かるのでしょうか。冬奈ちゃんの大食いぐあいでしょうか。
冬奈ちゃんと一緒にケーキ屋に入ります。
すると、そこにはとても魅力的な世界が広がっていたのです!
あたり一面、ケーキ、ケーキ、ケーキ!
こんな光景、見たことがありません!
「すごい、すごいよ!冬奈ちゃん!ケーキがこんなにいっぱい!」
「ちょっと、恥ずかしいから静かにしてよ。・・というか今冬奈って言わなかった?」
「早く見に行こう、とーちゃん!」
「ねぇ、なんで戻したの?て、ちょっ、引っ張らなくていいから!」
「知らなかった。ケーキって小さいのもあるんだね。」
「なんで知らなかったんだか。まあ、折角来たんだから買っていったら。」
透明な棚に並んでいるケーキ達は、皆がきらきらしています。
ショートケーキ、チョコレートケーキ、モンブラン、スフレ、
小さなケーキ達もあれば、大きいケーキもあって、どれも美味しそうです。
「ケーキだけじゃなくて、色んなお菓子も売ってるからね。」
ケーキ以外?クッキーとかチョコレートとか、ふがしとかもあるんですか!
「まるで駄菓子屋さんのお兄さんみたい!」
「あ、ふがしは置いてないと思うよ。」
がっかりです・・・
「これと、これと、これと、これください。」
冬奈ちゃんは、ニコニコ顔のお姉さんに次々とケーキを頼んでいきます。
「やっぱり大食いじゃない。」
「違う。家族の分も入ってる。」
なるほど。流石冬奈ちゃんです。
「でも、一つ多い気がするよ。」
冬奈ちゃんは三人家族です。
「うるさい。りーちゃんも買ってけば。」
私、ですか?確かに、今持ってるお金だと充分買えるお値段です。二つもケーキを買えます。
「ど、れ、に、し、よ、う、か、な、」
「普通に選んだら?」
「だって、どれも美味しそうなんだよ!」
むー。なかなか決まりません。
その時、あることを思い付きました。名案です!
「これと、これください!」
早速、さっきからずっと笑顔なお姉さんにケーキを頼みました。
ケーキ屋の帰り道。
「りーちゃん、それでいいの?」
「いーの!もう決めたことなの!」
「ま、いいんじゃない。じゃ、またね。」
「よいお年をー!」
「早くない?」
「明後日の約束忘れないでね!」
「いや、やっぱり早くない?」
「なにが?」
「いや、だいじょーぶ。忘れないよ。」
「わかった、またねー!」
「またね。」
家に着いたら、早速行動です!
ケーキは冷蔵庫に入れて、自分の机にダッシュ!
確か、机の中の、奥の方に、・・・
これをダイニングのテーブルの上に置いて、
準備かんりょーです!
これで二人が帰ってきたら、ふふふ。
二人が帰ってくるのが楽しみです!
夜ご飯もとっくに食べ終えて、もう夜遅くです。
二人はまだ帰って来ません。
「仕事、まだ終わらないのかな・・・」
「兄はいつ帰ってくるのかな・・・」
クリスマスなのに、悲しい気分になってしまっています。
かちっ、という音が聴こえて、時計を見ました。
11の所に、短い針が止まっていました。
急に眠気が襲ってきます。
ふらふらと歩きながら、用意しておいた布団に入りました。
そのまま、ぼーっとして・・・
ここはどこでしょう。よくわかりませんでした。
見たことがない部屋に、私はいました。
目の前にお母さんとお兄ちゃんがいます。
「えっ。」
驚いて声が出ました。やっと帰ってきたのでしょうか。
「どうしたの。パーティーの準備、出来てるわよ。」
お母さんが優しげな声で言いました。
「早くこいよ。パーティーするんだろ。」
兄が、優しげな顔でそう言いました。
二人に手をひかれて、よろけながら歩きます。
そこには、ごちそうがありました。
大きなチキン、大きなケーキ、他にも美味しそうな食べ物がいっぱいテーブルの上にのっていました。
「りいちゃん、あなたの為にこんなに買って来たからね。」
「俺も、りいの為に服を買って来たぞ。」
兄が、私に包みを渡してきました。
そこには、私が前から欲しがっていた、ワンピースが入っていました。
「さあ、りいちゃん、一緒に食べましょう。」
「りい、早速着てみてくれよ。絶対似合うって。」
二人は、笑顔でこちらを見てきます。
違う。
違う。
「違う!」
「一人で私達を育てるために、クリスマスまで働いてるお母さんは、こんなことしない!」
「彼女の為に必死になってバイトしたりしている兄が、そんなことをする余裕なんてない!」
「そんな、今日は特別なのよ。」
「俺が彼女だけの為にしたとは限らないだろ。」
「二人はそんなこと言わない!そんな顔はしない!」
二人の、気味の悪い笑顔に向けて、はっきりと言いました。
「あなたたち、誰!」
ぱきっ。
ぱりん。
世界が、砕けました。
一瞬で、砂のように流れて、飛んでいきます。
そして、何も見えなくなりました。
私は気付きました。
これは、サンタクロースが私にくれた夢だったのです。
朝の私の想いに、応えてくれたのです。
でも、それはあくまで夢、でした。
「ありがとう、サンタクロース。でも、私は大丈夫。他のこどもの所に行ってあげて。」
私の後ろで、誰かが笑った、そんな気がしました。
「ん・・・」
朝、です。
不思議な夢を見た気がします。どんな夢だったのかははっきりと思い出せません。
幸せな、夢だったようにも思えます。
考えてもどうにもならないので、布団から出ることにしました。
かさっ。
聞き慣れない音がしました。
手元を見ると、小さな包みが二つ、置いてありました。
もしかして・・・
一つ目を開くと、かわいいポーチが入っていました。私の好きな色です。
二つ目を開くと、ふがしが何個か入っていました。
しかも、それぞれに手紙がついていました。
私はそれらを読みます。
ダダダ・・・バン!
「お母さん、兄、おはよう!」
居間の扉を開けて、大声で言いました。
「あら、おはよう、りいちゃん。」
お母さんは朝ごはんの準備をしながら、優しい声で言いました。
「朝からうるせえな。」
兄はいつも通りです。
私は、ありったけの気持ちを込めて、言います。
「メリークリースマース!そして、ありがとう!」
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。