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ホラー系

悪魔の手

作者: 牝牡蠣

これは俺が高校生の時の話だ。その頃ってなんだか無性に旅に行きたくならないか?俺はそんな感じで夏休みにどこか旅に行こうかと考えてたんだ。そしたら、友人のKがこんな話を持ってきた。それは田舎の博物館での短期のアルバイトだった。夏休みになると人手がほしいから臨時で人を雇いたいそうである。よく聞いたら賃金はまあ法外な安さだったが、Kの叔母がその博物館近くに住んでいて泊りはそこを使える。それに田舎の博物館なら人も来ないだろうし遊ぶ時間もあるだろうし、なにより田舎で泊まり込みなんてロマンスを感じて俺はアルバイトをすることにした。


その田舎はまでは都心(俺は都心にすんでいる)からKの母が出してくれた車で二時間半くらいだったか。俺たち二人は浮かれきっていた。もう楽しいことしか頭になかった。車が田舎に入っていくとそれはまあきれいな田園風景っていえばいいのかな、そんな感じだった。


まず俺たちは泊まるKの叔母の家に行った。ここはだいぶ大きな家だった、昔の映画で障子を取っ払って結婚式できるような広さの。Kの叔母は優しそうな人だった。その次に俺たちはKの叔母と一緒に博物館に行った。Kの叔母の家から歩い十分くらいだった。博物館に着くとそこはどこでもある郷土資料館みたいにこじんまりとしていた。入るとすぐに五十歳くらいの小太りの男が現れた。この人が館長のようだ。俺たちは館長に博物館を案内われた。十分ぐらいで終わった。その次に資料庫を見た。そこは奥行五メートル横三メートルぐらいで棚には結構いろいろなものが詰まっていた。そして入口の事務所に連れてかれ明日からの業務内容を聞かされた。その日はそれで終わった。


翌日から俺たちのアルバイトが始まった。まずガラスの窓ふきに始まり、パンフレットの折り込み、館内の点検、窓口受付、ガラスの窓ふき、繰り返し......だった。作業は難しくなかったが眠気との闘いだった。まあ仕事が終わってからの遊ぶ時間に体力が温存できるからいいが。


そんな感じで一週間経ったと思う。童心に帰って魚釣りもやったし虫取りもやったし自然薯掘りもやったし農業も手伝ったてみた。でも、一週間も経つと飽きてしまった。そこで俺たちは別の遊びを考えた。それは博物館の資料庫の中を見て回ることだった。よくわからん破片やら瓶のふたやら中にはどう見てもガラクタだろってものもあった。それを話しのネタにKと喋った。それも楽しかった。


だが、そんな中にそれはあった。


ある日だった。俺が窓口で受付をしてKが資料庫に面白いものを探しに行っていた。よく考えたら館長はこの時いなかった。なんでいてくれなかったんだろう。俺がぼーっとしてると資料庫のほうからKが来て面白いものをみつけたと言った。俺は人が来なさそうだからKについてくことにした。資料庫の一番奥のほうだったと思う。そこにKがいて、木箱を持っていた。その木箱はお札みたいのが貼られていて明らかにまずかった。こんなの怪談話でしか聞いたことなかったから俺もKも興味が湧いてきた。明らかにまずかったけど俺とKはお札をはがすことにした。


ここで本当に止めとけばよかった。今はそう思う。世の中には生半可に触れてはいけない世界がある。俺がこれを書くのはそれを知らせるためだ。どうか聞いてほしい。


そして俺たちはお札をはがした。そしてそっとの木箱を開けた。中身は白い布で包まれていた。俺たちはゆっくりそれを開いた。


そこには枝木みたいな変なものがあった。思い出すだけでも吐き気がする。そう、怪談によくでるサルの手みたいな......。そうだ、それは手だった。だがどこか不気味だった。ミイラみたいなのに艶があるような。とにかく気持ち悪かった。Kも同じだったらしい。それたちはその手を元の場所に戻した。


その夜から俺たちは体調が悪くなった。吐き気めまい頭痛全身の痛み発熱だるさ。そして俺は夢を見た。今でも覚えている。骨の髄まで染み込んでいる。俺は全面が赤と青で黒みがかったところにいる。その赤と青は俺の全身を覆い胃袋の中まで入ってくるかのように夢の中でも吐き気をもよおす。夢なのに実態感がある。とにかく気持ち悪いし苦しい。でも夢から覚めない。俺は動けない。体がだるい。俺のはるか向こうに黒い何かがいる。それは踊っているんだ。叫び声のような、高笑いをしながら。耳元で叫んでいるよう。気持ち悪い。本当に気持ち悪い。俺はそれを聞いてずっと吐き続ける、夢の中で。地獄の苦しみだった。


俺は目が覚めた。その時は夜中だった。Kの叔母の家で寝かされていた。俺はとにかく安堵した。あの悪夢から解放された!そんな気でいっぱいだった。隣に敷かれていた布団は空だった。俺が寝ていた部屋は一階で庭に面していた。俺はふいに庭をみた。夜中である。そこでKが踊っていた。奇声を上げて踊っていた。夢の中で黒い何かが踊っていた踊りと一緒だった。俺はKから目が離せなかった。なぜかはわからない。恐怖でもない。悲しみでもない。ただ見ていた。そして俺はKと目が合った。そして、Kが言った


「次はお前だかんなっ!」


Kは庭の柵を飛び越えてどこかに行ってしまった。その後起き出した俺を見てKの叔母はどこかに電話をした。そしたら田舎中の人がKの叔母の家に来た。そこには田舎の長?みたいな人もいた。博物館の館長はその長に怒鳴られていた。そして俺はどこからか来た住職?みたいな人にお祓いをされた。そのお払いの時に住職があの木箱を持っていた。俺は気が動転しそうだった。とにかく俺はお祓いを済ませすぐに田舎から出された。田舎にいたのは二週間ぐらいだった。


Kの消息は今だつかめていない。学校が始まってから担任がKは行方不明になりましたと言った時には俺は何とも言えない気持ちになった。


俺は今こうして文章を書いているのだが、Kの「次はお前だかんなっ」という言葉がふいに聞こえることがある。目の錯覚か黒い何かが視界の隅っこに見えるような気がする。考えすぎかもしれないが。これを経験して俺が言いたいことは一つ。決してやばいものには遊び半分で近づくな。一度魅入られたらきっと終わりだぞ。絶対に近づくな。俺はこいつと生きていくしかない。


今、窓際で黒い何かが俺のこと見てるんだ。

「次はお前だかんなっ!」


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