修学旅行
今日は修学旅行だ、周りの生徒は皆これからの班行動に胸を踊らせている。(これが一人行動だったら俺も喜ぶんだけどな)などと思いつつ俺こと緋乃坂彼方は憂いていた。
もちろん前述の通りなのもあるが人選も問題だ、なにせこのクラス…いや学校としてもいいな、この学校のトップカーストに位置するやつら4人が一緒の班なのだ。
一見して羨ましそうに見えるがその4人で一つの世界が創られており、入る隙間などないなら実質的にひとり旅できるじゃないかと思ったが、その創作された世界は俺の静かなるひとり旅をことごとく邪魔するのだ
(まったく…勘弁してくれ)
「ねぇ!冬人君このおっちゃんキーホルダーどう?」
「…色々な意味で流石だな春香、確かにそれもいいがこのペンダントもなかなか可愛いぞ」
などと二人の世界を創っているのはクラスのアイドル
東春香と北上冬人だ。
俺は既に静かなるひとり旅を諦め観察モードに移行している
春香は天然かつ天才の美しいお嬢様といった雰囲気を持っている奴だ、一言二言喋ったことはあるが感想は…
まぁ天使かな
冬人はアイドル系イケメンだ、Hey! Say! JUM〇とかにいそうな感じである…と言っても俺はそのHey! Say! JU〇P
を詳しく知らないんだけどな。彼は球技の天才児もちろんサッカー部に所属、この間の試合でひとりではっととりっくとやらを決めたらしい。
二人は付き合っておりなかなか良好な関係と言えるだろう
(とりあえずイケメン死ね)
「ねぇ秋道」
「どうした?夏目」
「これ…どう?」
「唐揚げのストラップか…お前らしくていいんじゃないか?」
などと無味乾燥な会話で世界を創っているのは
西野秋道、南夏目カップルだ。
秋道はクール系イケメンで成績優秀、運動神経抜群の完璧超人だ、まぁ欠点を上げるならあがり症ということだろうか。夏目や、春香以外の女の子と喋るとテンプレのコミュ症が見れるので、なかなか面白いヤツである。
南夏目は無口かつアホの子、柔道部に所属しておりこの間関東大会に出場した実力者、
私が秋道を守る、と豪語しており立場が逆じゃないかと、テンプレのツッコミをせざるを得ない。
注意事項があるとすれば彼女の食べ物をふざけだったり冗談でも盗る素振りを見せてはいけないことだろうか
(俺もリア充になりたいよ)
こんなふうにして修学旅行は終わるはずだった
突如として丸い円が描かれその範囲内が青く輝き出す
声を上げる間もなく目の前の4人が消えた
「は?」
そして俺の意識は遠のいていった。
そういえば創られた世界は一つじゃなくて
二つだったなと、どうでもいい感想とともに…。
カンッ…カンッと何かを打つ音がする
(う…ん?な、なんだこの音)
「はっ!なんだここ!?」
落ち着いて周囲を確認してみると、火山しかない
恐らくこの山も火山なのだろう、しかも一際大きい火山だ、にもかかわらず暑くもないし、熱くもない不思議と快適な温度になっている…何より一番気になるのは…「扉…?」
俺の後には扉があった、とても簡素なものだ。
「どうしてこんなところに?俺はここから出てきたのか?」
扉を覗いてみる
「うわぁ…何これ真っ暗じゃん…」
そこには暗闇が広がっており、扉の先に行くのを躊躇わせた。
(そういえば音がするな…一定間隔に鳴ってるから恐らく人が存在している…かも?)
という淡い期待を持ちつつ、音のなる方へ歩みを進めていく。
(つか、あの扉はなんだ?後ろに建物ないし空中に浮かんでるし訳が分からん、それに周り火山だけなのに驚きの快適さだ、汗一つ流れちゃいない。こんな現象聞いたことないぞ…)
(これは…まさか異世界召喚…というやつだろうか)
なんて突拍子もない考えが浮かぶ、が、その可能性を否定し切れる情報もないことに気がついた。
とりあえずほかの可能性も浮かばないので、異世界召喚されたと考えておこう。
(どうか会う人がいい人でありますように)
という願いを込めつつ歩みを進めた
「ふぅ…おお、客人か。改めてようこそ私の世界に…と言っても出来たばかりなのだがね」
そこにいたのは真っ赤な長い髪をした長身の女だった。
その女の周りは大量の刀で埋め尽くされている
どうやら刀鍛冶の方らしい。
(こんな場所で刀を打ってるのか…変わった人だ…でもなんだろう、殺伐としている中の一輪の花と言えばいいのだろうか、綺麗な人だ)
「あまりおだてても何も出ないぞ客人」
「え?俺なんか言いましたっけ?」
「心で呟いたじゃないか」
「えっ?…もしかして心読めるんですか?」
「ある程度はな、読めるぞ客人」
(滅多のこと思えないな、こりゃ)
「まぁまぁ、完璧に読めるわけでもない、気楽にしてくれ客人」
「と言ってもね…なかなか厳しいですよ…まぁ分かりました、気楽に行ってみます」
(心が読めるって強すぎだろ…ん?待てよ、心が読めるということは…俺の異世界召喚された説と組み合わせると…神様!?でもテンプレの状況とは間違っても言えないし…どうなってるんだ?)
「そうしてくれるとありがたい…あ、そうだ客人と呼び続けるのも忍びない、名前を教えてくれないか?」
「名前…ですか?緋乃坂彼方です…」
「彼方か、いい名前じゃないか。…さて、それじゃあ君の疑問に答えようか、彼方君。」
「(また読まれたか…)はい…お願いします。」
「受け入れるのが早いな。単刀直入に言うと私は神だ」
「はい」
「そして君は、理から外れた」
「…はい?」
(理から外れた…?)
「通称、理外者、と呼ばれるものになったんだよ、彼方君は」
「理外者…ですか?」
「と言っても実態は、不明だ、分かっているのは
不死身ということ
異世界と異世界を行き来できるということ
発生原因は、異世界召喚に巻き込まれる
ということだ、何故不死身なのか、何故異世界と異世界を行き来できるのか、それは不明だ…そう考えると君は実に運がいいよ」
「何故でしょう…?」
「巻き込まれて理外者になった人が、自分は理外者だと絶対に気付けないし、理外者と分からなくても、不死身であることに調子に乗ったり、異世界を気ままに行き来してると…神から抹殺されるからね。」
「え…?」
(俺殺される?でも不死身って…?)
「あぁ色々説明不足だったな、不死身といえども魂を消せば死ぬ…というよりは消滅する。それに抹殺されるような奴はかなりの素行の悪さだ、何の悪さもせずに行き来する分には、抹殺されはしない…過激派にさえ見つからなければな。」
「色々気になる単語はありますが…とりあえずこの説明してもらえる状況そのものが運がいいということですね。」
(過激派ってなんだよ…怖いなぁ…てか俺不死身なの?まじ?え?異世界行き来できるの?旅出来んじゃん!!)
「…まぁそういうことだ、…少しは落ち着け彼方君。して、過激派なのだが、これはそんなにいないから安心して構わない。」
「なぜ少ないんですか?」
「理外者とは言っても、我々の子である事は変わりない、好き好んで自分の子供たちを殺める神はいないさ。それに魂は基本的には輪廻する、それを消滅させてしまうのも色々と問題なんだよ。過激派の神は大体自分の創った世界を溺愛している、不純物が入ったらブチ切れるくらいにはね。」
「その不純物が、理外者ということですね?」
「そうゆうこと」
(つまり異世界でやらかさず、過激派の神が創った世界に行かなければ何も問題ないということか)
「そういえばまだこちらの名前を言ってなかったね」
「…確かにそうですね」
「私の名前は…ラーナとしておこうか」
「なんか偽名の予感がしますが…よろしくお願いしますラーナ…様?」
「あはは、そうだね、様の方がいい」
「まぁ神様ですものね」
「そとうり」
その後、俺はラーナ様から色々なことを教わった
不死身についてはピンと来ないが、異世界への行き来が出来るというのはありがたい話だった。
元々旅が好きなのもあるし一石二鳥である。気を付けることが、扉の繋がった世界はランダム使用という事だけだったのもいい。
異世界に行く際身につけている物であれば持ち込み可能。
手持ちはアウトで、背負うのはセーフ…変だ。
言語に関しても特に問題ないらしい。これも理由は分からないらしいがラーナ様の曰く、「私の予想だが、理外者は理から外れたのではなく、別の理にハマってしまったのではないか?」ということだ。
しかし、理外者が出来ないこともある、それはーー
「その世界専用に作られた技能や、魔力が使えない?」
「簡単に言うと君は魔法が使えない、決して」
「そんな…」
「だから、君は 気 を使うことしか出来ない。気であれば元々君達の世界の人間なら誰しも持っているものだ」
「…つまり元々持っているものを成長させることしか出来ない…と?」
「そう、君は 気 を使った技能しか使えない」
「そんな…」
「大丈夫だよ、君達世界で 気 を使う技能はあまり発展していないようだが、鍛えればかなり有用なものだ。ここで出会えたのも何かの縁だし、客人に対して何のもてなしもないのも心苦しい、私が鍛えてあげよう」
「でも旅するのに力とか必要ありませんよね?理外者なら特に。」
「でも強くなれるというのは、憧れるだろう?」
「…確かに、弱いよりは強い方がいいですね」
「なら決まりだ。」
そうして俺はラーナ様に鍛えてもらった